遠足ですよ! 2
6/11 水兵ダックさんに統一しました。
ねずみ王国のレストランでお昼ご飯を食べ、飲み物を口にしながら一息ついている時だった。
「さて、これから何処へ行こうか?」
玲が地図を取り出して僕達に尋ねた。
「ジェットコースターじゃないのですの?」
「ああっ、そういえばそうだったわよね」
奈菜ちゃんのさも当然という台詞に、京香さんが僕を見ながら意味深な顔をした。
「ジェットコースターかぁ。別にアタシは構わないんだけど、由乃はどうなんだ? 恐くないのか?」
恐いよ! 判ってるくせに!
「こ、恐くはないけど、わ、わたしは余り行きたくない、かな……」
「ほらな? 強がってるけどどう見ても恐いって言ってるだろ?」
「むぅ。偶には由乃ちゃんに甘えられてみたいですの」
「奈菜の気持ちはよく判る。確かにソロモンの海賊の由乃はめっちゃ可愛かったからな!」
ううう、ずっと言われるのかなこれ。
「というか由乃、別に無理して恐くないと言わなくてもいいんじゃね? 友達なんだしさ、素直に無理と言えばいいと思うんだが、そう意固地になって恐くないと言われると、逆に連れて行きたくなるんだ」
そういう考え方もあるのか。でもなぁ、男のプライド的に恐いとは言えないんだよね。
ってあれ? 今は女の子なんだから、別に恐くてもいいのかな? 逆に恐いといった方が好感度上がったりして?
「奈菜も由乃ちゃんが本当に嫌なら他でいいですの。無理は良くないですの!」
「由乃さんって隙が無いって感じに見えるけど、実は天然で穴だらけだから丸判りなのよね。つい苛めたくなっちゃうのよね」
奈菜ちゃんの意見はまだしも、京香さん……
でも要約すると、僕が認めれば行かなくていいんだよね?
ならば、試してみるのも吉かもしれない。ジェットコースターなんて嫌いだ!
「ええとね、恥かしいんだけど実は凄い恐いんだよね。だから、もしジェットコースターに行きたかったら、わたしは待ってるから皆だけで行って来てもいいよ?」
「「「はぁ(ですの)」」」皆に盛大な溜息を付かれたよ……
「由乃ちゃんは判ってないですの。奈菜は由乃ちゃんと遊びたいですの。由乃ちゃんが行かないなら奈菜も行かないですの!」
「その通り、ロリにしては良いこと言ったな。アタシと奈菜は由乃と一緒がいいのさ。ああ、三塁手は別だからな、奴は性格が悪いからな」
「誰が三塁手よ! 勝手に私を省かないでちょうだい。私も由乃さんと一緒がいいわ。てか三塁手って意味判らないんだけど」
三塁手、サード、サドね。相変わらず京香さんは鈍いなぁ。
それにしても皆優しいね。ちょっと嬉しくなってくるよ。
結局、その厚意に甘えて僕の行きたいところに向かうことになった。
もう恥は掻いたし、入った時からウズウズしてたことを実行することにする。
今更恥の一つや二つ増えたところで大差ないよ!
僕の目指した場所は入り口付近だった。
何故入り口付近かというと、そうアレが居たからである。
入った時に視界に映り、本当はその時点でやりたかったけど見栄の為堪えたのだ。
しかし、今日は可愛い路線で行く! こう決めた僕に敵は無い。
思う存分堪能しようではないか。
現地に着くと、お目当てのモノはすぐ見つかった。そう、水兵ダックさんである!
白いアヒルさんがセーラーカラーの服と帽子を身に着けているのだ。なんて素敵なのでしょう。
現在は、子供相手に写真撮影をしている最中だった。
僕の後を付いて来ている皆はまだ理解してないようだ。
まぁ、何も施設なんて無いからしょうがないけどね。
さて、僕も順番を待ちながら皆にお願いしないと――
一番頼みやすそうな奈々ちゃんに決めた。
「ねー、奈菜ちゃん。今から水兵ダックさんと一緒の写真撮りたいんだけど、これで撮影して貰える?」制服のスカートからスマフォを取り出して奈菜ちゃんに見せた。
奈菜ちゃんは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに頷いてくれる。
「はいですの。由乃ちゃんの行きたい場所は、水兵ダックさんだったですの?」
「そうだよ。子供っぽいかなぁって我慢してたんだけど、あの愛くるしい姿が好きなんだよね。記念に一枚欲しかったんだよ!」
「なるほどですの。確かにねずみ王国の中では水兵ダックさんが一番可愛いですの。それなら、由乃ちゃんの後は奈菜もお願いしてもいいですの?」
「勿論だよ!」
さすが奈菜ちゃんだね。数あるキャラの中で水兵ダックさんを選ぶのだから。
でも由乃になってラッキーだったかもしれない。こんなこと、男だったら恥かしくて出来ないよね。
「おいおい、2人だけで何決めてんだ。アタシも撮りたいぞ!」玲が会話に割り込んできた。
「え?、玲も?」
少し意外だね。
「ああ、さすがに女子高生になって撮るのはなんだかなぁと思ったけど、二人が撮るんならアタシも欲しいって。やはり水兵ダックさんは永遠のアイドルだからな!」
「玲と奈菜ちゃんは同士だね!」3人でニッコリ頷き合う。
「ちょ、ちょっと! 私も撮りたいわよ!」京香さんが慌てて話しに混ざってきた。
「なんでだ? 京香は水兵ダックさんより、あそこに居る黒ネズミさんの方が好きだろ? あっち行ってこいよ」玲が別の場所で写真撮影されている、黒いネズミをモチーフしたこの遊園地のメインキャラクターを指し示す。
「そうなんだけど、1人除け者みたいで嫌じゃないの!」
うーん。みんな好みがあるし別におかしくないと思うんだけどね。
「それじゃ、京香さんは黒ネズミさんと写真撮る? わたしが写してあげるよ?」
「本当、由乃さん!」京香さんが目を輝かせている。
おお、こんな子供っぽい反応の京香さん珍しい。
「うんうん。どうせなら一番好きなキャラと一緒がいいと思うよ?」
「だったら、黒ネズミさんでお願い。私も皆が居るから我慢してたのよね。ちょっと嬉しいわ」
なんだ皆一緒だったのかぁ。人間素直が一番だね。
少し待つと僕達の番が来た。
「それじゃ奈菜ちゃんよろしく!」
スマフォを奈菜ちゃんに渡し、僕は念願の水兵ダックさんの側まで行く。
近くで見る水兵ダックさん、その白いもこもこに思わず抱きしめたくなるね。
でも、写真だけじゃ無く……
頼んでみようかな。こんなチャンス滅多にないし、駄目元だよね?
「水兵ダックさん! 抱きついてもいいですか?」ちょっと、上目加減でオネダリしてみる。
無理かな? そう思ったのも束の間、水兵アヒルさんは体を大きく揺らして頷いてくれた。
やった! 顔が興奮のあまり上気していると思う。
「それじゃ!」えいっとばかりに水兵ダックさんの大きなお腹に抱きつく。
ふわふわで触り心地が良くとても幸せな気持ちになるよ!
僕の喜びを表すように長い後ろ髪が揺れているのが判る。
「奈菜ちゃーん」その姿勢のまま、奈菜ちゃんに合図を入れた。
「はいですの」奈菜ちゃんはすぐに返事をくれ、僕のスマフォを構えて撮影の準備に取り掛かってくれる。
「行きますですの」
満面の笑顔を浮べ、バックにはコスモスを咲かせる。準備万端だね。
「はい……ちーず、ですの!」
奈菜ちゃんの声と共にシャッターオンが流れた。
「終わったですのー」
うう、名残惜しいなぁ。でも順番だし……
「水兵ダックさんありがとでした」
もう一度強く抱きしめてから奈菜ちゃんと交替した。
そして、奈菜ちゃん、玲と続き、最後に京香さんを入れた4人の写真を撮らせてもらった。
いい記念になったよね!
「それじゃ、次は京香さんの黒ネズミさんを撮りいこうか!」
「うんうん!」
やっぱり、この反応は京香さんぽくない。
此処は夢と魔法のキングダム、童心に返る場所なんだろうね。
この後14時にパレードが始まるらしく、全員一致でパレードを見ることにした。
その前に、京香さんがお手洗いに行きたいというので帰ってくるのを待っている処だ。
しかし、15分経っても戻ってこず、さすがに遅いと思い始めていた。
「京香の奴なにしてやがるんだ。もうすぐ、パレード開始されるのに」
一番初めに文句を言い出したのは玲だった。
「確かに遅すぎるですの」奈菜ちゃんも続く。
「そだね。ちょっと遅すぎるから、わたし見てこようか?」
「別に由乃が行く必要無いって、それだったらアタシが行ってくるよ。後でネチネチ言われるのも癪だからな」
なんだかんだ言うけど、玲も京香さんのことは気にしてるんだよね。
「うーん。時間も無いし、玲と奈菜ちゃんには先にパレードの観覧場所を取っておいて欲しいんだよね。身長高いから探し易いと思うから」
「ふむ、そういうことか、だったら由乃に任せるかな。京香を見たら1発殴っといていいぞ!」
「あはは、判ったよ。それじゃ、奈菜ちゃんも良い場所取っておいてね」
「はいですの!」
玲と奈菜ちゃんの了解を得て、僕は京香さんが向かった筈のお手洗いを目指す。
ねずみ王国中のお手洗いは、ゴミ箱同様カモフラージュされて目立たない場所にある為、少し離れた場所にあるのだ。この辺りの徹底振りは凄いよね。
目当ての建て物を見つけ、足を踏み入れた時だった。
「ちょっと、離してよ!」少女の金切り声が聞こえた。京香さんの声に似ている気がする。
まさかと思いつつ、急いで声のした方に近付くと――そこには!
あざとい場所で切ってみました(笑)
話に出てきた水兵ダックさん、作者が一番好きなのです。
チ○プとデールも捨てがたいですけどね。