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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
11/98

11.もう、何が何だかわかりません!!

今回はちょっと短めです。

「あ、あの」


「何か?」



 ニッコリ微笑む、この笑顔に騙されてはいけないんだわ。

 こんなに寄り添うようにピッタリと異性が隣に座るのは、杉本和香だった時も満員電車に乗ったときくらいだ。

 それに、私はアレフ様の婚約者。

 さっきアレフ様自身もそうおっしゃっていたし、他の殿方と間違いがあってはならない。

 それなのに、どうしてこんなに胸がドキドキするの?

 不謹慎すぎるよ。



「あの」


「ああ。私の名前はマキシ。マキシ・フラガと申します。以後、お見知りおきを。お嬢様」



 彼は私の腕を押えるように掴んでいた手を放す。

 腕を放されたことで私は安心してホッとした。

 だから、少しでも離れようとマキシから目を一瞬逸らしてしまった。

 その一瞬の隙に、私は指先を持ち上げられてしまう。

 そっと、でも力強く。

 少しでも離れようとしていた私の体はバランスを崩し、自然とマキシに近寄っていく。

 倒れないようにと反対の手を付き体勢を整えた瞬間。



 マキシは指先に軽く口づけをした。



 え?! キ、キス? 


 体温が一気に上昇したんじゃないかと思った。

 触れられた指先に全神経が集中してしまったのか。

 キスの後も、指に触れるか触れないかギリギリにあるマキシの口許。

 微かにかかる息が艶めかしく、上目づかいに見つめてくる鳶色とびいろの瞳が怪しげな光を帯びている。



「え? あ、あの。私は、 その。わたくしはーー」


「はい」



 余裕がある表情をするマキシとは反対に、私は何も考えられず頭の中がぐるぐるして、片手では体勢を持ち直すことはできず、体もグラグラしていた。

 何か言わなきゃ。

 そうだ、さっき。



「わ、私は。り、リリアーナ・ベンフィカでございます」



 マキシはようやく私の手を口許から離した。



「リリアーナ様、とお呼びしてよろしいですか?」


「は、はい。そう、お呼びください」



 まだ手は握られていたが、若干気持ちに余裕が出てくる。

 ふと、握られている手とは逆の右手が視界に入った。

 そう言えば、さっき体を支えようとして、

 私の右手はマキシの胸辺りを押えていたのだ。



「ひゃっ!!」



 のけぞるような勢いで右手を離す。

 ああ、もう無理。

 マキシ様にぶつかるくらいならアームレストにぶつかる方がマシだわ。

 ガクンっと後ろに倒れかけた体は、背に回された腕に受け止められた。



「大丈夫ですか?」



 目の前に少し焦った表情をしたマキシ様の顔があった。

 すっぽりとマキシ様の腕の中に納まっている自分に気付く。

 背中に回された腕が動き、私の体がソファーの背もたれに支えられる。

 


「あ、あの。私、もう戻らないと」



 体に力が入らないのか、フラフラっと立ち上がる。

 


「かしこまりました。ご案内致します」



 マキシ様に手を引かれてカフェの入り口まで来る頃には、心も足元も落ち着いてきた。



「マキシ様。ここからは1人で大丈夫です。ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」



「いえ、私こそ少し冗談が過ぎたようです。申し訳ございません。」



 マキシ様は目を伏せて軽く頭を下げる。



「とんだ醜態を晒してしまいましたわ」


「醜態だなんて、とても可愛らしかったですよ。リリアーナ様」



 どうしちゃったの私、アレフ様がいるのに。



「もう、本当に冗談が過ぎます」



 少し頬を膨らませて視線を逸らすと、くっくっくと笑い声が漏れ聞こえた。



「また、お越しください。リリアーナ様。」


「王族ではないので、もう行けませんわ」



 カチャリ、音がしてドアが開く。



 「またいらしてください、リリアーナ様。ただし、この次は逃がしてあげませんよ」



 マキシ様は魅惑的な悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。



「ごきげんよう!」



 言い捨ててカフェから逃げるように飛び出した。

 まだドキドキしている。

 アレフ様とのことで落ち込んでいたのに……変よ。

 でも、不思議とアレフ様にエスコートを断られたことのショックは薄れている。

 自分のことなのによくわからない。

 歩いていると、授業が終わる鐘の音が聞こえた。

お読みいただきましてありがとうございます。

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