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されど10円

 教室入って自分の席に座ると、クラス中から人が集まってきた。

 思わず顔がニヤケそうだね!    

「上杉さん3位なんて凄過ぎ!」

「うーん、まぐれだよー」

 実力、実力、もっと言ってもいいんだよ?

「可愛いのに、頭も良いんだねぇ」

「上杉さん、今度私に勉強教えてよぉ」

「わたしで良かったらいつでもいいよ」

 どんどん頼るがいい、そして羨望の眼差しを向けるのじゃ。

「上杉さん優しいわぁ」

「別に当たり前のことだよ。大げさだって」

 ふははは、この瞬間の為に生きてるようなモノだしね!

「上杉さん、私も私もー」

「俺にも」「僕にも!」「アタシにも!」

「うんそれは構わないけど、わたしでいいのかなぁ?」

「「「「勿論だよ!」」」」

「それなら、力が及ばないと思うけど頑張ってみるね」

 気持ちいいわぁ。これだから見栄を張るのは止めれないよね!


 

 ――この嵐は、担任の河田先生が来るまで続いた。

 勿論その間の僕が終始ご機嫌だったのは言うまでもない。



 1時間目が数学だったことで、そのまま河田先生の授業になった。

 僕の成績も判ったことだし、困った時に僕を当てるというテンプレ展開に期待する。

 折角の好感度を上げるシチュエーション、活かしたいしね。

 ――下心が叶う事無く、河田先生の授業は進んでいた。

 途中の説明や、出される例題は判りやすかった。

 担任の贔屓目を除いても当たりの先生だと思う。

 やがて、数学は無理だったかと諦めかけていた時だった。

「それじゃ最後の問題を出すぞ。これは重要だから完璧に出来るように!」

 河田先生がわざとらしく前置きをしたのだ。カナリの難問に違いない。

 やっとチャンスが回ってきたようだね。

 さぁ、かかってらっしゃい! 心の中で身構えた。

「よし、今から書く問題を解いてくれ」

 暫く、コンコンという黒板にチョークが擦れる音だけが教室に響く。そして、書き終った河田先生は僕たちが見やすい位置に移動した。してやったりな顔をしている。 

「では、判った者は手をあげろ!」 

 黒板に書いてある文字を読む。



【太一君が、10円のうま○棒チーズ味を1本、10円のうま○棒サラミ味を1本食べました。その後の感想は?】  



 ……ハイ? ナニソレ?  

 周りを見ても誰も挙手してる人なんて居ない。ていうかこれ数学?

 少し経っても教室は静まり返ったままだ。当然の反応と言えよう。

 河田先生は溜息をつくとクラス中を見回す。

「おーい、誰も居ないのか? 仕方ないなぁ。上杉答えてみろ」

 ええええ、何で僕なの? 

 そりゃー当てて欲しいなぁとか考えていたけど、これは違うって。

 お笑い担当は、奈菜ちゃんにあげるのに……

 しかし、良い子ちゃんキャラの僕は黙って立つしかない。

 その間もめまぐるしく脳内は働き続ける。そして、一つの答えが出た。頑張ったよ僕。

「ええと……サラダ味が好きです――でも、めんたいの方が、も~~~と好きです♪」

 某引越し会社のCMを真似て言ってみる。その際、僕のイメージを崩さないように、首を傾けて可愛い子ぶってみた。

「ぶははは。さすが上杉だな80点、座っていいぞ」河田先生が大爆笑しだした。

 其れに釣られてクラス中からも笑い声が漏れている。

 駄目か……僕のキャラが崩れていく――

 くそー。当たりの先生と思ったら、大外れじゃないか。

 なんでこうなるんだ……

「よし、上杉を見習ってお前等もどんどん言え」

 もう忘れてよ! 心に傷を負ったってば……素直に答えた僕が馬鹿だった。

 出来ないですぅ、みたいに断るべきだった気がする。今更後悔しても遅いけど……

「ふむ、居ないのか……それなら上杉にもう1つぐらい答えてもらうかなぁ」

 ちょ! なんて恐ろしいこと言うのこの人。

 ぶんぶんと首を振って、嫌ですと訴える。

 それを見た河田先生が肩を竦めた。

「しょうがないなぁ。それじゃこっちで指名するか、本庄答えてみろ!」

「へ? え!」

 呼ばれた京香さんの方を向くと、顔を引き攣らせて立っていた。

 気持ちは良く判るよ! 

 僕の隣の席で、玲がざまーみろとでもいうように、両手を顔の前でフリフリしてからかっているのが視界に映った。

 それを京香さんが見たのだろう、右拳を強く握って震わせている。

「それで答えは?」

 京香さんが自信なさそうに答える。

「――おやつは200円。後180円買えます……」             

「はぁ、20点。赤点だから次回の授業までの宿題な」

「ええ! そんなのあんまりです!」悲痛な声が教室中に響いた。

 京香さんの性格なら、頑張ったと誉めてあげたい気もする。でも点数的には納得だ。

「なんでだ? 上杉は出来たじゃないか。時間もあるんだから大丈夫だろ。着席していいぞぉ」

 僕のせいじゃないよー。心で京香さんに語りかける。

「…………」京香さんはそのまま力なく席に座った。

 丁度ここで終了のベルが鳴り、鬼の数学の授業は終わりを告げた。

 途中から数学だったのか謎だけどね……



「ぐわ! 何をする!」

 休憩時間になってすぐ、玲の悲鳴が聞こえた。

 隣の席を見ると、京香さんに首を絞められている玲の姿があった。

 早! 結構、京香さんの席から距離あるのに、一瞬で来るとは驚きだね。  

「あんたね、さっきのアレはなんなのよ!」

「ちょ、ギブギブ! 京香の無い胸を押し付けられても嬉しくないって!」

「あんですって!?」

 更に力を込められている。

 余計な事言うから……玲はマゾなのかな?

「ほんと、ごめ、んなさい。もう言いません。く、苦しいから、た、助けて。由乃も、何か言って、やって、くれ!」玲は京香さんの腕を必死に何回も叩いている。

 この状況で僕が見てるのに気付くとは。やるなぁ。

「京香さんそろそろ止めた方がいいよぉ。玲の顔真っ赤になってるから」

「え? 本当。むむむ……由乃さんが言うなら勘弁してあげるわ! 由乃さんに感謝するのね!」

 パンパンと手を鳴らして、玲は開放された。

 新鮮な空気を、ぜーはー吸ってるのを見ると、本当に苦しかったようだ。 

「てめー京香、殺す気か!」

「あら? 死んだ方が世の中の為だったと思うわ」

 再び、バチバチ火花を飛ばしだした。

「はい、止め止め、イチャつくなら2人だけの時にしようね♪」ニッコリと笑う。

「待て、アタシは由乃とがいい!」

「由乃さん、それだけは本当に勘弁して!」

「なら大人しくするの、みんなの迷惑になるからね」

「「うう」」2人は渋々という感じで静になる。

「うん、判ればよろしい♪」

 やっと落ち着いたよ、ヤレヤレだね。

 そう肩の力を抜いていると京香さんが僕の側まで来た。

 玲に仕返しするだけだと思ってたけど、どうしたんだろう?

「ええとね。由乃さんにお願いがあるの……」モジモジして言い難そうにしている。

「え? リボンはあげないよ?」

「あ、うん。それも欲しいんだけど……」

 まだ売ろうとしてたんかい!

「それじゃ何? 京香さんの頼みって恐いんだよねぇ」

「そんなことないって! ただね、ちょっと協力して欲しいことがあるの」

 うーん。よく判らないなぁ。玲を懲らしめるのに力を貸せってこと?

「わたしで協力出来ることなのかな? それだったらいいよー」

「それなら言うね。さっきの宿題を教えて欲しいの……由乃さんなら何とかなると思うから」

 えええ! これ以上恥を掻きたくないよ!

「わ、わたしには無理じゃないかなぁ。そういうセンスないもの」

「そんなことないわ! あのギャグを瞬間的に思いつくなんて、普通出来ないもの」

「あれは偶々だよー。それに、宿題は河田先生の冗談だと思うよ」

 絶対アノ人は覚えてる。断言出来るね。じゃなかったらあんな馬鹿な問題出したりしない。

「そうかなぁ、でも、次の時間に催促されたら困るし、由乃さんこの通り! 助けると思って、ね? ね?」京香さんが拝み倒す作戦にきた。

 くぅー僕の弱点なのに、こう頼まれると 見栄王的に断れ無いんだよねぇ。

「むむぅ……でもなぁ……わたしも恥かしいんだよ」

「由乃さんなら大丈夫だと思うわ。だって、天然ぽいでしょ?」

 がーーん。男の時に散々言われた台詞を、女になってまで言われるとはどういうこと?

 今迄そんなミスを犯しただろうか?

 ……あれ、何か思い当たる節もある気がする。

 いや、気のせい、うんうん。そんな訳無いって!


    

 結局、京香さんのお願いは聞くことになった。

 見栄の為には仕方なかったんだよ……おだてに弱いとも言う。

 そして、数日の間に僕の天然というのは周知の事実になるのでした。

 清楚で可憐な美少女設定だったのに、なんでこうなるんだろ。

 初めから無理があったとか言う人は、タイガーアッ○ーカット! です。


無駄にうま○棒に詳しくなりました。


作者的には、やっぱりめんたい味ですね。

とつぶやいてみます。



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