正義は勝つ、絶対勝つ
ボクは王宮騎士団のメンバー。名前はアリシア。18歳だ。
3か月後に迫った剣術大会のための練習に余念がない。
昨年はボクが優勝した。
2位は騎士団のコーディーだった。コーディーは今年こそ、なんとしても優勝したいと思っている。
「そうだ、魔法使いを雇って、アリシアに呪いをかけてやろう。イヒヒ」とコーディーが
策を仕掛けた。
ほどなくして、アリシアは呪いのため左腕がしびれるようになった。やがてマヒし始め、ほとんど動かなくなる。これでは両手剣は使えない。そしてマヒは左半身に広がった。
剣が使えないので、王宮騎士団から追放される。
「お許しくだせえ、お代官様」
「いいや、ならぬ、ならぬ。とっとと出て行け」
アリシアの家の前。夜更けに、なにやら呪文を唱えている男がいる。「火のないところに煙はたたず! 毛利元就、三本の矢! じゃなくて炎の矢!」家が火事になる。アリシアは母と二人暮らし。母親は逃げ遅れて焼け死んでしまう。
「母さん、母さん!」燃えさかる火の中に飛び込もうとするアリシアを、村の自衛消防団のメンバーが必死に引き留める。
アリシアは一文無しになってしまった。手元にあるのは命からがら持ち出した片手剣だけ。
アリシアは空腹に耐えきれず、パンを盗む。
左半身がマヒしているため、すぐに追いつかれ、取り押さえられる。
「アリシア、アリシアじゃないか」王宮騎士団で同期だったチェスターが声をかける。
「いったいどうしたんだ」
「実は、左半身がマヒしている。家も火事になり焼け出された。一文無しなんだ」
「パン代くらい、おれが代わりに払っておくよ」
「ありがとう、神さま、仏さま、チェスターさま」
アリシアは杖をついて病院へ行く。
この時代の病院は、医師が治すのではない。僧侶が治癒呪文を使って治すのであった。
「すみません、この列は病院の診察の列ですか」
「いいえ、BLC48の握手会の列ですよ」
「そうですか」
アリシアは病院の列に並び直す。
「次の方ー」
アリシアが呼ばれる。
「どうしました」
「実は左半身がマヒしているのです」
「それはお気の毒に。さっそく治癒呪文で治してあげましょう」
「お願いします」
僧侶が呪文を唱える。
「神の御名において、痛いの痛いの飛んでけー」
しかし、マヒは治らない。
「あれ? おかしいな。ちょっと、看護師さん」
「はい、魔法使いの看護師です」
「この人に『魔力感知』の魔法をかけてみてくれないか」
「がってん承知の助」魔法使いが呪文を唱える。「これは、呪いがかかっていますね。オプション料金で呪いをかけた人を見つけるのも可」
「ぜひ探してください!」アリシアは懇願した。
「わかりました。やってみましょう」魔法使いが「探索」の魔法で、呪いをかけた人物の正体を明らかにする。
「眠れよい子よー」
「それは『眠りの雲』の魔法でしょう」とアリシアが憤慨しながら言う。
「失礼失礼。では『探索』!」
「ってそのままじゃないですか」
「結果が出ました。イーノスという魔法使いですね」
「では、『解呪』の呪文で呪いを解きましょう」僧侶が言う。
「南無阿弥陀仏! 馬の耳に念仏! 親鸞! 悪人正機説!」
「あのー、ボク、悪人というわけではないんですけど」
「パンを盗んだではないか」
「ああ、そうでした」
僧侶に呪文を唱えてもらうと、左半身のマヒがなくなった。
「うそー、つけ置き洗いなしでピッカピカ、じゃなくてマヒがなくなった」
「では診察代を払っていただきます」
「それが、無一文なんです」
「冗談はよし子さん」
「いえ、本当です。家が火事になってしまい、命からがら逃げてきたんです」
「じゃあ、その水晶のペンダントを預かりましょう」僧侶はアリシアが身につけていたペンダントを指差した。
「これは母の形見なのですが……あとでお金を払ったら、返してもらえますか」
「もちろんですよ」
「では、ありがとうございました」
こちらは王宮騎士団の宿舎。
コーディーとチェスターは相部屋である。
ある夜、コーディーが布団から抜け出し、中庭に向かう。
チェスターは不審に思い、こっそり後をつける。
コーディーが黒いローブを着た男と小声で話している。
「イーノス、おまえ、アリシアをマヒさせただけでなく、家まで火事にしたそうじゃないか」
「やるときは徹底的にやるのがわての主義でんねん」
「なんで関西弁でしゃべるんだ。アリシアは王宮騎士団を追放され、職を失ってしまったんだぞ」
「これであんさんが次の剣術大会では優勝ということになりまっせ」
「それにしても……」
「ま、ええやないですか」
「ちとやりすぎとちがうか。あら、うつってしもうたがな」
チェスターはトイレに起きたふりをして、「なんか今日は寝苦しいなあ」と声をだす。
「イーノス、隠れろ」コーディーが言う。
チェスターが「あれ、コーディー、おまえも起きてたの?」と声をかける。
「うん、ちょっと眠れへんかったんでな」
「ていうかなんで関西弁?」
「気にせんといてや」
一方のアリシアは王宮のそばで野宿していた。
チェスターがアリシアを見つけて、コーディーが裏で糸を引いていたことを告げる。
「コーディー、卑怯だぞ。『ちびまる子ちゃんの藤木くん』ぐらいに卑怯だぞ」アリシアが叫ぶ。
「まあまあ、落ち着いて。おまえ、もう体治ったんだろう? 飛び入りで参加してみたらどうだ?」
「ナイスアイデア。ボクの力を見せつけてやる。顔を洗って待っておれ」
「それを言うなら『首を洗って』だろ」
「そうだった。『どーも失礼しましたー』って漫才じゃないんだから」
「ひとりツッコミかい!」
そして迎えた剣術大会の当日。
コーディーは順当に勝ち上がってきた。
「では、今年の優勝者はコーディーということで……」
「ちょっと待ったー!!」
アリシアが闘技場に乱入する。
試合を見ていた王様が「お前は追放されたはずのアリシア。なぜここにいる? どーして? おせーて」と尋ねる。
「王様、そのギャグ、50歳代以上のひとでないとわかりませんよ」
「コホン。こりゃまた失礼しました」
「ですから王様、そのギャグも、50歳代以上のひとでないと」
「じゃあみんなはお父さん、お母さんに訊いてね。現象には必ず理由がある。面白い。実に面白い。なにげにカメラ目線」
「王様、カメラなんてありませんよ。テレビ中継じゃないんだから。王様はアホでございますか?」
「なんかお互い、セリフが微妙に古いな」
「すみません、最近ドラマ見ていないんで」
「ボクはコーディーに、はめられたんだ。魔法を使って呪いをかけられ、左半身がマヒしてしまった。コーディーと一騎打ちがしたい」アリシアが申し出る。
「コーディー、本当か」王様が尋ねる。
コーディーの視線が宙を泳ぐ。
「本当かと訊いておる、コーディー」
「申し訳ありません!」コーディーは土下座する。
「ゴメンで済めば警察はいらない。よし、アリシア、コーディーと一騎打ちをしてみろ」王様が言う。
「ひがーしー、アリシアー、アリシア―。にーしー、コーディー、コーディー」
マヒが無くなってから片手剣で練習してきた甲斐があった。アリシアが、何度か剣を交えた後、剣の切っ先をコーディーの喉元につきつける。
「勝負あった! アリシアの勝ちー」審判の声がする。
アリシアが両人差し指を揃えて「ゲッツ!」と言う。
「放送席、放送席、優勝したアリシアさんのインタビュー、準備できました。まずはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
「シュート、見事に決まりました」
「はい、いいクロスが来たので、合わせることだけを考えました」
「最後にサポーターの皆さんへ一言」
「はい。サポーターさんたちの応援がボクたちの力になっています。これからも応援よろしくお願いします」
「ほうびを取らせるぞ」と王様が言い、家来に金貨を持ってこさせる。「金貨と、缶チューハイ1年分ね」
アリシアは金貨を受け取り、病院へ行く。「こないだペンダントを預けた者です。お金を払いますので、ペンダントを返してください」
「ええよ。もっていきなはれ」
「てか、ここでも関西弁?」
そして王宮騎士団にもう一度入るために、王様のところへ行く。
「ひとつ、よろしいでしょうか」アリシアが口火を切る。
「なんですか杉下さん、じゃなかったアリシア」
「じつは、ボクは女なんです。実話なんです」とアリシア。
王様は「なんだと?! しかしなんだ、そのおやじギャグは」と目を丸くする。「王宮騎士団は男しか入れないはず」
「いままで偽って入っていました。ごめんなさい」
「ゴメンで済めば警察はいらないと言っておるだろう。まったくドイツもコイツもイギリスもフランスもイタリアも」
女性活躍担当大臣が「これからは女性も騎士団に入れることにしましょう」と提案する。
王様は「ううむ」とうなっていたが、最後に「よかろう。それだけの腕、放っておくのはもったいない」と応ずる。
「コーディーは島流しとする、なーんてね。島はないから1年間トイレ掃除」と王様が命じる。
アリシアは「イーノスという魔法使いを退治してください」と頼む。
「イーノスとは?」と王様が尋ねる。
「私に呪いをかけた魔法使いです」
「うむ、そういうことであれば我が魔法軍団によって退治しよう」
アリシアは「正義は勝つ、絶対勝つ」と高らかに言った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は今までにないジャンルに挑戦してみました。
今まではシリアスなものを書いてきましたが、コメディータッチにしたらどうなるだろう、と夜も寝ないで昼寝して書きました。
ぜひ、感想をお寄せください。