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チャンスが来た! 2

 先頭打者、松本君の打席はたったの3球で終了してしまった。

 宏隆の指から放たれる、推定130k(僕目線)のストレートは、素人では打てる代物ではなかったのだ。

 昔から空手をやってただけあって、肩が強いのである。

 しかし、それだけで終わる程野球は甘く無い。

 2番、3番と打者が続き、うちのクラスの野球部員が宏隆の弱点を浮き彫りにさせることに成功した。

 まず、ストレートしか投げれないこと、素人ピッチャーが変化球も投げれたらチートだから、それは当然かもしれない。

 更にこっちが重要なのだけど、コントロールが悪いのだ。

 力を込めると、ボールの狙いが定まらず予測が付かなくなってしまう。

 キャッチャーの人もよく取れると関心するが、その点を考慮して本職の野球部員らしい。

 ちなみに、この情報を得るだけで、うちのクラスの攻撃回は終了してしまった。

 その、弱点は此方にも諸刃の剣であったようで、的を絞れない高速球につい手を出してしまい三振してしまうのだ。

 宏隆は自分達のベンチに戻る際に、僕に見せ付けるようにグラブをパンパンと叩いていた。

 ふん、今の間だけ勝ち誇らせてあげるよ。



 1回の裏僕達の守備、僕のポジションは勿論――ショート。

 以前の僕なら宏隆に対抗してピッチャーをやれたけど、この身体はひ弱なのだ。 

 やれる訳がない。

 そこで、女子の担当の中では一番難しいショートをすることにした。

 ここからの距離なら、ファーストまでボールを投げられる。

 玲や京香さんは今頃バレーの最中だろうし、僕しか適任がいなかったのである。 

 そして、奈菜ちゃんはライトを守っていた。

 どうぞボールが飛ばないようにと祈るばかりだよ。



 1番、2番をポンポンとアウトにし、3番には宏隆が右打席に入った。

 大きな身体でバットを構える様は見るものを威圧させる。

 うちのクラスのピッチャー、野球部の大熊おおくま 康利やすとし君も、少し警戒しているのか、マウンドに転がっている白い粉の滑り止め、ロージンを大目に付けていた。

 大熊君は、軽く呼吸を整えて宏隆にも負けない大きな身体を活かして打ち下ろすように投じた。

 宏隆は手が出せないのかバットをピクリともさせない。

「ストライクーゥ」

 そのままボールはキャッチャーのミットに収まり、同時に審判役の先生が派手目のポーズで声を張り上げている。

 その広角的に落ちていく球は、とても打ちにくそうだと思う。

 ――大熊君はすぐに2球目を投じた。

 コントロール重視のせいか先程よりも速度が遅い。

 一応警戒は残っているようで、キャッチャーの構え通りの外側を狙っている

 すると、いきなり宏隆が動いた。

 なんで、そのボール球に手を出す!

 僕の驚きをよそに、宏隆は左足を内側に思い切り踏み込み、バットを振り抜いたのだ。

 ボールはバットに吸い込まれるように当たり、カキーンと金属バット独特の音を鳴らして飛んでいった。

「「「おおお!」」」

 歓声が上がり、ボールは勢いを付けてライト線ギリギリに向かってあわやホームランか、と諦めそうになった処で、白線の外側に切れたのだった。

「なんて、馬鹿力……」無意識に呟いてしまう。

 僕がピッチャーをやってたら、勝負は呆気なくついたかもしれない。

 無理しないでよかったとホッとした。

 奈菜ちゃんがポニーテイルを揺らしながら追いかけてた気がするけど……うん、コメントはよしておこう。

 だが、今の球を見た大熊君の目の色が変ったみたいだ。

 素人と思ってた相手に今の当たりを打たれたのだから、プライドが傷ついたのだろう。

 キャッチャーが出したサインに首を一つ振ると頷いた。

 マウンド上で構えて、足を振り上げる。

 そうして投じたボールはストライクゾーンに入るように見えた。

 勿論、宏隆はツーストライクと追い込まれている為にそのボールに手を出してしまう。

 宏隆が踏み込み、ボールがバットに当たる――と思ったその時、ボールはクンっと斜め下に曲がった。

「変化球!」

 僕同様騙された宏隆は、体を崩しながらもバットを強引に振り切る。

 それが、功を奏したのだろうなんとか当てる事に成功したのだ。

 ボールは、打ち付けたように弾み2塁と3塁の間、つまり僕の方に向かい早い速度で飛んできた。

 チャンス! と内心喜びつつ素早く数歩ボールの飛ぶ方向に近付き、グラブをボールに向けてそのまま飛びついた。土のグラウンドだから転んでも痛くない。

 小さい体を一杯に伸ばして距離を稼ぐ――無理かな? そう諦めそうになる瞬間、

ボールはなんとか僕の目論見通りにグラブに収まった。

 そして、今の勢いを利用して体を反転させると、一塁に向けて全力で投じる。

 全力じゃないと届かないんだけどね!

 そのボールは1バウンドしてファーストのミットに収まり、体が崩れていたことで走るのが遅れた宏隆をアウトにすることに成功したのである。

「「「おおおおおお!!!」」」

 宏隆が特大ファールを打った時以上の歓声が上がった。

 味方からは、「「「上杉さん(由乃ちゃん)凄ーい!」」」と賞賛の雨あられ。

 ふふふ、気持ちいいよ! もう、宏隆ったら何だかんだで僕を目立たせてくれるよね!

 感謝しながら宏隆の横顔を見ると 本気で悔しがっているような気がする?

 まぁ、結果オーライだし、僕の守備範囲に飛ばしたことを恨むんだね。


 

 2回の表、僕達の攻撃。

 先頭打者は4番の奈菜ちゃんだった。

 何故奈々ちゃんかというと、その体格にある。

 奈菜ちゃんのストライクゾーンの狭さは、チームでも判りきっていたことであり、女子では一番の戦力とみなされたのだ。そう、ファーボール要員として。

 この作戦は見事に的中する。

 宏隆のノーコンはバッターボックスの内側に構えた奈菜ちゃん相手に、ストライクを入れることが出来なかったのだ。

 女の子にぶつけてしまう恐怖もあったのだろうね。

 こんな事なら、女子打線を組めば良かったのだが、5番打者、6番打者は男子、アッサリ凡退するのだった。

 そして、遂に僕の打順が来た。

「「「上杉さーん」」」

 うちのクラスのベンチから歓声が上がる。

 先ほどの僕のプレイをみていたからこその期待だろう。

 僕は、右手で金属バットを持ち、左手で歓声に応えながら左のバッターボックスに入った。

 宏隆は右利きだから、少しでも有利になろうとした為だ。

 僕も勿論、バッターボックスの内側に位置して、宏隆の動揺を誘う。

 この勝負は負けられないのだから、なんでも利用しないといけないよ!

 マウンド上の宏隆はウワッ! とばかりに顔を顰めている。

 そんな宏隆を見ながらバットを構えた。

 最悪でもファーボールが取れそうなのがいい! と内心ほくそ笑んでいるのは秘密だよ。 宏隆はそれでもピッチングフォームに入り、体の全てのバネを駆使して投げてきた。

 投げ終わった後に、背中を見せる程だ。

「え!」

 僕の驚く声と同時に、横を剛速球が通り抜けていった。

「ストラィクゥーー」例の如く、審判がオーバーアクション付きで叫んでいる。

 こら! 宏隆を軽く睨む。

 女の子相手に、何でそれなんだよ! というより、僕だけ本気過ぎだろ!

 当たったら骨折れるんじゃないだろうか、と疑う程の勢いとスピードだったのだ。

 軟球だから大丈夫と思うけど、大人気なさすぎだよ!

 動揺している間に、宏隆は続けて球を投げてきた。

 くそぉ!

 しかし、早すぎて手が出ない。なんとかバットを振ってみるものの結局は三振に終わるのだった。

 僕の時だけストライクゾーンに入るって、何なのかな!



 その宏隆がベンチに戻る際、

「直江、由乃ちゃん相手にアホか! オレのアイドルにボールをぶつけたら殺すぞ!」

 なんて素敵な台詞で怒る宏隆のチームの紳士がいた。

 心からその通りと応援したくなったよ!

 しかし、宏隆はめげることなく、 

「いやさ、由乃に言われたんだわ。本気の勝負だから手加減するなってさ、だからオレも仕方なくなんだわ」

 等という大嘘を吐いていた。

 僕は手加減してって頼んだのに! とは流石に口に出来ないから我慢したけど、批判を全部僕のせいにするとは策士だよ……

「そうか、なら仕方ないな。由乃ちゃんは正々堂々が好きなのか、ますます素敵だよな!」

「そ、そうだよな」

 その後、宏隆は墓穴を掘ったみたいだけど、一応僕の好感度の為にはなったみたいだから、許してやることにした。

 まだ2回だし、最後に勝てばいいんだよ! 

 か、勝てるよね? ちょっと自信が無くなりつつあるよ……

真面目に描写してたら、何このスポコンとか思ったのは内緒ですw


たまにはちょっとだけシリアスもありですよね。

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