新しいことをしてみよう!
数日の間、平和に時は流れた。
僕の好感度はうなぎ上りとは言わないまでも、順調にアップしている。
そんな平穏な朝を、河田先生が台無しにしてくれた。
「さて、今日は席替えをするぞ!」
これだもん。ホームルームぐらいはゆっくりさせて欲しい。
それに、1学期の間は、このまま様子見というのが定番じゃないだろうか?
どうして今するのか理解出来ない。
それは、クラスメイトも同じだったらしい。
「めんどいからいいっす」
「仲良くなったのに離れるのは嫌です」
「やっと慣れて来たのになんで今なんですか?」
「別に、あたし達は不自由してないし、このままでいいんですけど」
「そうだよな。はんたーい」
一斉に反論が沸き起こった。
しかし、河田先生はめげなかった。
「お前等は判ってない。何故この時期に席替えをすると思っているのだ? 俺が訳も無くする筈がないだろ」
その言葉に、一旦勢いが収まる。
僕も、内容を聞いてから判断しても遅くないと思うし、皆同じ気持ちなのだろう。
「では、理由を説明する。今日の朝、俺は朝食のコーヒーとトーストを味わっていた。すると、TV番組のお姉さんが教えてくれたのだ。『本日の牡羊座のラッキーワード、新しいことへの挑戦です』とな、つまりは席替えで、気持ちを一新させようという意味に違いないのだ!」
……駄目だこの担任。授業だけでなく、何もかもが痛い気がする。
「たったのそれだけ?」
「ありえねー」
「そんなの知るかっつーの」
「はい、終了!」
「思ったよりもあっけなかったわね」
「ちょ、待てやお前等。俺の為に犠牲になるぐらいの優しさはないのか!」
「「「「「「ないですー」」」」」」
「……俺のクラスなのに冷たい奴等だ……というか、男子にとってみたら美味しい話じゃないのか? 今のままだと憧れの女子の隣になれないぞ? しかし、今回の席替えは、100パーセントくじ引きによるランダムだ。その可能性も充分あり得る。どうだ、席替えしたくなってきたろ?」
悪知恵を披露する河田先生に男子生徒の大半が動揺している。
現在の席順は、左右が同性、上下を異性が挟む形になっているから、席替えをしない限り、それが崩れることは無いのだ。
結局、この一言が効いて、席替えは実施されることになってしまう。
こういうことだけ、うちの担任は頭が働くらしい。
河田先生は、既にくじ引きを作ってきてたので、すぐ順番に引くことになった。
その結果を、奈菜ちゃん、玲、京香さんと見せ合っている。
僕は窓際の後ろから二番目という、好位置をげっとした。僕の前が奈菜ちゃん。
玲と京香さんは廊下側付近で隣同士だ。
「はぅ。席自体は良いと思うのに、何故ですの……」
奈菜ちゃんが悲嘆する理由は一つ。僕と奈菜ちゃん以外、周りは全部黒い制服なのである。
この辺り、完璧にランダム要素のせいだろう。右側に比較的女子が多く、左側に男子が集まってしまったのだ。
「まぁこればっかりは運だしねぇ。わたしも一緒だし大丈夫だよ」
「うう、由乃ちゃんだけが頼りですの」
「気にしすぎだって」
「奈菜が嫌なら、アタシが交換してやろうか? 由乃の側が良いし!」
玲の表情は結構本気っぽい。
「むぅ。確かに周りは嫌ですの。でも、由乃ちゃんの近くは捨てがたいですの」
「そうか……だったら仕方ない。京香、由乃と席を変更しろよ!」
「はぁ? なんでそうなるのよ。私だってあんな黒い壁の中に入るの嫌よ」
「京香なら問題ないだろ。誰もマゾじゃないから苛められたくないって。安全ってことじゃないか」
「いつから私がサドになったのよ!」
玲がヤレヤレと肩を竦める。
「お前は全然判ってないよな。例えるなら新潟の近くにある金山みたいなものだろうが!」
「それは、佐渡でしょ! 佐渡に住んでる人に謝りなさい。本当、玲と話してるとおかしくなるわ」
僕が苦笑すると、奈菜ちゃんも同じ気持ちみたいで目があった。
「それじゃ奈菜ちゃん、移動を開始しようか」
「はいですの」
僕と奈菜ちゃんは言い合う二人を放置して、席を移すことにした。
新しい席に荷物を置くと、急に周りがざわついた。
「うわ、上杉さん此処なの!」
「やったラッキー♪」
「河ちゃん、GJ!」
「俺、席替えに賛成して良かった」
そこまで喜んでもらえるとちょっと驚く。
でも、これを機会に男子の好感度をアップさせるのも悪くないと思う。
席替えで強引に移動させられた訳だから、狙ってのことじゃないしね。
それに男子と話している方が気楽に違いない。これは内緒だけど。
「今日からご近所さんになるし、ヨロシクね♪」周りの男子に明るく微笑む。
サモン、スィートピー! バックにスィートピーを召還する。
何事にも第一印象は大事だよね。
「「「「よろしくね♪」」」」
さすがスィートピー、みんな見とれてるじゃないか。もう完璧にマスターしたよ!
一方の奈菜ちゃんは緊張したように縮こまっていた。
まぁ、此処まで男子に囲まれると女子にはしんどいものがあるかな。
「奈菜ちゃん。大丈夫ですの?」
ぽんぽんと肩を叩いて、話しかける。
その際に、右手人差し指を出しておいた。
「むぅー。またっ言――うぐぅ!」
僕の人差し指に頬を押され、言葉が遮られる。
「あはは、ひっかかったですの♪」その人差し指を見せて小馬鹿にする。
「由乃ちゃん! 酷いですの!」
「うんうん、元気な奈菜ちゃんが復活したね。ほら、折角お隣さんになったんだし、皆に挨拶するの」
奈菜ちゃんはまだ恨めしそうな目をしてるけど、とりあえず言うことを聞いてくれるみたいだ。
「これから、よろしくですの」ペコリと周りに頭を下げた。
「小笠原さんもよろしくね」
「「「よろしくー」」」
素直な返答に、少し奈菜ちゃんの緊張も解れたみたいで、肩から力を抜いていた。
どうせなら、奈菜ちゃんも仲良くなって欲しいしね。
ちなみに、右隣の男子はクラスメイトA君、改め松本君だった。
良かったじゃない好きな女子の横になれて。
これから利用してあげるから――なんて思って無いんだからね♪
本当はそうなんだろとか言う人は、覇王翔○拳です!
なんとか、更新出来ました。
この話で1話使うのありなんだろうかと思う今日この頃です。