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遠足ですよ! 4

6/27 本文の一部を改変しました。

 とりあえず安全な場所に移動した。

 犯行現場に居るのは具合が悪いしね。

 京香さんが助けた女子は、1-Bの、柿崎かきざき 亜美あみさんと判った。

 近くで見る柿崎さんは、髪をツインテールにした可愛い顔立ちをしており、大人しい感じが男子に人気ありそうなタイプだ。

 柿崎さんは、僕ら三人に何度も頭を下げお礼をしたいと言ってくれたが、別にたいしたことをしてないからと引き取ってもらった。最後まで逡巡してたのが性格の良さを表している。

 一番被害を受けた京香さんも良いと言ってるのだから気にしなくていいのにね。

 それよりも他に気になることが出来た。一刻も早くそのことについて知りたいのだ。

「由乃さん、この方と親しそうね。恩人さんを紹介して貰えないかしら?」

 3人になってすぐ、京香さんが宏隆を見ながら聞いてきた。

「うんいいよ。直江君といってわたしの小、中学時代の同級生だよ」

「ども、1-Bの直江宏隆だ。上杉とは幼馴染みたいなモノかな。というか宏隆じゃないのか?」

 僕が右手を宏隆に向けて説明すると、宏隆は人の悪い笑みを浮べて返してきた。

「あれは、苗字が思い出せなかったんだよ。名前は何故か出てきたの!」

 苦しい言い訳です。はい。

「ふーん。オレって一度も上杉に名前で呼ばれた記憶が無いけどなぁ」宏隆が訝るように横目で見ている。

 ……まずいなぁ。そう悩んでいたら、京香さんが声を出したことで救われた。

「先にお礼を言わせて下さい。私の名前は、本庄京香です。先程は助けていただいてありがとうございました」  

「別に柿崎と同じで気にしないでいいぞ。それより、そこの上杉に感謝すべきだな」

「あ、はい。由乃さんもありがとう。助かったわ」   

 京香さんは僕たち2人に頭を下げた。

「友達を助けるのは当然だよ。どうしてもお礼がしたいなら、されてあげてもいいけどね?」人の悪い顔をする。

「え? うん……」京香さんが意表を突かれたように目を丸くしている。

「おい、そこは要らんと言うもんだろ!」

 宏隆にツッコまれた。

「でも京香さんには散々苛められてるし、少しぐらいはいいと思うんだよね」

「そんなことしてないわよ!」

「そうかなぁ。じゃーその意見に納得してあげるから、何か買ってくれる?」

「それって、全然納得してないじゃないの!」

「あはは、冗談だよ。やっと京香さんぽくなったね。良かった良かった」

「もう!」 

 京香さんは僕が励ましてるのに気付いたようで、照れたように頬を手で抑えた。

「さて、本庄さんの件も終わったみたいだな、ちょっと上杉に話があるんだが?」

「な、何?」少し身構えてしまう。

「話というか聞きたいことがあるんだ。出来たら二人だけで話をしたい」

 まぁ、僕も聞きたいことがあるから渡りに舟かな。

「ふーん。別にいいよ。それじゃ京香さん、悪いけど先に玲達のところ行ってもらえる? 心配してるだろうし、わたしもすぐに追いかけるから」

「うん、判った。頑張ってね!」

 京香さんがニヘラと僕を見た後、宏隆に軽く頭を下げて去っていった。

 はぁ……告白されるとか勘違いしてるんだろうね。



 宏隆に付いて歩き、余り人気が無さそうなベンチにお互い腰掛けた。

 そして、まるで、我慢するのが限界だったみたいに宏隆が声を出した。

「時間を取らせて悪かったな。すぐ済むから勘弁してくれ」

「うん、気にしないでいいよ。京香さんを助けてもらったしね」

「いや、アレはお前1人でもなんとかなったろ?」

「そうだけど京香さんを人質に取られたから、ちょっと困ってたんだ」

「そうか、ならタイミング良かったな」

「うん、ありがとう」

「まぁそのことは良い――それでなんだが、お前に一つ聞きたいことがあるんだ」

 宏隆がいつになく真剣な目をしている。

 まさか本当に告白なのだろうか? 京香さんのさっきの顔が頭に浮かぶ。

「…………」

「ごめんなさい!」頭を下げた。

「はい? なんじゃそりゃ?」

「わたしは付き合うつもりはありません」

 いくら親友でも、男と付き合うなんて無理!

「いや、違う! そんなつもりじゃないって。確かに上杉は可愛いが本当に違うから!」

 この態度は本当に間違いらしい。

「ふむふむ。じゃー何?」少し警戒しながら聞く。

「そのな、輝って名前に心当たりは無いか?」

 又だ、どうしてその名前が出てくる。

 まさか、あっちの世界を理解してるとでもいうのか?

「当然知ってるよ。わたしの双子の兄に付く筈だった名前だから……」

「いや、そうか……それは判っては居るんだ。というか、頭がおかしくなったと言われるかもしれないのだが、お前、輝なんじゃないか?」

 僕は宏隆の目を見たまま固まってしまった。

 その間、心臓だけが高速で動いているのを感じる。

 由乃からすると初恋の相手、僕からすると親友。差は多少あるけど、どちらにとっても好意的な相手なのだ。

 その宏隆が僕を見つけてくれたのはとても嬉しい。でも……

「悪い、今の忘れてくれ。何故か親友の輝に見えるんだ。お前が女なのは判ってるし、オレも自分で言ってておかしいと思う。どうしちゃったんだろうな」宏隆が苦笑いを浮べた。

 これではっきりとした。宏隆は向こうの世界を理解している。

 嬉しさが胸一杯に広がっていく。ならば迷うことはもう無いだろう。

「どうして、わたしが兄の輝だと思うの?」

「……オレの知っている上杉は控え目な性格で目立つ事をしない。尚且つ、さっきの男を倒したのだろ? 出来る訳が無いんだ。それに、オレを宏隆と呼び捨てにするのは親と輝だけなんだ」

 呼び方は失敗したと思うけど、言われてみるとその通りとしか言いようがない。

「なるほどね。だったら、もう一つだけ質問させて。その輝を何処で知ったの? わたしの兄は生まれてすぐ死んでるんだよ?」

「ああ、当然だよな……実は――」



 宏隆の説明はこうだった。

 ――夢をみたらしい。そこには輝が存在しなく、代わりに由乃が生きていたそうだ。

 その内容から僕が見た夢と同様のモノだろうと想像出来る。

 そして、意識が戻ると夢の中の世界にいた。僕と違い肉体は同じままだ、当初は輝が生きていた世界が夢だったのだろうか? と考えていたらしいのだが、学校で僕を見かけて、記憶の中の由乃と現在の僕に違和感が生じたらしい。

 更に先程の言動で確信に変ったのだと言う。 


 

「……良く判った。宏隆は僕と同じなんだね」

 僕の口調が急に変わった事に宏隆は一瞬驚いたがすぐに期待する顔をした。

「ということはやっぱり……輝なんだな?」

「由乃だよ?」素敵な笑顔をする。

「……そのふざけた反応、輝だろ!」

 失礼な!

「ムカツク言われ方だけどその通りかな。僕も宏隆と一緒で起きたら由乃になってたのさ」

「そうか……輝とこの世界で会えるなんて、嬉しいものがあるな!」

「何の因果かしらないけどね。てかさ、僕は宏隆がうちの学校に居るの気付かなかったけどなんで? 記憶だと僕と同じ学校に行く予定だったろ?」

「ああ、それかぁ。どうもこっちの世界の宏隆君は由乃ちゃんが好きだったらしいんだわ。だから由乃ちゃんが行く学校に進学したらしい。もう一つの方は、バレナイように少し観察させてもらってたからだろうな」

「……相変わらず宏隆の性格は悪いよな」

「ひでー言われ方だな――でもあの輝がなぁ……ふむふむ」

 宏隆はジーと僕の姿を眺めた。

「なんだよ!」

「いや。元から可愛い顔してたもんな。女の子にすると美少女出来上がりってもんか」

 その言葉に、怒りよりも恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

 僕のことを知ってるのには喜んだけど、実はすごい羞恥プレイなのに気付いた。 

 女装してるみたいなモノだもん。

「見るなよ!」

「いやいや。普通に可愛いしな。見栄王だからそう呼ばれると嬉しいだろ?」

「宏隆に言われるのは、嬉しくない!」 

「ああ、でもあれかぁ。このまま輝と付き合えば、この体の本来の持ち主である宏隆君の念願も叶うということか? それはそれで悪くないかもな。腐れ縁だから好みも知ってるし」

「ちょ、待て! なんでそうなる。僕は男と付き合いたいなんて思ったことないぞ?」

「でもさ、いつ戻れるかも判らないだろ? その時一生由乃ちゃんのままという可能性もある訳だ。だったら彼氏の1人ぐらい出来ても当然だろ? 今の時代女の子同士でも悪くは無いと思うけどさ。そういえば由乃ちゃんは好きな男とか居なかったのかよ?」

 う、触れられたく無い内容だ。

「い、居なかった筈だぞ……」自然と目を逸らしてしまった。

「へぇ。で誰だ?」

「おい、少しは僕の話を信用したらどうなんだよ!」

「だから誰なんだよ? その感じだとオレの知ってる奴だよな?」

 ……宏隆には、すぐ嘘を見破られるんだよね。僕の態度が判りやすいらしい。 

「うん、思い出した。輝兄ちゃんが大好きだったんだ!」

「ふむふむ。良かったな輝。で、誰だ?」

 これはあれか、聞き出すまで永遠に言われ続ける気がする。ならば、さっさと言った方がマシかもしれない。僕は嘘付くのが下手らしいから。

「ああ、もう判ったよ。話せばいいんだろ。これは由乃のプライベートな話なんだからな。決して僕じゃないぞ。その……宏隆君のことが好きだったらしい」

 宏隆は満面の笑みを浮べた。

「ということは宏隆君と由乃ちゃんって相思相愛だったのか、なんか、オレと輝ってその2人の邪魔してんじゃねーか?」

「そうとも言うな……まぁ、僕の考えだと輝の体を由乃が使ってると信じてるから、向こうの世界で親友になって喜んでると思いたい」

「ふむ、そういう考えもあるな。オレ的には輝が由乃ちゃんになって良かったかもしれない」

「はぁ? なんでだよ。僕はあまり良い事ないんだけど」

「さっきも言ったように、気を使わないで済む美少女なんて最高じゃないか。本気で彼氏になってやってもいいぞ?」

「言ってろ! まぁ、彼氏とかどうでもいいけど、こっちの世界でも宏隆と話せるのは嬉しいな。今迄ずっと一緒に生活してたのだし、少し寂しかったのはあるからさ」

「お前なんて可愛いこと言うんだ!」宏隆に頭を撫でられる。

「何しやがる! そんな女みたいな扱いすんな!」

「いや、どう見ても女の子だろ? てかな、オレの記憶には宏隆君の記憶もあるんだ。つまり親友と好きな女の子という変な感情が混ざってるのさ、それに輝もされて嬉しいんじゃないか? 由乃ちゃんの好きな相手だしな」

 ぐ……確かにさっきは照れてああ言ったものの、不愉快な感じはしなかったのだ。

 由乃の体に精神が引っ張られているのだろうか?

「う、嬉しくないから。てかいつまで撫でてる!」

 注意すると、やっと宏隆が頭から手をどかしてくれた。

「それで、オレは輝と呼ぶべきか?」

「うーん。僕的には輝の方がいいけど、世間体もあるし由乃って呼んで」

「了解。輝の口から世間体……ぷぷぷぷ」

「やかましい!」宏隆の頭にチョップをかましてやった。

「うがっ痛いだろうが!」宏隆は頭を抑えて抗議する。 

 敢えて受けた癖に良く言うよね!

「あはは、それじゃ、此方の世界でもヨロシク頼むよ」自然と笑みが漏れでていた。

 宏隆が、呆けた顔をしていた。

「おーい。無視かぁ?」

「わ、悪い。いやー由乃は可愛いなぁと思ってさ」

「だー、宏隆に言われると、なんかこう、ああ、もう!」なんとも言えないむず痒い感じがする。


 

 その後、宏隆とは別れて京香さん達と合流した。

 何故なら京香さんから話を聞いているだろうし、話のネタにされたく無かったのだ。

 パレードにも少し遅れたけどなんとか間に合った。

 メインコンテンツの一つだけあって壮大なパレードは一見の価値はあったと思う。

 水兵ダックさんのパレードバージョンは、売ってたら買ってもよかったぐらいだよ!


 

 全体的にみても今回の遠足は満足のいくものだった。

 ここは夢の国、特別な場所なんだろう。親友と再会出来るぐらいだもん。


やっと遠足が終わりました。


当初2話完結ぐらいに思ってたのが懐かしいです。


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