11.もう、何が何だかわかりません!!
今回はちょっと短めです。
「あ、あの」
「何か?」
ニッコリ微笑む、この笑顔に騙されてはいけないんだわ。
こんなに寄り添うようにピッタリと異性が隣に座るのは、杉本和香だった時も満員電車に乗ったときくらいだ。
それに、私はアレフ様の婚約者。
さっきアレフ様自身もそうおっしゃっていたし、他の殿方と間違いがあってはならない。
それなのに、どうしてこんなに胸がドキドキするの?
不謹慎すぎるよ。
「あの」
「ああ。私の名前はマキシ。マキシ・フラガと申します。以後、お見知りおきを。お嬢様」
彼は私の腕を押えるように掴んでいた手を放す。
腕を放されたことで私は安心してホッとした。
だから、少しでも離れようとマキシから目を一瞬逸らしてしまった。
その一瞬の隙に、私は指先を持ち上げられてしまう。
そっと、でも力強く。
少しでも離れようとしていた私の体はバランスを崩し、自然とマキシに近寄っていく。
倒れないようにと反対の手を付き体勢を整えた瞬間。
マキシは指先に軽く口づけをした。
え?! キ、キス?
体温が一気に上昇したんじゃないかと思った。
触れられた指先に全神経が集中してしまったのか。
キスの後も、指に触れるか触れないかギリギリにあるマキシの口許。
微かにかかる息が艶めかしく、上目づかいに見つめてくる鳶色の瞳が怪しげな光を帯びている。
「え? あ、あの。私は、 その。わたくしはーー」
「はい」
余裕がある表情をするマキシとは反対に、私は何も考えられず頭の中がぐるぐるして、片手では体勢を持ち直すことはできず、体もグラグラしていた。
何か言わなきゃ。
そうだ、さっき。
「わ、私は。り、リリアーナ・ベンフィカでございます」
マキシはようやく私の手を口許から離した。
「リリアーナ様、とお呼びしてよろしいですか?」
「は、はい。そう、お呼びください」
まだ手は握られていたが、若干気持ちに余裕が出てくる。
ふと、握られている手とは逆の右手が視界に入った。
そう言えば、さっき体を支えようとして、
私の右手はマキシの胸辺りを押えていたのだ。
「ひゃっ!!」
のけぞるような勢いで右手を離す。
ああ、もう無理。
マキシ様にぶつかるくらいならアームレストにぶつかる方がマシだわ。
ガクンっと後ろに倒れかけた体は、背に回された腕に受け止められた。
「大丈夫ですか?」
目の前に少し焦った表情をしたマキシ様の顔があった。
すっぽりとマキシ様の腕の中に納まっている自分に気付く。
背中に回された腕が動き、私の体がソファーの背もたれに支えられる。
「あ、あの。私、もう戻らないと」
体に力が入らないのか、フラフラっと立ち上がる。
「かしこまりました。ご案内致します」
マキシ様に手を引かれてカフェの入り口まで来る頃には、心も足元も落ち着いてきた。
「マキシ様。ここからは1人で大丈夫です。ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「いえ、私こそ少し冗談が過ぎたようです。申し訳ございません。」
マキシ様は目を伏せて軽く頭を下げる。
「とんだ醜態を晒してしまいましたわ」
「醜態だなんて、とても可愛らしかったですよ。リリアーナ様」
どうしちゃったの私、アレフ様がいるのに。
「もう、本当に冗談が過ぎます」
少し頬を膨らませて視線を逸らすと、くっくっくと笑い声が漏れ聞こえた。
「また、お越しください。リリアーナ様。」
「王族ではないので、もう行けませんわ」
カチャリ、音がしてドアが開く。
「またいらしてください、リリアーナ様。ただし、この次は逃がしてあげませんよ」
マキシ様は魅惑的な悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「ごきげんよう!」
言い捨ててカフェから逃げるように飛び出した。
まだドキドキしている。
アレフ様とのことで落ち込んでいたのに……変よ。
でも、不思議とアレフ様にエスコートを断られたことのショックは薄れている。
自分のことなのによくわからない。
歩いていると、授業が終わる鐘の音が聞こえた。
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