チャンスが来た! 1
「ふふふふふ」
今日は球技大会、そう僕が目立つ為の大会である。
由乃ちゃんはスポーツも出来て素敵! みたいな印象を皆に与える好機なのだ。
始まるのが今から待ち遠しいね!
「うわ、凄い悪い顔してるな」
グラウンドの隅で一緒にいた、体操着姿の宏隆が苦笑いを浮べている。
失礼なことを言う奴だよね。
「こんな美少女を捕まえて言う台詞じゃないよね?」ニッコリと笑顔を作ってみる。
「……汚い、その仕草絶対詐欺だよな。見た目だけは本当可愛いんだから」
「またまた、ひーろたーかくーんはわたしにメロメロだもんねー。由乃ってば困っちゃうわ」
頭をリズムに乗って左右に振りながら、からかってみた。
「ぐ、いや、まぁ、そう、なの……か?」宏隆は渋面になっている。
元の宏隆が好きなのは由乃、これは間違い無い。
そして、本物の由乃も宏隆のことを慕っていた。
二人は相思相愛の仲だったのだ。
しかし、入れ替わった僕と宏隆にもその影響がある訳で、お互い心の中が複雑になっているのである。
まぁ僕的にはフレイヤになる為と思えば、今のような女の子の仕草等余裕となったし、男にしろ女にしろ、賞賛の声が聞ければ満足なのだ!
――と強がりたいけど、実際のところは女になったことを気にすると恥かしくて何も出来なくなるんだよ。
特に前の僕を知る宏隆の前になんて出れたものじゃない。
こういう時、目標があるっていいよね。
「それじゃ、そろそろ時間みたいだね。頼んだよ宏隆!」
土のグラウンドの中央には両クラスメイトが集まりだしていた。
「なんだそれは?」
宏隆は本気で判らないのか怪訝な表情で首を捻っている。鈍いなぁ!
「だ、か、ら、宏隆は相手チームのピッチャーでしょ。か弱い僕の時だけ打ちやすいボールを投げてよ。女子に手加減しても周りは文句を言わないからね」
「……そういうことか――だが断る! 由乃には本気で勝負してやるぞ。その方が打ち勝った時により目立つだろうしな。その代わり、もし、オレに勝ったら何か好きな物買ってやるってことでどうだ?」
「うわ、信じられない。鬼がいるよ! そんなに勝ちたいのか!」
「ふふん、なんとで言うがいい。勝負は正々堂々としないとツマラナイだろうが。ああ、それとも何か? オレには勝てないと認めたってことなのかな……ゆーのちゃん?」
その小馬鹿にしたモノ言いが勘に触る。
宏隆め! 絶対後悔させてやるからな!
先に僕がやったなんてことは、記憶から消去されてるよ。
「――良く判った。さっきの約束は忘れないでよ。精々今のうちにお財布の中身と相談しとくんだね!」
「それは、勝った時の話だろ? オレが由乃に負ける訳が無い――そんなに自信があるなら、由乃も何か賭けるか?」宏隆がニヤリと口元を歪める。
むむ! 宏隆にしても野球は素人に毛が生えた程度の筈。
それなら、ちょっと早い球が投げられるだけだ。この僕に不可能はないよね。
「いいよ! 乗ってあげようじゃない。どうせ、わ、た、し、が勝つからね!」
「ほぉ。威勢だけはいいな。それなら、オレが勝ったらどうするかなぁ?」
あれ? つい釣られて約束してしまったけど、それって拙いような……
条件ぐらいは決めておいたほうがいいよね。
「ちなみに、エッチなこととか、実現不可能なのは却下ね!」
宏隆の顔がボンと赤くなった。
「あ、アホか! 初めからそんなことをさせようなんて思ってない!」
「なら良かった、宏隆君もお年頃だからね、気をつけないと」
「くぅ……まぁいい! さっきの話忘れるなよな」
宏隆はそう言い残すとクラスメイトの輪の中に混ざっていった。
先程から、クラスメイトに手招きされていたのだ。
上手く篭絡? する予定が、まるで効果が無かったけど、そこはあれ……
好きなものを買ってもらえることになったし、僕的には大成功だよ。
宏隆に負けるとか有り得ないしね!
「由乃ちゃん。直江君と何話してたのですの?」
僕が自分のクラスの集まりに到着すると、すぐに奈菜ちゃんが話し掛けてきた。
赤いジャージ姿で、僕と同じ女子の体操着だ。
ちなみに男子の方は緑色で、評判がとても悪い。
「うん、お互いの健闘を讃えあってただけだよ」
手加減の相談の筈が、賭けになったなんて言えないよ。
「なるほどですの、でも、奈菜野球なんて殆どやったことないですの、大丈夫ですの?」
「問題ないよ。奈菜ちゃんは野球をやる上で有利だもん」
心配する奈菜ちゃんを安心させるように微笑む。
実際、身長のお陰で、ストライクゾーンが狭いからね。
「む! 今嫌な感じがしたですの?」奈菜ちゃんに半眼で睨まれた。
「き、気のせいですの!」
鋭い、宏隆とは大違いだよ。
「あああ! すぐですの言うですの。由乃ちゃんは意地悪ですの!」
「ですのは世界を救うからね!」
「そんなの聞いたことないですの!」
そう言い合ってるうちに開始時間が来た。
体育の先生がホームプレートの前に立ち、僕達1-Cと宏隆達1-Bがそれを挟むように整列する。
男女混合の野球対決は、9人のチームに対し、お互い男子5、女子4という組み合わせだった。
野球というものは、縦のラインが機能してればなんとか成るものだから、キャッチャー、ピッチャー、セカンド、センター、そして欲をいってファーストに男子を配置しているのだ。
「礼!」
体育の先生の合図の元、お互いに頭を下げて、各自ポジションに散っていく。
先攻は僕達1-C。
太陽は燦々と輝き、今日は暑くなりそうな気配を感じさせていた。
まるで僕の勝利を太陽も祝ってくれているようだね。
1番打者の、松本君が打席に入り、宏隆がマウンドで構えている。
体育の先生が片手を挙げ、
「プレ○ボーイ」
しょうもないジョークと共に野球対決の幕は切って落とされた。
「………………」
誰もクスリともしないのが何処かシュールであった。
お待たせしました。
ぼちぼちこちらの連載も再開させようかと思います。




