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拝啓「檸檬」様

掲載日:2026/10/31

この作品は文豪、梶井基次郎の書いた「檸檬」に感化された少年の話です。前述の作品を読まれたこともある方も読まれたことのない方も楽しんで頂けると幸いです。初めてのオリジナル作品&小説家になろう投稿で至らぬ点は多々あると思われますがどうぞご了承ください。

挿絵(By みてみん)

あらすじ。もやもやを抱えながらも前へ進むことのできない青年が勢いのまま入った丸善にて檸檬を爆発させる夢をみる、梶井基次郎の作った小説「檸檬」。僕は”それ”に、いたく感銘を受けてしまうのであった。

 拝啓、「檸檬」様。私は今日、あなたの無念を晴らそうと思います。そうです、この学校を爆発させるのです。嘘です。私にはそんな度胸はありません。結局、あなたと同じように情けない希望を頭の中で発散するだけしかできないのです。あぁ、もちろんあなたの欲望の本質がそこではないことは存じ上げております。私は多分、そこらの齢(よわい)14の中で読解力だけは長けている方だと思うので、当たっている自信があります。大人にとっては年頃の病かと思われることでしょう。でも、今の私が自信を持って正しいと考えられるということが私の人生において何よりも大事な出来事なのでそこに後悔はしないつもりでいます。話を戻しましょう。檸檬様、現在私は文化祭の来場者チェックをやっています。「名前をお書きください。」と言いながらカウンターを人数に合わせてカチカチと鳴らすだけの簡単なお仕事です。少し前に先生にお願いされて、当初は「君にしか出来ない仕事なんだ!」と普段見せない笑顔で言われて、なんてったって、初めて頼ってもらえて、自分が必要とされたもんだから、天にも昇れるような気持ちで二つ返事をしたのです。今日登校して、朝の会の前にクラスの人たちが忙しそうに、楽しそうに安っぽいフリルのエプロン付きのスカートを身に纏ってる横でただ呆然と床に座る僕に対して「お前準備しなくていいのか?」「あ、僕は来場者チェック…」「あー、そうだった!」と僕にお願いをしてくれた先生のセリフ、そして僕をそっちのけでクラスのみんな(先生を含む)で行われる決起集会を眺めて、今になってようやく気づいてしまったのです。あれは先生からの情けで、見下しで、僕の存在価値を見せびらかす行為であることに。なんなら、「みんなでいい思い出」を作るためにいらない僕だけを省いたのかとすらも考えてしまうのです。泣いちゃいそう。そう言う間にもまた僕はカウンターを鳴らすのだ。

「名前をお書きください。」

 カチカチ

「名前をお書きください。」

 カチカチカチ

 「おつー!マジでやってんじゃん!」

「名前をお書きください。ふふ、来てくれたんだ。」

 あぁ、お前が喋るだけで耳鳴りがする。なぜよりにもよってちょうど人が来ないタイミングで来るのだ。偉そうに俺に名言を語ることが趣味の嫌いなアイツに刃向かえることも出来ず、僕はそいつの名言よりも中身の無い相槌を笑いながらするんだ。無価値ったらありゃしない。余談だが、嫌いなアイツには彼女がいる。次期に子供も産まれるそうだ。いいよな、お前は人肌で。俺の添い寝相手はティッシュだけだぜ?すみません、白昼堂々こんな話題は良くなかったね。

 アイツという嵐が過ぎ去ったと思ったら今度は人混みの嵐だ。

「名前をお書きください。」

 カチカチカチ

「名前を略」

 カチカチカチカチ

 ……カチカチ……カチカチカチカチ。増えていくカウンターの数字を眺めながら、これが私の価値であったらいいのにと思ってしまう。そう思ったら少し楽しくなってきた。価値価値。ふふふ、私の価値が増えていく♪いや、勝手にポジティブに受け取ってしまったけど実はこの数字は私がのけ者にされ続ける日数だったら?あぁ、どうしよう。数字が増えていってしまう。怖い。いやいや、これは来場者数以外の何者でもない。何を考えているのだまったく。無意味な自分だけの討論会が広げられて、頭の中がぐるぐると痛い。私はお酒を飲んだことはございませんが、これがいわゆる”宿酔(フツカヨイ)のような感覚”というものなのでしょうか?

 そして私の”カチ”は、先生の「もう休みな。ありがとう。」の声で終わったのだ。こんな適当な優しさが大層ありがたいものに感じて、省かれた悲しみよりも嬉しさと尊敬心が勝ってしまう僕はやっぱり全国の14歳の中でも頭の弱い人間なのであろう。理論的に可能性があるだけです、チクショー。前述を思い出してください。僕は自分の信念に後悔はしないと決めてるのです。


 教室に入る勇気もなく、図書室は今日は閉まっている。だから僕は出店の無い最上階の階段に座って、最近本屋にて買った難しそうな小説を読もうと思ったのに、何だか今日は何一つ内容が頭に入ってこない。登場人物の多さが原因だったらまだ言い訳が効くのだけど、もはやそれすら確認する気力も無い。仕方なく体制を変えてルーズリーフに手紙を綴った。それで出だしから今に至るのです。現在9月末頃、ほのかに当たる陽の光の温かさに身を預けながら、柔らかな風が隣に置いた本のページをめくる音を聞いた。そして微かな香りを嗅いだ。僕は紙の香りが好きだ。檸檬のように爽やかで華やかな香りとはまた違った、あの素朴さが素敵なのだ。もの想いにふけられる時間は僕の心の拠り所で、僕が引く僕の輪郭を保つことに必要な回復アイテムと言えるだろう。僕は今、”それ”に浸っている。

 だが、甲高い笑い声が聞こえてきて顔すらも見ていないのに急いでこの手紙を畳んでポケットにしまい本を鞄に入れながら駆け足で下を向いて階段を降りた。「今のなに?」「ヤバ」という声を背後に受けて。


 多様性を重んじる体(てい)でいる時代のおかげで男子だけど結わなくてもギリギリ校則的に許されている程の、ボサボサで黒色の長髪、小太り、背も大して高くない、そしてオタクのくせにニワカ話しか出来ない人間。コイツを見て自分から話しかけたり、ましてや好感度を持つ人間なんて居ないに決まっている。自分でもわかっている。だけど、無礼を働いても許されるほど低い価値でも無いことは自分だけにしかわかないことなのか?と、たまに無性に叫びたくなってしまうんだ。ヒトカラしただけで通報される年齢のくせに。私は世間一般で犯罪と言われる行為は一切していない。宿題も毎日出している。授業も毎日受けている。班活動だって積極的に行っているつもりだ。いったい何が理由なのだ?私なら全て許してくれるとでも思っているのか?私は根に持つタイプだぞ!それで、僕は叫んだのかい?自分が受けた理不尽を。叫んだよ、頭の中で。それじゃあ、結果的に僕以外の世界では何をしてもコイツは許してくれると見解できる状況ではないか。結論が出てしまったぜチクショー。だからこそ僕は、僕の世界を取り巻く全てを巻き込んで壊したかった。そうする勇気が欲しいと思ってしまった。あぁ檸檬様、いっそ別世界のあなたのように文字通りの爆発力を喚き散らかしてその中心で僕だけが無傷で高笑いできるような世界であったら、僕の中をうずめく何かは報われたのでしょうか。せっかく保ち続けた僕の輪郭ですら、時折「要らない、いっそ消えてしまえ。」と思うようになってしまってきている最近の日々です。悔しいったらありゃしない。あまりにも悔しいものなので、この際プライドだけが理由でもいいので生きてやろうと意地を張ってます。割とマジで頑張っているのですよ?一昨日は本を買うという行為に、昨日は先生の期待に応えるという意気込みに、そして今日はあなたに手紙を書くという行為に縋って生きてやりました!それのどこにプライドがあるのかって?それは「生きてやるためには出来る全てを利用しまくる!相手にとって若干迷惑気味だとしても!」という、孤高かつ気遣い出来るカッコ良くてプライド高い自分を捨てるプライドですよ!あーだのこーだの言ってる間にも、目に入る出店が何処もお疲れ様モードに切り替わってます。もうすぐ今日の予定が終わりますね。ところで檸檬様、あなたの虚しい喜びに寄り添ってくれる方は今までいらっしゃったのでしょうか?おこがましいことも重々承知ですが、もしよろしければこの手紙はあなたに対しての敬意も含めて、”爆弾”としてこの建物のどこかに置こうと思うのです。あなたの心は私にもある。それを残しておく為の儀式として。

 そして文化祭の終わりを告げるチャイムが鳴った。何一つ入らない先生の話、なぜか泣いている女子複数人、それに頷く御茶羅気イケメン男子よりも、僕はこれから自分が成し遂げる予定の行為に対しての高揚感に集中していた。「じゃあ例の場所にみんな集合ね。」と何一つ心当たりのない会話を背景に帰りの準備に混ざって僕はポケットを漁った。念のため、勢いで書いた文(ふみ)を最後に今一度読み直そうと紙を広げると、そこには悲しそうな顔で体育座りをしながらボソボソと独り言を続ける小さな僕がいた。その姿がなぜか今だけは愛おしくて、僕はその僕をそっと抱しめた。

 挿絵(By みてみん)

 ごめんなさい、檸檬様。やっぱりさっきのは全部なかったことにしてください。私は、私を置いてけぼりにすることですら出来ませんでした。

挿絵(By みてみん)

 閲覧頂きありがとうございました。改めまして、お初にお目にかかります。盟徳ダネ太郎です。名前は「匿名」とポケモンGOにてフシギダネにつけたあだ名の「たね太郎」からとりました。表紙では「だね太郎」なのですが(今のところ)正式には「ダネ太郎」です。私は思春期特有の不安な気持ちの大きさや厨ニ病と言われる痛々しさが好きなため、この「拝啓『檸檬』様」が作られました。

 この作品の補足や小ネタを話しますと、私は梶井基次郎の「檸檬」に出てくる檸檬(果物の方)は主人公にとって自分を肯定するためのアイテムであると考えており、本作のそれに値するのが「檸檬」宛てに書いた手紙になっております。また、本作中に某文豪異能力系アニメのネタも仕込まれているため察しのつく方は見つけて頂けると私が喜びます。

 最後に本作の主人公のプロフィールを簡単に書いて終わります。

•学校の連中は誰も名前を碌に覚えていない。

•某SNSのユーザーネームは「木基( きづい )」

•好きなアーティストは「オーイシマサヨシ」

•カラオケの十八番は「ギミー!レボリューション」

•特技は女性声優の曲を原キーで歌えること

•後に不登校になるが同じタイミングで不登校になったオタク女子と付き合って結婚する。

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