友達出来ました
クラスメイトA君と一緒に4階の階段脇にある1-Cの教室に入る。
まだ、比較的に早めの時間なので、教室内の人数はまばらだった。
此処で、教室の掃除をして教壇にお花でも、というアザトイ作戦も思いついたのだが、さすがに狙い過ぎな気がして躊躇した。
あくまでも、自然に僕に好意を向けさせるのが目的なのだ
このバランス感覚が大事とも言える。
それをする上で、僕は初めからかなりのアドバンテージを持っている。
まず見た目、これは第一印象に優るものはないだろう。
次は、男の考えが判ること。
女の子の知識と、男の思考を僕は持っている。
1人分の人生しか味わってない相手に、負ける訳がない……と信じたい。
とりあえず、本日の一時間目になるまで交遊を広めることにした。
手短なところで、隣の席から。
A君と違い、近所の席ぐらいは一通り頭に入ってるから簡単だ。
しかし……なんというのだろうか?
えーーと。まだ来て居ないんだよね。
始業ベルがなる30分前だし、仕方ないかもしれない。
ならば、昨日自己紹介で聞いたおさらいをしておく事にする。
右隣の席は、宇佐美 玲
ショートカットの大柄な女子で、明るい性格と、スポーツが得意そうな見た目。
クラスのムードメーカーになる雰囲気だ。
是非とも親しくしならなくてはいけない。
左隣の席は、小笠原 奈菜
まだ幼さを残す小柄な外見の少女。
長い髪をポニーテールにしている。妹に欲しそうな逸材だ。
ここで注意するのが、最初に男子から仲良くなるのは不味いこと。
男子なんて、女子が声を掛ければすぐ喜ぶのだ。後回しで充分。
元男の僕が言ってるんだから間違いないよ。
初めに女子の基盤を作って置く、これが大事だと思う。
女子の嫉妬心はキツソウだし、男好きなんて言われたら元も子もない。
ここは慎重に行くべきだろう。
そう考えていると、教室に、小笠原さんがリボンを揺らしながら入ってきた。
あのポニーテール。無償に引っ張りたくなるね!
猫が猫じゃらしにじゃれるのと同じで、ポニーを見たら引っ張る。
これ仕方ないと思うんだ。
小笠原さんが鞄を机の横に掛け、席に座ったので声を掛ける。
「おはよう小笠原さん」
「おはよですの。上杉さん」
この舌足らずな感じが似合い過ぎだよ。
「今日は、実力試験があるから憂鬱だよね」
本日は、英、国、数、理、社会の5科目、実力試験と言う名の嫌がらせが行われる。
「そうなのですの。まだ何も教わってないのに、試験なんて意味が無いと思うのですの」
「気持ちは良く判るのですの?」
「むむ、上杉さんはですの言っちゃ駄目ですの。これは奈菜だけですの」
「由乃も言いたいのですの?」
「うー。由乃ちゃんは苛めっ子ですの。苛めはよくないですの!」
「あはは、ごめんごめん。でも奈菜ちゃんが言うと、遂真似したくなるんだよね。あっ奈菜ちゃんって呼んでもいいかな? 小笠原さんよりも名前の方が可愛いと思うし」
「奈菜も、名前の方が好きなので嬉しいですの。奈菜も由乃ちゃんと呼ぶですの」
「勿論。よろしくね奈菜ちゃん」
「此方こそですの由乃ちゃん」
出来れば「お兄ちゃん」と呼んでとは言えないよね。
こんな幼い妹ならお持ち帰りしたいのに。
「由乃ちゃん? 今嫌な感じがしたですの?」
奈菜ちゃんの目がジト目になった。
「きっと、気のせいですの?」
「ああああ、又言ったですの!」
「おっ、楽しそうだな。アタシも混ぜてよ」
急に背後から掛かった声に僕は振り返る。
そこには、宇佐美さんが居た。
奈菜ちゃんとのじゃれ合いに夢中になり過ぎて、宇佐美さんが隣に座ったことに気付いてなかったのだ。
少し汗を掻いているところを見ると走ってきたに違いない。
「あ、宇佐美さんおはようですの」微笑む。
「おはよ。上杉さん、それと、うーーん。ロリさんもおはよ」
「ちょっと由乃ちゃん。またですの言ったですの! あと、奈菜はロリじゃないですの!」
「まぁまぁ、いいじゃんロリ。アタシは羨ましいけどな。それに、奈菜って名前よりロリの方がインパクトあるだろ?」
すごい理屈だ!
奈菜ちゃんは、言葉を失っている。
初対面に近い相手を、ロリと言いきれる宇佐美さんは大物かもしれない。
ま、奈菜ちゃんを助けてあげよう。可哀想な気もするしね。
「宇佐美さんあんまり苛めちゃ駄目だよ。奈菜ちゃんは少し子供っぽいだけなんだから」
あれ? 奈菜ちゃん更に落ち込んだ?
「そうだな。やっぱり幼児を虐待してるみたいで悪いしな。それと、その宇佐美さんって名前で呼ばないで、玲って呼んでくれないか? アタシも由乃って名前で呼ぶからさ」
「了解。でもウサちゃんとかあだ名で呼ぶのも可愛くて良かったのに」
「だー勘弁してくれ。アタシのキャラじゃないから。それこそ、由乃の方が似合うだろそれ」
「そんなことないよ。でも良くわたしの名前を覚えてたよね。ちょっと嬉しいかな」
僕みたいに下心のある人間じゃなければ、上で精一杯。下まで覚えている人は稀だろうと思う。
「ああ、それ? 可愛い女の子は全部アタシのモノだからだ!」
……これ? 冗談、だ、よ、ね?
「玲は面白いね。だったら奈菜ちゃんなんて、ストライクゾーンでしょ?」
「うーん。奈菜かぁ……」
真剣に悩みだしたんだけど……
「やはり、幼児に手出しするのは倫理的にどうかと思う気がするのだが――」
「……さっきから聞いてると、幼児とかロリとか2人とも酷すぎるですの!」
あ、奈菜ちゃん立ち直ったみたい。そして、何故に僕も!
「そうだよな。確かに幼女にロリと言うのは悪かった気がする。ゴメンな。でも敢えて言おう。見知らぬ人について行っちゃだめだぞ? お姉さんと約束だ」
やはり玲、まるで判って無い。僕の番か……
「ほら奈菜ちゃんは可愛いから狙われやすいと思うんだ。犯人も狙うなら可愛い娘がいいよね。気をつけなきゃね」
こんな感じでいいのかな? 奈菜ちゃんの機嫌が少しは良くなった気はする。
「むむ。奈菜が可愛いからいけないのですの?」
「そうそう。そういうことだよ」
「でも、ですの? そんなこと言ったら、由乃ちゃんの方がもっと気をつけないといけないと思うのですの?」
さすがに、僕は高校生だから大丈夫とは言えないよね。
「ああ、由乃は問題ない。アタシの由乃に手を出す奴は成敗してやるからな! ははははは」
……ああ、玲って、本当にそっちなのね。誰だよ、ムードメーカーとか言ってたのは! 僕か、僕だった気がする。
でも女になったのに、女に注意ってどういうことこれ?
理不尽だ……
「はいはい。玲も冗談言ってないで、奈菜ちゃんと仲良くしないとね。クラスメイトなんだから」
もうこれ、全部冗談にしてしまおう!
「え、別に――」
玲の反論を許さないように、殺気を込めて半眼になる。
「冗談だ、よ、ね?♪」素敵な笑顔もおまけでつける。
おお、何故かバックに虎が出た。
うーん。花は難しいなぁ。薔薇とか出せると、男は瞬殺出来そうなのに。
「そ、そう。全部冗談だ。よ、よろしくな奈菜」
玲の目が泳いでる。
「むむ、そうだったですの。奈菜も過剰反応だったかもですの。よろしくですのウサチャン♪」
うわ、それは覚えてるのか、最後に出すとは奈菜ちゃんもやるなぁ。
「ウサチャン言うなぁ!」玲の叫び声と担任の河田 隆俊の入室は同時だった。
だが、好感度は上がったはず。少し、いや大幅に予定はずれた気はするが……
本来なら、きゃーきゃーうふふみたいな感じになる予定だったのに、何故にこうなる。
ヒロイン、先は長いぜ……
こんな感じの物語になります。
きっと、作者の書く作品なので、このまま変なノリのまま行くことになるかもしれませんが、こちらの作品もどうぞよろしくお願いします。