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素直にりんごを描けばいいのに

 美術の女性教諭の指示により、本日の課題は人物画のデッサンとなった。

 机は後ろに片付けて、椅子にスケッチブックを持った生徒が半円状に座っている。

「さて、私がモデルになりたい! という殊勝な人は居ないかな?」

「…………」

 シーンと美術室が静まりかえる。

 後に残るのは先生の予想通りという顔だけだった。

「こうなると思ったけど、誰も居ないようだから私の独断と偏見で選らんじゃうけど構わないよね?」

「「「えーー」」」一斉に非難の声が沸き起こる。

 モデルなんていう、疲れるだけで恥かしい作業は誰もやりたがる訳がない。

 ここで僕が! と颯爽と手を挙げれば皆は喜ぶかもしれないけど、じっとしてるのが苦手だからこればかりは勘弁して欲しいのだ。

「かといってこのままだと授業にならないのよね。そうだ、皆は誰の人物画を描いてみたい? 他薦でもいいわよ」

「……だったら、由乃がいいかな」玲が余計なことを言ってくれた。

「奈菜も由乃ちゃんがいいですの!」

「そうね。由乃さんなら可愛いし、描いてて楽しいかもねしれないわね」

 それにつられて奈菜ちゃんと京香さんまで賛同しだした。

「あっ、上杉さんなら俺もいいな」

「賛成!」

「やはり描くからには美少女だよな!」       

「アタシも上杉さんなら異議はないわ」

「うんうん、上杉さんやってよ!」

 負の連鎖が始まってしまう。ば○えーんまで行きそうな勢いだね。

 嫌だなー、百害あって一利無しだもん。

「皆こう言ってるし上杉さんやって貰える?」美術の先生が僕を見つめてきた。

 僕の退路を断つ気か!

 めっちゃ断りたい。かといって先生の好感度を下げるのは後々の為にならないよね。

 くぅ、やるしかないのか……見栄が邪魔するんだよーーーー。

「判りました……」渋々頷くしかなかった。

「本当! 助かるわ」

 やっと、決まったことで美術の先生がホッと胸を撫で下ろしている。

 パンの頭をしたヒーローに、「助けてー!」って叫びたいぐらいだよ。


   

 人物画のデッサンが始まり数分経っていた。

 僕は一人、中央の椅子に座ってこの世の不条理と戦っている。

 当初は何もしなくて良かったのに、現在では要求がエスカレートして、奈菜ちゃん命名、『明日を夢見る乙女』というポーズをさせられていた。

 足を組んで、両肘を揃えてその上に乗せる。

 そして、手の平で頬を包みこむようにして、斜め上を見る格好だ。

 普通に座ってるよりは楽だけど、これは結構恥かしいものがあるよ!

「由乃ちゃんは何をしても可愛いですの!」奈菜ちゃんは大喜びだ。

 クラスメイトから文句出ないのが唯一の救いだよ。

 はぁ……早く終わらないかな。

「その憂鬱な顔も素敵だわ」

 京香さんも活き活きしだした。その台詞は問題があると思うんだ!

 僕の味方は居ないのかな……さり気なく見回していると玲と目が合った。

 任せろとばかりに頷いてくれる。おおお、頼りになるじゃないか。

「由乃、そろそろ制服を脱ごうか!」

 ……期待した僕が馬鹿だったよ。

「ヌード! いいねー」アホな男子がすぐ喰い付く。

 する訳無いのにね。

「はいはい、授業中なんだからそんな事させませんよ!」

 美術の先生もこればっかりは止めてくれた。どうせならこの格好も……

 大体、何が悲しくてそこまでサービスしないといけないんだよ。

 好きな相手になら――って、あれ? 僕の場合女の子になるのだろうか? かといって女の子の裸は自分や体育の着替え等で見慣れてしまったし、多少恥ずかしいぐらいのものだ。そうなると男子? 無い無い。由乃の希望だと宏隆だろうけど、アレは親友だしなぁ。

 そうこう考えている間に、やっとモデル時間が終了した。

 時計を見るとかれこれ20分ぐらい経っている。

 首を回して凝りを解しながら自分の席に戻って行く。

「さて、上杉さん次のモデルを誰か指名してね」

 なるほど、モデルをした人に指名させていくシステムなのね。

 ならば!

「はい、奈菜ちゃん。小笠原さんにしたいと思います!」

「えええ、なんでですの由乃ちゃん!」

「なんでだろうね?」ニッコリ笑顔で微笑み返してあげた。

 理由は簡単、夢見る乙女のポーズは心に少なからず傷をつけたからね!

「ううう……」拒否権の無い奈菜ちゃんはトボトボと歩いて僕がさっきまで座っていた椅子に座った。

 少し不安そうにして皆が描くのを待っている。

 ふふふ、此処からが本番だよ。

「奈菜ちゃん、そのポーズはつまらないから、両拳を顔の前まで上げプンとばかりに顔を膨らます『駄々をこねる園児』のポーズやってみようか」

「そんなの嫌ですの! 奈菜は大人ですの。園児じゃないですの!」

「これはねゲージュツなんだよ。奈菜ちゃんが一番輝く格好を吟味したモノなんだ。モデルさんは速やかに履行するように!」

「横暴ですの。由乃ちゃん以外誰も望んでないですの!」

「そうでもないぞ、ロリはロリらしい格好というのはアリだな」

「奈菜さんが夢みる乙女のポーズをしても似合わないし、それならば由乃さんの意見に賛成だわ」

「ほら、玲と京香さんも同意見じゃない。さっさとするんだよ」

「むーーー」奈菜ちゃんはむくれている。そのまんま園児のポーズで通りそうなのは内緒だよ。

 駄々をこねる園児のポーズは、奈菜ちゃんの気持ちと裏腹に好評を得た。

 やはり適材適所なのだろう。

 僕も芸術的に仕上げてあげようと躍起になって描いたので中々の力作になったと思う。

 現代のパブロピカソと言われる僕の実力を持ってすれば他愛も無かったよ。

 そのお陰で奈菜ちゃんのモデル時間はすぐ終了してしまった。

 ――って! 明らかに僕より短いよ。10分も経ってないもん!  

 先生に聞いたところ、皆に希望された僕だけ長めに取ったらしい。理不尽だよ!

 そうして、奈菜ちゃんの怒りは玲に八つ当たりされ、玲はウサギのポーズをすることになる。

 その怒りを今度は京香さんが受け、女王様のポーズをさせられていた。

 似合いすぎだね…… 

 負の連鎖が止まることは無かった。   

 ちなみに僕の絵の評価は、人には得手不得手ってものがあるらしいとだけ言っておくよ。

短いですけど、キリが良いのでここで投稿しときます。



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