油断大敵!
翌日登校して、1年の教室がある4階まで行くと、人だかりが出来ていた。
僕は野次馬根性でそちらの方に近付いていく。
どうやら中心点は掲示板のようだった。
となると、ここで問題が発生する。
見れない……以前の僕の身長なら見えそうだけど、この低くなった身長では無理としか言いようがない。
だが会話の内容から、昨日行われた実力テストの結果が載っているのは判った。
正直、気になる。ここで優等生キャラを作る為には有用な証拠になるからだ。
困ったなぁと思案していると、肩を叩かれた。
「由乃さんおっは」京香さんだった。
「はよはよ。京香さんは昨日の結果を見たの?」僕は掲示板に視線を向けた。
「ええ見たわよ。まぁまぁかしらね」
「そうなんだ。わたしはちょっと見れそうにないよ……」
京香さんも、この状況には辟易していたみたいで苦笑する。
「まぁ、別に結果は逃げないし、後で見ればいいんじゃないかしら?」
「それがいいかな……」本当は今すぐ見たいんだけど……諦めるしかないかな。
そうこうしてると、見慣れたポニーテールを見かけることが出来た。
ぴょんぴょん跳んでるのが愛らしい。そのポニーテールは僕があげた青いリボンで止められていた。嬉しいけど、照れくさい気もする。
「おはよ。奈菜ちゃん」京香さんと共に奈菜ちゃんの側まで移動する。
僕の声に気付いて奈菜ちゃんがこっちを向いて微笑んだ。
「おはよですの。由乃ちゃん、京香ちゃん」
「おっは。奈菜さん」京香さんが手を振る。
「そのリボンつけてくれたんだぁ。似合ってるね」
「えへへ。一番のお気に入りですの!」すごく嬉しそうにしている。
……子供の笑顔は心が洗われるものがあるね。
奈菜ちゃんをなでなでする。
「由乃ちゃん……それ嫌な感じするですの?」
「気にしちゃだめですの?」なでなでする。
「むぅ!」奈菜ちゃんが頬を膨らませだした。
奈菜ちゃんを弄くっていたら、黙って会話を聞いていた京香さんが声を出した。
「そのリボン、由乃さんが昨日つけてたやつなの? だったら私も一つ欲しいわぁ」
「京香さんも呪いに使うの?」
「使ってないですの!」
「使わないわよ!」2人に凄い剣幕で反論された。
「だったらどうして? 京香さんの髪はボブカットだし要らないでしょ?」
奈菜ちゃんは自分で使う為だったみたいだけど、京香さんは良く判らない。
「ほら、由乃さんの持ち物だったら男子に高く売れそうでしょ? 今月お小遣い厳しいのよね」京香さんがムフフと人の悪い笑みを浮べた。
……絶対あげない。呪いより酷い気がする。いや、呪いの方が酷い?
どっちも酷い! これ!
「京香さんが、玲の幼馴染なのが良く判ったよ……」
「ちょっと、それはあんまりよ! あんなボスト○ールと一緒にされたくないわ!」
ボスト○ールは酷すぎじゃないかと……
「誰がボスト○ールじゃ! テイッ!」いきなり現れた玲が京香さんの頭にチョップを入れた。
「ぎゃ!」京香さんは頭を抑えてうずくまる。
ゴンッってすごい音がなったような。京香さん大丈夫かな?
「何するんのよ! ボスト○ール!」京香さんは立ち上がって文句を言う。
少し涙を浮べているのを見ると本当に痛かったらしい。
「京香が悪いんだろうが。人が居ないと思ってアタシの嫁に変なこと吹き込むな!」
「真実じゃない! すぐ暴力振るうんだから、棍棒でも持ったらソックリでしょ!」
「ええと、お2人さん。すごーい注目受けてるよ?」
2人は素早く周りを見渡すと押し黙った。それにより注目が収束されていく。
現在がどういう状況なのかを悟ったみたいだ。
京香さんなんて赤面している。
「そうですの、うさぴょん。皆の居る前ではしたないですの」
奈菜ちゃんのその一言に玲も顔がりんごのようになった。
そこでなるのか! とツッコミそうになる。
「ああ、もう! で、これは何の集まりなんだよ?」
玲が照れを隠すように話しを変えた。
「ええとね、実力試験の結果が貼られてるみたいだよ。人が多くて見えないけどね」
「ふーん、そっか。皆見れてないのか?」
「わたしと奈菜ちゃんはまだだけど、京香さんは見れたみたい」
「京香は狡賢いからな!」
玲の台詞に京香さんはムッとした表情を浮べたけど、又注目を浴びるのは嫌なのだろう我慢したようだ。
「だったら――アタシが見やすいようにしてやるかぁ♪」
玲は腕まくりしながら不遜な台詞を吐くと、奈菜ちゃんの両脇に手を入れて持ち上げてしまう。
「え! 何するですの!」急な展開に慌てる奈菜ちゃん。
「こうするんだよ」玲は底意地悪い顔を浮かべ、奈菜ちゃんを前方に構えて突撃していった。
恐怖、人間ブルドーザーとでも例えればいいのだろうか?
「ほら、どいたどいた!」
「止めるですの!」
「うわっ!」
「嫌ですの!」
「なっなんだ!」
「ちょっ! なに?」
「助けてですの!」
「あぶない!」
大勢の生徒の叫び声が巻き起こる。
「ううう、酷いですの!」
「おらおら男共、触ったらセクハラで訴えられるぞ!」
まるで波が裂けて1本の道が出来るように、玲の前にスペースが出来た。
奈菜ちゃんの悲鳴が混じってたけど、これはアレ、子供には試練が必要……と思うしかないね……
一番前まで到着し、やっと奈々ちゃんは下に降ろしてもらえたようだ。
二人はそこで言い合いを始め、その声が此処まで届いてくる。
「はぅう。うさぴょん! この恨みは忘れないですの!」
「へ? なんでだよ。折角見たいっていうから連れてきてやったのに、そりゃねーだろ?」
「うさぴょんは過激過ぎるんですの! 皆に迷惑かけちゃメッですの」
「そうか? 結果的に見れたからオッケーな気がするがな」
「うううう……それでもこんなの駄目なんですの!」
奈菜ちゃんの気持ちは良く判る。さて、僕はどうしたものか……
今近付けば簡単に見ることは出来ると思う。でもなぁ、ちょっと悪名が付きそうだよね。
ここは他人のフリをしよう。さっきまで一緒だったから無駄かもしれないけど、そこはまぁ、被害は奈菜ちゃんだけでいいかなぁみたいな感じ?
どうやら京香さんも同じ気持ちらしい。僕と視線が合った瞬間、お互い頷いていた。
「おーい、由乃見ないのかぁ?」
そんな僕の気持ちとは裏腹に、玲が手招きして呼んでいる。
一斉に視線が僕に集まる。余計なことを……ならば――
「ゆ、由乃ちゃん呼んでるよ?」京香さんの肩に、手を置いてみる。
「ええええええ。由乃さんそれは流石に無理あるわ。諦めないと駄目よ」
京香さんに野良犬に噛まれたと思いなさいと目で諭される。
「はぅ……」
まぁ、今ので少し冷静にはなれた。玲がこのまま大人しくしてるとは思えないしね。
逆に、注目されてるのだから、そこはチャンスではないだろうか。
上手に振舞えば好感度アップ間違いなし。
僕は痛い視線を体に受けながら、ご機嫌な顔をしている玲に近付く。
そして、合流した瞬間180度向きを変えて、大勢の生徒の方を向いた。
「すいません。友人達がご迷惑をお掛けしました」ぺこりと頭を下げる。
どよめくような声が聞こえて、体勢を元に戻す。
奈菜ちゃんの「一緒にしちゃやですの」とかいう声も聞こえたけどスルーする。
「彼女達もふざけてただけだと思うのです。許してもらえないですか?」今度は清楚な微笑を形作る。バックに大量のスィートピーが出た。おお、やれば出来るじゃないの僕。
「いや、君が悪いわけじゃないし」
「そうそう、アナタのせいじゃないわ」
「うん、でも君可愛いね」
「僕と付き合わない?」
「今日の午後一緒に帰ろうよ」
途中から変な声が混ざってるような気もする。
でもとりあえずは、好感触に満足した。
「2人とも駄目だよー」玲たちの方を向いて、軽くゲンコツで頭を叩く。
「奈菜悪くないですの!」
「えええ、アタシも悪くないぞ!」2人の反論は黙殺する。
「はいはい、迷惑かけたんだから謝るの!」軽く睨む。
「うー。ゴメンなさいですの」
「悪かったな……」2人は僕に言われて渋々という感じで頭を下げた。
それでも充分だったらしく群集も静になってくれた。
ふー。なんとかなったね。 一時はどうなる事かと思ったよ。
やっと、掲示板を見ることが出来た。
僕の名前はと……左の方にあった。
総合3位! いやぁ、中々の高位置じゃないの。
教室に入った後の、絶賛の声が待ち遠しいじゃないか!