お昼休みは……
お昼休みの教室では、お弁当等を食べる者、仲間内で無駄話をする人達で賑わっていた。
僕はというと、奈菜ちゃんと机を合わせ、お互い向い合う形で食べるのが常である。
玲と京香さんが学食派の為、自然と2人で一緒することになったのだ。
「由乃ちゃん今日はパンですの?」
「そうだよ。此処のメロンパンが好きなんだよね」
今食べているホイップ入りメロンパンを見せてあげる。
「奈菜も好きですの。好きなパンと言われたら2位の座を進呈するですの!」
「へー。それなら1位は何なの?」
「1位は、更に美味しいパンを見つける為に空席ですの」
おお、そういう捉え方もあるのか――好ましい考え方だと思う。
「なるほどね。奈菜ちゃんのお弁当も美味しそうじゃない」
小さなお弁当箱には、色とりどりの素材がバランス良く配置されていた。
「えへへ。奈菜の手作りですの。由乃ちゃんになら欲しいの上げるですの」
「うーん。だったらその卵焼きちょーだい」
「はいですの」
奈菜ちゃんは箸で卵焼きを掴み僕の目の前に差し出してくれた。
「ありがとう」
そのままパクリと卵焼きを頂くと、ほんのりと甘い玉子が口の中で溶けていく。
それは、好みの味付けでとても良い出来だった。僕は断然甘い派なのだ。
奈菜ちゃん、只のロリじゃないね!
「それじゃ奈菜ちゃん、食べかけで悪いけどこのメロンパン要る?」
「欲しいですの!」
「はいどーぞ」
奈菜ちゃんにお返しとしてメロンパンを手渡してあげた。
「ありがとですの」
受け取った奈菜ちゃんは、すぐに一口含み、素敵な笑顔になっていた。
甘いモノを食べてる時って皆幸せになれるよね。
「うう、美味しかったですの!」
「どういたしましてですの」
差し出されたメロンパンを貰い、僕もハムッとかじる。
うん。甘くてサクサク、穂のかに香るバターの匂いがいい感じ。
「「「あっ!」」」
すると、近くの席の男子達から声が漏れ聞こえた。
何か起きたのか見回すと、何故か全員が僕の持っているメロンパンに目が釘付けになっていた。
「どうしたの?」首を傾げながら尋ねてみる。
「いや、なんでもないよ!」
「気にしないで!」
「急にゴメン!」
そう言われても、その余所余所しい態度が怪しさを増してるんだけど……
「皆もメロンパン食べたいの?」
「「「いいの?」」」
おおっ凄い喜んでる。それほど食べたかったのか。
「別に減るモンじゃないしね」
「減るですの!」
奈菜ちゃんにしては見事なツッコミだよ!
「あはは、まっ、一口ぐらいなら別にいいよー」
それで十分とばかりに全員、首を高速で縦に振っていた。そこまで貴重な品でもないけどね。まぁ、欲しがってるしいいかな。
「そんなの駄目ですの!」
しかし、予想外な声が奈菜ちゃんから発せられ、男子達はあからさまに情けない顔に変化した。
「どうしたの、急に大きな声出して?」
「はぁ……由乃ちゃんは判ってないですの。男は狼ですの!」
「一匹狼って響きはカッコイイよね。うん」
「……それならハイエナですの!」
「……アレはイマイチかなぁ」
奈菜ちゃんは僕の顰めた顔を見てやっと満足したようだ。
「でも、なんでハイエナなの?」
今の時代、メロンパン一個でそこまで言われることは無いと思うんだけど……
「だ、か、ら、由乃ちゃんは目が離せないですの。男子達は由乃ちゃんの間接キスを狙ってたですの!」
あー、そういうことか! ジトーって男子達を見ると全員が目を逸らした。
うん、確信犯だね。
「あれ? でもそれなら、奈菜ちゃんとも間接キスしたような気がするよ?」
「奈菜は良いですの! 由乃ちゃんは奈菜のモノですの!」
それもオカシイような……
あっ、そっか。幼い子がお姉さんに甘えたがるのは仕方ないのかな。
それなら説明も付くね。
「奈菜ちゃんは良い子だね」頭をなでなでする。
「由乃ちゃん――その目線が気になるですの……」
「うん? そうかな」お姉ちゃんが守ってあげるから! なでなで。
「何か嫌な感じがするですの!」
「気にしなくていいんだよ」なでなで。
「はぅーーー!」奈菜ちゃんが癇癪を起こしてしまった。
一方の男子達は、自分もされてみたいという顔をしてる。
まるで犬のように尻尾を振っているみたいだ。実際のワンコなら構ってあげるけどね!
「おーい! 上杉さーん!」
その時だった。急に廊下側、出口近辺の生徒から声を掛けられたのは。
「はーい。なーに?」
奈菜ちゃんをなでるのを一時中止して返答する。
「他のクラスの人が用事あるらしいよ。今外で待ってるんだけど」
「本当、ありがとー」
うーん、誰だろう。他のクラスってことは宏隆辺りかな?
まったく、お昼の貴重な時間にけしからんね!
食べかけのメロンパンはとりあえず袋に入れて、机の中に仕舞い込んだ。
そして、急用かもしれないし、出口に向かって歩いていくことにした。
奈菜ちゃんは不満気に頬を膨らましている。男子達も仕方ないかという雰囲気だ。
外に出ると――
「お姉さま!」
ツインテールの女の子に抱きつかれました……
ふぅ、やっとこの娘が出せました。
それにしても作者の作品って良くモノ食べてますね。