悪魔との出会い
画面の向こうで、黒人の男と白人の女が抱き合っている。
『ボブ!私、あなたが好きよ。』
『キャサリン…。僕も、君を愛しているよ。』
どちらも今話題沸騰中の人気俳優(女優)だ。
それからその映画はクライマックスのキスシーンへと入る。
度々CМで紹介されていた「全米が号泣した!」というテンプレートじみた言葉はダテではないようで、不覚ながら自分もウルッときた。
見つめあう2人、狭まる距離。
唇と唇が重なり合うその瞬間、テレビがブチっと音をたてて暗くなった。
「ちょっ、ちょっと!今一番いいところじゃない!」
誰もいない室内で、思わず大声を上げてしまった。
いけない、いけない。
1人暮らしをしてから、やけに独り言が多くなった気がする。
私もそろそろ25歳になるのだから、キャサリンとボブのように気楽に話ができる恋人の1人や2人くらい…。
「はぁ…。」
そんな暇ない…か。
不貞腐れながら、テレビを控えめに叩いてみる。
このテレビ、最近買ったばっかなのになぁ。
『くだらん』
テレビの中から不意に声が聴こえた。
直ったのだろうか?
しかし映像が映る気配はない。
『実にくだらん』
ジジ…ジジジジッ…
すると今度は急にテレビの画面が砂嵐になる。
「な、何!?心霊現象!?」
テレビを前に腰の抜けた私はビクビクとしながら様子を窺う。
しばらく様子を見ているとさらに腰の抜ける出来事が起こった。
なんとテレビから手が出てきたのである。
まるで生きている人間の手ではないような、真っ白な手…。
驚きすぎて声も出ない。
口をパクパクすることしかできない私はその場から動けずにいた。
手から始まり、頭、足…と次々とその人ではない何かはテレビから這い出てくる。
そしてついに足のつま先のようなものまで出し切ったソレは、私に向かってこう言った。
『お前は今日からキャサリンだ。』
私の視界…フェードアウト。