こんな夢を観た「星泥棒」
昼間降っていた雨もすっかり上がり、澄んだ星空が広がっていた。
このところ雨が続いていて、外へ出るのも面倒だったが、久しぶりに公園まで散歩に出てみることにする。
道端の水たまりをよけながら、のんびり歩いて行く。鼻歌が、しっとりと湿った空気の中で染みて消える。街灯の周りでは、さっきまで軒下や葉の陰で雨やどりをしていたに違いない羽虫達が、わんわんと回っていた。
公園には人の気配がまるでない。雨さえ降らなければ、今の時間、夕涼みにちらほらと人影もあるだろうに。
わたしは噴水広場を横切って、プラタナス並木へと向かう。
途中には、公園一背の高いポプラが立っている。月の光を受け、くっきりとした影を落としていた。その影が、いつになくいびつに映る。
薄暗い中、木をよく見てみると、長く伸びた梯子が立て掛けてあるのだった。
「昼間、植木屋が剪定でもして、そのまま忘れていっちゃったのかな」たいして気にも留めず、通り過ぎようとするわたし。
すると、ずっと上の方から、ギーコ、ギーコ、と何かを切る音がする。
後ずさりして見上げると、木のてっぺんで誰かがノコギリを挽いていた。天空にどんどん線が入り、四角く切り取られていく。
切り口がつながったとたん、ぽくんっと音がして、星空が落ちてきた。クルクルと回転しながら、わたしのすぐ脇の芝に、ざっくりと突き刺さる。
「わっ、危なっ!」もうちょっと逸れていたら、体が真っ二つになってしまうところだった。「ちょっと、そこの人っ。なんてことしてんのさっ。当たったら大変じゃん!」
ポプラの真上には、ぽっかりと白い四角ができている。慌てふためく男の姿が、影絵となって射す。
「これは、すいませんでした。まさか、下に人がいるなんて思ってもいなかったもので」
男は梯子を降りてきた。わたしの横で、今もきらきらと瞬いている星空に目をくれながら、心配そうな声で言う。
「ケガはありませんでしたか? 夜だし、さっきまで雨が降ってたもんですからね、人が来るなんて、これっぽっちも考えませんでした。ほんとに申し訳ありません」
「幸い、無事でした。それはともかく、勝手に公共の空を切ったりしちゃまずいんじゃないんですか?」わたしはとがめた。
「ええ、そうなんです、わかっています」男はしょんぼりと頭を垂れる。「実はわたし、この近所でプラネタリウムをやっている者ですが、明日のプログラムで、このかんむり座の空がどうしても必要だったんです。それで、悪いことと知りながら、つい出来心で……」
「そんなの、自分勝手です。あなたがかんむり座を持っていってしまったら、ほかの人が見られなくなるじゃないですか」
「明日、1日だけなんです。なんせ、小学生たちの課外授業がその日なもんで、がっかりさせたくないんです」プラネタリウムの男は切実な様子で言いすがった。
わたしも、そういう事情なら仕方がないと思い直し、
「じゃあ、明日の投影が終わったら、ちゃんと元に戻してくれますか? それなら、おまわりさんに通報せず、黙っていますけど」
男はホッとしたように顔をあげる。
「ええ、ええ。約束します。絶対にっ!」
次の日の夜、わたしはまた公園に来てみた。天頂には、いつも通り、星が輝いている。
よく見ると、かんむり座の周りにだけ、四角くかがったような跡があったけれど。




