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勝負をするなら勝ちましょう 3

 いきなり呼ばれた名前に僕は怪訝な顔をして振り向いた。

「はい、そうですけど?」

 そこには、僕達と同い年ぐらいで、ジーンズにチェックのポロシャツというラフな格好をした男子がいた。

 小麦色の肌に筋肉質な体付きは、運動部にでも属しているのだろう。

 中々愛嬌のある顔を今は興奮の余り少し赤くしていた。

 僕は暫く眺めていたけれど、この男子との接点が思い出せない。

 なんで僕の名前を知っているのか全く謎だった。

「あ、やっぱりそうなんだ。こんなところで上杉さんと会えるなんてラッキー!」

 男子は僕の言葉を聞いて急に喜びだした。

 しかし、肝心な部分が判らない僕はリアクションの取り様が無かった。

 困ったなぁ……チラリ宏隆の方を見ると熱々のチーズハンバーグを口に含みながら、この男子を睨みつけていた。

 器用な真似だと関心する。

僕が困惑しているのが判ったらしく、

「あ、ごめん。俺、1ーEの荒川あらかわ 貞臣さだおみ、由乃ちゃ――上杉さんは有名だけど、やっぱり俺のことは知らないかぁ」

 自分から自己紹介してくれた。

「すいません……」僕はペコリと謝るしかなかった。

 実際知らないしね。

 でも、今の内容で大体判った。

 白桜学園の生徒で同学年ということなら、僕の名前を知っててもおかしくはないだろう。

 何故なら未来のヒロインだからね!

「だよね……」はははと荒川君が頭を掻いて少し残念そうにしている。

 流石の僕も全学年全生徒の名前と顔までは覚えていないのだ。

 だけど、勿体ないことしたとは思う。

 此処で名前でも出せたら僕の好感度が確変したのは間違いなかっただろう。

 うーん、世の中上手くいかないものだね。

 かといってこのままではいけない。

 下げた好感度を元に戻さねばマイナスのままなのだ。

 プラスにする努力を怠ってはいけないよね!

「でも、今覚えましたから、もう忘れませんよ!」

 可愛く笑って、必殺コスモスをバックに咲かせてみる。

 うん、媚びてますね! あざとい程に……これで落ちない男子など居ないよね!

「本当!」

 荒川君は口元を緩めて期待通りの反応をしてくれる。

 僕は内心でほく笑んでいた。

 その時――

「コホン!」

 宏隆が顰め面で咳払いをした。

 忘れてた訳ではないけど、どうしてそんなに不機嫌そうなのかが判らない。

 僕の立場は知ってる筈だし、逆に味方をしてくれてもいい筈だよね?

「あ、ひょっとして彼氏? ゴメン邪魔したかな?」

 おかげで折角良い雰囲気だった荒川君が気まずそうになってしまった。

 僕は軽くどうしてくれるんだと宏隆を睨んだが、宏隆にはあっさり無視された。

 むかっ! さっきから態度悪いよね! 

 なんなんだろ――といっても今は宏隆より荒川君が大事。

「あはは、わたしに彼氏なんて居る訳ないですよ」

 手をパタパタ振って愛想笑いをしながら誤魔化す。

 荒川君はキョトンとする。

「え、そうなの? でもそこに……一緒にいるってことは、親しい間柄なんじゃ?」

「うーん、確かに親しいと言われればそうですが……幼馴染なので別に付き合ってるとかじゃないですよ」

「なるほどねぇ、だったら――」

「由乃それ食べないと冷めるぞ?」

「うん?」

 僕は突然の宏隆の発言に驚いた。

 そして、その指し示した先を見て納得する。

 僕のラザニアに出ていたぽこぽことした気泡が消えかけていたのだ。    

 拙い。ラザニアは熱いうちに食べるから意味があるのに……

 いかにファミレスのラザニアがレンジでチンとはいえ、こればっかりは譲れないよ!

「あ、ごめんね、上杉さんに会えたのが嬉しすぎて長居しすぎたかも。俺はもう行くから暖かい間に食べて、又今度話そうよ」

 僕とラザニアを交互に見た荒川君が、ふぅと諦めたような息を吐いた後、表情を改めて笑いかけてきた。結構良い人なのかもしれないね。

「ごめんねぇ」

 僕が上目遣いでペコリと謝ると、荒川君は気にしないでとばかりに首を左右に振って去っていく。

 その際に宏隆を見て何か言いたそうにしていたのが気になった。

 まぁ、でも無礼な奴だといったところだろうね。

 実際、僕もそうだと思うし。    

 邪魔者が去ったので僕はやっとラザニアを食べることが出来る。

 ラザニアはまだ十分暖かく、蕩けるチーズがまろやかな味わいを感じさせ美味しかった。

 ニンマリしながら食べていたら、突き刺さるような視線を正面から感じる。

 むむ、目を少し上げて確認すると、宏隆がジト目で睨んでいた。

 まだ半分近くハンバーグが残っているのだからさっさと食べればいいのにね。

「なーに?」

 可愛く小首を傾げて聞いてみる。

 困った時は可愛い動作をするのが世の中を円滑に過ごす秘訣だと思うんだ。

「鈍感……」

 宏隆はボソっと呟くように言った。

 むっ、鈍感って……僕が悪いみたいだよね?

 ……あっ、そういうことか! だから今の台詞なのか――

「まったくもーそうなら素直に言ってよね、宏隆の言いたいことが判ったよ」

「ほほぉ?」

 宏隆はまだ疑っているらしく、言って見ろとばかりに顎をクイッと動かした。

 僕はラザニアをスプーンで掬うと宏隆の顔の前に差し出す。

「はい、どーぞ――宏隆も食べたいなら食べたいって言いなよね」

「……ちげーよ!」

 宏隆は文句を言いつつもちゃっかりラザニアをハムッと食べていた。

「え……だったら、何?」

 空になってしまったスプーンにラザニアを一口掬って僕も食べる。

「はぁ……もういいわ。なんか由乃に言っても無駄な気がしてきた」

 酷い言い草だね。それに、妙に呆れられているし……

「意味が判らないんだけど?」           

「判らないのか……今のって間接キスなんじゃねーの?」

「ああっ……」

 言われてポンと手を叩き――な、何てこと言いやがる! 

 急激に頬の温度が上がり出す。

「宏隆、わたしをどういう目で見てるんだよ! 以前は普通にしてただろ?」

 宏隆が「はぁ……」と溜息を付く。

「だ、か、ら、由乃でも判るようにいうとな。何度も言っているように、オレは今日、好きな女の子とデートに来てる訳だ。幾らなんでも、デート中の相手を無視して他の男の相手するとかありえないだろってさっきは怒っていたのさ――だけど、今のを見て大丈夫だなと安心した。そのスプーンを簡単にオレの口に含ませるってことは親愛の情を抱いているということだろ? ならば、相思相愛みたいなものじゃないか」

「う……」言葉に詰まる。

 宏隆の言うことは客観的に見たらその通りであった。

 実際、罰ゲームとはいえ本日は宏隆とデートしにきているのだから。

 そうなると気になることは……間接キス云々に関してだ。

 以前メロンパンをうちのクラスの男子に無意識にあげようとして奈菜ちゃんに怒られたことがあった気がする……あの時はパンだったけど、今度はスプーン。

 どう考えてもパンよりスプーンの方がハードルが高い。

 これは宏隆の言うとおりなのか……いやそんなことは無いだろう。

 まだ男の時の気分が抜けてないだけなんだと思うことにして、この話題は置いておくことにする。

「でもさ、しょうがないだろ? ヒロインになるためには仲良くして支持者を増やすのが一番なんだから、それで怒られて困るよ」

「確かにそれはあるかもしれん。オレも一度協力するって言ってしまったからなぁ」

 宏隆が少し唸る。

「なんだか、後悔してそうな口ぶりだね」

「おう、当然だ。オレの好きな女に有象無象の害虫が寄って来るのは精神衛生上とてもよいからな」

「そんなこと言っても駄目だからね。ヒロインになるのが夢なんだから!」

 これだけは本来の由乃の為に曲げれない。

 決して僕の見栄だけじゃないんだよ。

 4:6ぐらいでどちらかに傾いてるのは気にしちゃだめだね。 

「ああ、判ってるさ、だから由乃も出来るだけオレに気を使えよな」

 宏隆にポンポンと頭を叩かれた。

「むぅ、馬鹿にされてる気がする!」

「気のせい、気のせい」

 ははは、と笑いながらも宏隆は再びポンポンと頭を叩いた。

 ふん、いいさいいさ……ムカツク僕はラザニアを食べることに集中することにした。

 宏隆はその僕の態度が面白いらしく、ずっと僕の頭に手をそのまま置いていた。

 鬱陶しかったが、どうも自分でどかしたら負けな気がしてくる。

 何時の間にか我慢比べになっていた。

 そして、それは僕のパフェが来るまで続いた。

 ウェイトレスさんの前では宏隆も恥かしいらしく手をどかしたのだ。

 しかし、このままやられっぱなしなのは僕の沽券に係わる。

 僕はパフェのクリームの部分を長いスプーンで掬い宏隆の前に突き出した。

「宏隆あーん♪」

「おい……」

 宏隆の表情が引き攣っている。

 甘いモノ嫌いの宏隆には先ず食べれないよね。

「ほら、わたしを大好きな宏隆くんは食べたいよね? だって、間接キスだもんね」

 ニッコリ笑ってあげた。背後に黒い羽と尻尾が出ているに違いない。

 それでも宏隆は食べようと果敢に……挑むフリをしてそっぽを向いた。

「ふふふ――うん、美味しい」

 勝った! 何に勝ったのか自分でも良く判らないけど、パフェは最高だよね!

遅くなりましたがなんとか更新を……

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