天然には勝てない
学校帰りに女子4人が遊ぶ場所となると限られてくる。
カラオケ、ボウリング、ウィンドウショッピング等がそうだろう。
そこで、僕の提案によりボウリングをすることになった。
何故って? それは僕が上手いからに決まっている。
「キャー」「カッコイイー」「素敵ー」みたいな喝采を浴びたいのだ。
卒業休みが終りやっと来たチャンス、逃す訳にはいかないでしょ。
学校の最寄駅から近く、複合ビルの3Fにボウリング場はあった。
ビルの入り口ドアから中に入り、エレベーターを3Fで降りて大きなロビーに入場する。
「さて、何ゲームぐらいすっか?」先頭を歩く玲が振り返って聞いてきた。
「奈菜初めてなので、良く判らないですの」
「あまり私も得意じゃないのよねぇ。2ゲームぐらいでいいんじゃない?」
奈菜ちゃんと京香さんには勝てそうだ。すると問題は玲だけか。
内心でほくそ笑んでいると、玲に催促される。
「そんで由乃は何ゲームがいいんだ?」
「うーん……2ゲームだと1時間ぐらいだし、3ゲームやると楽しいかもねぇ」
「オッケー、由乃が言うから3ゲームな!」
「ちょっと玲! それだったら全員に聞いた意味ないじゃないの!」
「……京香はアホか? アタシの嫁の希望だぞ。全てに優先するに決まってるジャマイカ!」
……どう反応すればいいのかな、すごーく頭が痛いんだけど。
でも3ゲームの方が嬉しいし、此処は上手に宥めよう。
「まぁまぁ。玲はほっとくとして。ボウリングなんて久しぶりだし、折角来てすぐ帰るのもなんだから、少し多いぐらいがいいと思うよ」
「ううう。嫁が冷たい……」玲が落ち込んでいる。気にしたら負けだ!
「奈菜は由乃ちゃんが言うならそれで良いですの」
「そういう考え方もあるわね。折角だし3ゲームにしましょうか」
ふふふ、これで3ゲームの間、僕の華麗なボウリングテクを見せ付けれるのか。
ワクワクしてくるね!
そして開始してしばらく経った頃――
何故こうなった……頭を抱えている僕。その横で歓喜している奈菜ちゃん。
そして、それを眺めている玲と京香さんの姿があった。
い、言い訳をさせてもらうと、全部由乃の体が悪いんだ!
僕の使っていたボールは手の大きさ、ボールの重さ両方の理由から使えなくなっていた。
更に、腕力にモノを言わせた弾丸ストレートも、力が足りなくなってナチュラルカーブが出る始末。
まぁ、ここまでは僕の油断だから諦めもつくだろう。
しかし、一番の問題はこれ!
スカートでボウリング……羞恥プレイでした。
投げ終わった後に重心を落としながら後ろ足を横に滑らしていたのだが、そのたびにフワリと紺のブリーツスカートが捲れそうになるのだ。
現在ですら足が心許ないので、ニーハイなんていう男子受け狙いのようなモノを履いているのに……これはキツ過ぎる。
その結果、全てを消極的なプレイをしてしまった。
2ゲーム終わってのは成績は、
僕、 105 115
奈菜ちゃん 113 121
玲 103 108
京香さん 75 90
となった。
それでも僕は頑張ったのだ。4人中2位の成績が証明している。
にも拘らず、奈菜ちゃんの両手でポイッと転がすだけの天然ボールの前には無力だったのである。
このボウリング場どうなってるのかと本気で文句言いたい!
きっとワックスの塗り方がおかしいんだ。僕のせいじゃないんだよ! うううう。
「えへへ。奈菜ってば天才なのかもしれないですの!」奈菜ちゃんは上機嫌に胸を張る。
「まぐれだろ?」
「ある意味天災? 予想もしない結果だわ」
「い、や……確かにあのへろへろボールがストライクになるのは、才能かもしれないね……」玲と京香さんにつられて思わず乾いた声が出てしまう。
「むむ、みんなは奈菜の才能に嫉妬してるんですの? 負け犬の何とかですの♪」
「……ふーん。奈菜ちゃんそんなこと言っちゃうんだぁ? だったら次のゲーム何か賭けでもしようか。負けないよ?」
調子に乗り過ぎたね奈菜ちゃん!
僕の本気を――出してたけど……次はどんな手段を使っても勝つ!
奈菜ちゃんは、僕の気合に気圧された感じで、一歩後ろに後退した。
「おっ、賭けするのか? ならアタシも奥の手だそうかな?」
うそ、手抜いてたの! 玲の一言に驚愕する。
「玲見苦しいわよ。奥の手とか何にもないでしょ?」
危ない……騙されるところだった。
「ふふふ。確かにそうだ。しかーーし、賭けとなった時のアタシの実力は別モノなのさ!」バックに波がザップーンと流れ落ちた気がした。
「そ、それはあるかもしれないわね。本当に、認めたくないけど……」
京香さんの反応を見ると満更信憑性が無い訳でもなさそうだ。
玲の野生パワーは侮れないかもしれない。
「ふふふ。いくらやっても無駄ですの。そこまで言うなら勝負受けてあげてもいいですの?」
「ほほぉ」玲の目が細くなる。
「なら、アタシが奈菜に勝ったら、語尾の【ですの】の代わりに、【にゃん♪】をつけるようにしようか」
「おお、なかなか良いねそれ。ならわたしが奈菜ちゃんに勝ったら。そのポニーテールを引っ張り放題にしよう」
やはり、引っ張りたいんだよね。この欲求は止めれない!
「だったら私はどうしようかな。そうね、私のことを京香お姉ちゃんと呼んでもらおうかなぁ。妹みたいで可愛いし」
「……酷いですの! それなら、奈菜が勝ったら何をしてくれるのですの?」
「「「なでなでして(あげるよ)(やろう)(あげるわ)」」」
「そんなの嬉しくないですの!」
「だったら、何がいいの奈菜ちゃん?」仕方が無いから尋ねてみる。
「むむ……それなら、由乃ちゃんに勝ったらその髪を止めてるリボンが欲しいですの」
「これ?」後髪の束を前に持ってきて、結んでいる青のリボンを奈菜ちゃんに見せてあげる。
由乃ちゃんはコクコク頷いた。
「それですの。由乃ちゃんのモノが欲しいんですの」
うーん。どういう意味だろ? 安物のリボンなんだけどね。まぁ男なら遠慮するけど、奈菜ちゃんならいっかな。
「別にわたしはいいよ。わたしが勝ったらさっきの条件ね♪」
「う……はいですの。それで、玲ちゃんに勝ったら、今日からウサぴょんと呼ぶことにするですの。最後に京香ちゃんは、語尾に【りん】をつけることにしたですの」
「ちょ、それ酷くねーか?」
「そうよ、横暴よ!」
玲、京香さんの2人がすぐに反論をするが、僕からみたらどっこいどっこいの条件な気がする。
「嫌なら奈菜と勝負しなければいいと思うんですの♪」
「むかー。する! 負けても許さないからな」あっさり挑発に乗る玲。
「うーん。だったらあたしはパスかなぁ。だって、今でも勝てないのだから、ハンデでもくれないと無理だわ。勝てない勝負はしない主義なのよ」
ふむふむ、京香さんは慎重だね。
結局、僕と玲、奈菜ちゃんの戦いになった。京香さんは遠慮して練習するらしい。
僕が喝采を受けるだけの予定が、どうも変な方向に進んでる気がする。
しかし、やるからには勝つ! この小さな勝利の積み重ねが僕の評価に繋がると信じよう。
序盤から神懸り的なピン倒しを披露する奈菜ちゃん。急に強敵と化した玲。
勝負は白熱するかと思われたが、僕の秘策により情勢が変化した。
その秘策とは、スカートが捲れるから恥かしくなる。つまりは、見えないようにしちゃえばいいという短絡的なものだ。
そこで、夕方寒いかもと思って持ってきていたカーディガンを、お尻を隠すように広げて腰に腕の部分を結び、背後からは見えないようにしたのだ。
重さもあり、ちょっとやそっとの動作じゃ捲くれなくなった。
我ながら賢い知恵だね。女子高生なら普通にしてるじゃんとか言う人はデコピンです。
それを踏まえて第3ゲーム、
僕 132
奈菜ちゃん 126
玲 118
京香さん 80
ふふふ。見てよこの実力! さぁ崇めるがいい♪
「おおお、由乃凄いなぁ。1位か」
「由乃さん見事だわ」
やっとだ。これをずっと聞きたかったんだよ!
久々だから気持ちいいわぁ。見栄王の面目躍如だよね!
さてと……
「なーなちゃん。約束だよねぇ♪」素敵な笑顔を向けてみる。
「うううう、由乃ちゃんの好きにしていいですの」奈菜ちゃんは残念そうに肩を落としながら後ろを向いて、後頭部を少し上げる。その際に奈菜ちゃんの気持ちを表すようにポニーテイルが悲しく揺れた。
「それじゃー♪」奈菜ちゃんのポニーテイルをぐいっとひっぱる。
「うぐぅ」奈菜ちゃんの顔が軽く上に跳ね、自然と声が漏れた。
うーん。いいねぇ。この触り心地、楽しいものがあるね!
くい、「うぐぅ」くぃ「うぐぅ」くぃ「うぐぅ」遊んでいると、
「うわ、面白そうだなぁ。アタシもそれにしとけばよかった」
「確かにねぇ。私も今度賭けする機会があったらそれにするわ」
玲と京香さんの羨む声が聞こえてくる。
ふはは。勝利者のみが与えられる特権なのだ!
そのまま弄っていると、ついに奈菜ちゃんから泣きが入る。
「ふぇーん。そろそろ由乃ちゃん勘弁して欲しいですの」
むむ、どうしようかなぁ……ちょっと惜しい気もする。
でも充分堪能はしたし――そろそろ可哀想かな。
「しょうがないなぁ。それじゃ許してあげるですの♪」
「はぅ。また言ったですの……」
「さて、そろそろ帰るか」奈菜ちゃんが開放されたのを見て、玲が出口に向かって歩きだした。
「ちょっと待つですの!」すぐに奈菜ちゃんが呼び止める。
「何さりげなく無かったことにしようとしてるですの! ウサぴょん」
玲は顔を引き攣りながら振り返った。
「ぐ、覚えていたか……由乃もっとポニーテイル引っ張っていいぞ」
すっかり自分のことで忘れたよ。でも逃げるのはずるいよね。
ここは公平に奈菜ちゃんを支援する。
「ウサぴょん約束守らないと駄目だよ♪」
「ぐふふ。ウサぴょん。あはははははは」
ツボに入ったらしく、京香さんが大爆笑している。
笑い上戸だったのか……
「こら、なんで由乃と京香まで呼んでんだよ! 奈菜だけだろ……ていうかさ。それ苛めじゃね?」
「似合ってるですのウサぴょん」
「うわぁぁああ」玲が体をくねらせてもがいている。
玲の悲鳴は駅で別れるまで続いた。
僕と奈菜ちゃんは帰りが同じコースだったので、一緒の電車に乗った。
椅子に座れなかった為、出入り口付近で2人仲良く会話をしていた。
楽しい時間は早く過ぎるもので、もうすぐ下車する事になりそうだ。
奈菜ちゃんの降りる駅は、僕の降りる駅の3個先らしい。
ここで賭けに負けた時の、残念そうな奈菜ちゃんの顔を思い出した。
まぁ、今日は奈菜ちゃんのお陰で楽しめたし、これぐらいはいいかな。
「はい、なーなちゃん。これあげるよ♪」僕は後ろ手で自分の髪を止めているリボンを解くと、奈菜ちゃんの前に差し出した。抑えを失った長髪が広がり、少し頭を振って整える。
「え、え? 賭けに負けたのにいいんですの?」奈菜ちゃんは目の前にあるリボンを見て躊躇している。予想もしてなかったに違いない。
「うん、いいよ。欲しかったのでしょ? お友達になった記念にあげるよ」
「はぅ、由乃ちゃんは優しいですの。で、でも、本当にいいですの?」
「だ、か、ら、いいって言ってるでしょ」僕はそう言って、手にもっているリボンを奈菜ちゃんの手の中に握らせた。
「ううう。ありがとですの。大事にするですの!」
奈菜ちゃんは心底嬉しそうにして目を輝かせている。
「うんうん。呪いとかには使わないでね」
「そんなことしないですの!」
「あはは、それじゃ駅に着くから又明日ねぇー」
丁度このタイミングでプシューとドアが開いたので、そこから僕は降りていった。
奈菜ちゃんは笑顔で手を振って見送ってくれた。
うん、いいことをした気がするね。
それにしても邪魔だなぁ、この髪切るとか在りなんだろうか……歩く度に長い髪が揺れてとても気になるのだ。
でもなぁ……結局いつものように考えを改める。
此処まで伸ばすのは大変だったろうし、もし由乃がこの体に戻った時にショックを受けたら嫌だしね
父さんの泣きそうな顔も同時に浮かんだが、それはどうでもいいだろう。
ちなみに僕の考えでは、男の僕の体を由乃が代わりに使っていると思っているのだ。
いつか再び戻る可能性もある……じゃなかったら、由乃が消えたみたいで救われないじゃないか。
いやー ボーリングと始めに書いていて、大慌てで修正しました。
辞書を調べるとボーリング(掘削)納得ですね。
でも、ボウリングよりボーリングというイメージが……
とどうでも言いことを書いてみます。