遠足ですよ! 3
お手洗いから出てすぐの場所、男2人に囲まれてる京香さんの姿があった。
京香さんの背後には僕達と同じ学校の女子が1人見える。
その男達の近くに別の女子が2人居て、京香さんに野次を浴びせていた。
「何すんのよ! 痛いったら!」京香さんが金きり声を上げた。
男の1人が京香さんの手を捻り上げようしている。
どうやら僕の存在には気付いてなさそうだ。
かといって、そう悠長に構えていれるほど状況は芳しくない。
このままだと京香さんが本格的に乱暴される可能性だってあるのだ。
仕方ない……
「京香さん、大丈夫?」ゆっくり近付きながら呑気な声を出す。
その声に全員が僕の方を見た。
男達は一瞬緊張したが、僕の容姿を見て気が抜けたようだ。
京香さんは、助けに喜んだけどすぐに心配そうな目に切り替わった。
まぁ、この見た目だし明らかに戦力にならないと思うよね。
「あぁ? お前なんなんだよ。コイツの仲間か?」男のうち鼻にピアスをしている方がガン飛ばしてきた。
もう1人のチャラい感じの男は、まだ京香さんの手を握ったまま様子を伺っている。
「京香さん、ちょっと遅すぎ。パレード始まっちゃうって!」
鼻ピアスの質問をワザと無視して、京香さんに話し掛ける。
「え、あ、うん。ごめん。でも、由乃さん1人? 玲は居ないの?」
「うん。玲には先に場所取りしてもらってる」
京香さんがアカラサマにガッカリした表情をした。
失礼な!
「てめー。何無視してんだよ! 俺の質問に答えろや!」
……今の会話を聞いて判らないって。頭がどうなってるのか疑うものがあるね。
「はぁ……アンタ、馬鹿? どうみても友達に見えないの?」
「誰が馬鹿だ!」
オカシイ、緊迫した雰囲気の筈なのに、鼻ピアスのせいでコメディに見える。
「それで、京香さん。どうしてこんな世紀末○者に出てきそうなチンピラに絡まれてるの?」
「「俺らのことかよ!」」男2人がすぐに反応する。
「君達うるさいよ! 話しが進まないから、大人しくしてて!」コメカミを引き攣らせて睨みつける。
「…………」
素直に黙ってくれた。案外空気が読める奴等なのかもしれない。
「ええとね、お手洗いから出たら、私の後ろの娘がその鼻ピアスに絡まれていたの。どうやらぶつかってしまったらしく、謝ってるのにクリーニング代だせとか言われてるのを見かねて助けに入ったのよ」
なるほどね。ということは、外見だけでなく行動もチンピラだった訳だ。
「了解、大体判ったよ――可弱い女の子に大の男が2人掛かり、情けなくないかな?」 今度は男達に向けて言ってみる。
「はぁ? その女がでしゃばったからだろ? 金さえ払えば許してやるって言ってんだろうが!」鼻ピアスが吼える。
「「そうよ。そうよ」」2人の馬鹿女迄喚き出した。
「たかがぶつかったぐらいでクリーニング代? あり得ないね。どうみても恐喝だよ」
「いんや、すげー汚れた。便所の汚れが付いてるだろうが!」
この鼻ピアスには何を言っても無駄かな? 後ろに女がいるからカッコイイところを見せようとしてるのかもしれない。
実力行使は余りしたくないけどなぁと悩んでいる時だった。
「あれ、上杉さん達どうしたの?」背後から声がした。
前方を注意しながら隙を見て振り返る。
うちの学校の男子生徒……おおっ、河田君だ。
いいタイミング! 僕にはヒロインが似合うよね!
「河田君助けて。あの悪者2人が京香さんを恐喝するの!」目をウルウルさせて懇願する。
「判ったよ――僕に任せて!」河田君は颯爽と男達に向かっていった。
わお、頼りになるじゃない。
「おいてめーやる気か?」鼻ピアスが河田君を睨みつける。
「ああ、上杉さんの頼みとあっては叶えないといけないからな」
河田君は爽やかな笑みを浮べていた。
「ふん。女の前だからって調子にのってんじゃねー!」
「それは、お前達だろ?」
がんばれー河田君! 心の中で応援してるよ。
「お前うぜーわ」そう鼻ピアスは言うと、河田君に素早く近寄り殴り掛かった。
「ふん、そ――うがぁ」
河田君の会話はそこで途切れ、あっさり地面に倒されてしまう。
その際に、「台詞の途中で殴るのは、反則だ……」とか言い残していた。
えええええ、さっきのカッコイイ台詞は何?
役立たず! と罵倒しないだけ僕は優しいかもしれない。
それでも一撃で河田君を倒すというのは結構強いというのは判った。
ならば相手が1人の間に排除すべきだろう。これで、京香さんが開放されて2対1になったらしんどいと思う。
そして、河田君には悪いけど、相手から殴ってきたという大義名分も出来た。
それじゃ行きますか。
鼻ピアスは、河田君が倒れて手が無いと思っている筈。
気取られないように僕は距離を測って近付いていく。
「お、どうしたんだ?」鼻ピアスは圧倒的優位に油断してるのがすぐ判る。
――そして、間合いに入った瞬間、加速を掛けて相手の懐に潜り込み「ヤッ!」気合を入れて肘で相手の鳩尾を攻撃した。
「な! うぐあぁ!」鼻ピアスに攻撃が直撃した。
お腹を押さえて地面を転げ回っている。
クリーニング代とは言わないけど、これで汚れたかもしれない。
それにしても、今の攻撃で気絶しないのか――この低火力……涙が出るよ。
周りはポカーンとしている。
まさか、美少女があっさりと鼻ピアスを倒すとは誰も考えてなかったのだろう。
しかし、その中で1人動いた者が居た。
チャラ男だ。
「おい、これが見えないのかよ!」
「やっ! 痛い!」
チャラ男が京香さんの腕を背中に回して固め、京香さんに体を押し付けた格好を見せつけてきた。表情が切羽詰まっている。
うーん。慌てて開放するかと思ったけど、逆できたかぁ。
これは厄介だね。
「ねー、京香さん。痛いのと、凄く痛いのと、とてつもなく痛いのどれがいい? 京香さんて苛めっ子じゃない。偶には反対の目に合うのも勉強になると思うんだけど?」
「どれも嫌よ!」京香さんに即座に拒否された。
やっぱりね……「私に構わず殴って!」みたいな台詞だったらチャラ男も開放する可能性もあったのだけど。
どうしたものか。ゲシゲシ、倒れている男を蹴りながら考える。
「止めてくれ……」みたいな定番の台詞を吐いているけど、ここは無視しよう。
このまま立ち上がられでもしたら圧倒的不利になるしね。
「おい、それを止めろ! この女がどうなってもいいのか!」
「痛い!」
チャラ男が更に力を強めたらしく、京香さんが再び悲鳴を上げた。
仕方なしに蹴りを止めることにする。
倒れた男は暫く立ち上がれなそうだからオッケーとしよう。
「判ればいいんだ。さて、お前には選択権が無いのは理解したな?」
「むむ――わたし1人に人質を取るっていうのはどうかと思うよ?」
「はっ、勝てばいいんだよ。勝てばな!」
こういうプライドも無い奴は性質が悪いね。
かといって、こちらも切り札がなぁ。
「はぁ……で、どうしたら京香さんを開放するの?」
これ以上京香さんが苦しむのは見たくない。
「おう、そうだな……」チャラ男は僕の体を舐め回すように見た。
背筋がぞわっとする。キモイ真似すんな!
「そこで、そのセーラー服でも脱いで貰おうか?」
エロイ視線を浮べたらすぐそれかぁ……
「由乃さん。そんなことしちゃ駄目!」
「おめーは黙ってろや、な?」
チャラ男に凄まれ京香さんは口を閉じる。
でも、自分がピンチなのに僕のことを庇ってくれる京香さんは強いね。
となると、こんな手はどうだろう?
「そ、そんな……酷い――む、無理だよ……」泣いた真似なんてしてみることにした。
「あ、チョ待て、別に泣かす気なんてないんだ! な? 泣き止めよ」
おお、女の涙は凄いね。というよりこのチャラ男、悪役に徹せないのがイマイチなような。僕的には大助かりなんだけどね。
けど、さっきから馬鹿女共が静かなのはどうしてだろう?
さり気無くチラ見したら携帯電話の画面を弄くっていた。
……うん、何も言うまい。
「うう、ぐす、だったら、京香さんを放してくれる?」
効果があるなら継続しよう!
「そ、それは……出来ねー」
むむ、少し逡巡したけど駄目かぁ、完璧な演技なのに。
かといって、手が無いのが現状なんだよね。
「………………」
すると男子トイレから、うちの学校の男子生徒が出てきた。
チャラ男からは真後ろになる。
その男子生徒を見て、僕の心臓がドクンと高鳴った。
何故、親友の直江 宏隆が此処にいる!
その姿は記憶と同じ……長身でガタイが良く、甘いマスクのままだ。
チャラ男は未だ気付いてない。
これで一気に流れが僕の方に傾いた。
「宏隆! そのチャラ男なんとかして!」
「は? あ、うん。判った」宏隆は僕の言わんとしたことをすぐに理解してくれる。
そして、素早く身動きの取れないチャラ男に近寄り首筋に手刀を叩きこんだ。
前方の僕に注意を払らっていたチャラ男は回避することが出来ず、そのまま崩れ落ちて地面にキスをしている。
お陰で京香さんを無事助けることに成功した。
「京香さん大丈夫?」
チャラ男と一緒に京香さんも尻餅をついたので、手を出して立ち上がらせてあげる。
「あ、ありがと由乃さん。それと、助かりました」
京香さんは僕にお礼を言った後、宏隆にも頭を下げた。
「大したことしてねーから。別に感謝なんてしなくてもいいって」
宏隆が頭を掻いて照れている。体は大きくなかったけど昔っからシャイなんだよね。
なんか懐かしい気分になる。
――って、しまった。慌てて呼び捨てにしたしけど、僕は由乃なんだから直江君って言うべきだったのだ。
「にしても、上杉から名前呼び捨てとか、まるで輝みたいだな」
へ? ――今なんて言った!
次回で、この遠足ですよ! 偏が終わりです。
まさかバトルシーンを気合入れ過ぎて、書き直す羽目になるとは。
そして、やっとメインヒーローが登場しました。
河田君はやられ役が似合いますよね!