表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏貴族から成りあがれ! ~独り身イズミの転生譚~  作者: あんぜ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第10話 年明け

 あれからひと月。13月が終わって『名前のない日』が訪れる。『名前のない日』は一年でいちばん日が短い。みんなが家族や大事な人と静かに過ごす日。


「アンリエット、君が部屋を片付けてくれたから、私の大事な物が見つかったんだ」

「あら、アンヘル。それは何?」


 アンヘルさんがそう言って、小さな箱を見せてくれる。

 最近、お母さまとアンヘルさんはよく、隣り合ってソファーに座る。


「大事な物なのに失くしていたのですか?」

「そうだね。目に入るのが辛かったのもあったし、引っ越しや仕事で忙しかったのもあったかな。――これはね、私が少年の頃、私が作ってアンリットへ贈った物だったんだ。アンリットが亡くなって、形見分けに頂いた。これをアンリエット、君にあげよう」


 小さくて、角の丸い箱。木が組み合わせっていて、模様になってた。

 手渡されると、表面はつるつるしていて、中でコトコト音がする。


「何が入っているのですか?」

「さあ。何を入れるかは聞いていたけど、私も中身はちゃんと確認してないんだ。開けられるかな?」


 開けようとしても蓋がない。鍵穴も無いし、留め金もない。


「…………開けられません」

「こうするんだ。見ててごらん」


 アンヘルさんが指を滑らせると、箱の表面が動いていって、最後に小さな引き出しが開いた。


 ころん――と、転がり出てきたのは黒くて丸い物。


「石?」

「これは大昔に死んだ生物が石になったんだって、アンリットが教えてくれた」

「あの子、変わった物に興味を示していたものね。石なんて特に」


 お母さまがそう言って、ふたりともクスと笑う。

 黒い石の真ん中には、変な形の虫みたいなのが浮き彫り(レリーフ)のようになってた。


「うん、変だけど面白いと思います」

「じゃあ、箱と一緒に、君にあげよう。合格祝いだ」


 ありがとうございます――と、お礼を言って、箱と石をいただいた。

 新年を迎えて、私は8歳になった。



 ◇◇◇◇◇



 年を明けて4日目は魔術学院の入学式。王都の貴族の間では、7歳で社交界に連れて行かれるようになり、8歳で魔術学院に入学するとアンヘルさんから聞いた。アンヘルさんに2人乗りの馬車(カート)で送ってもらい、荷物は先に寮へ運んでもらった。


「それじゃあね。いってらっしゃい、アンリエット」


 アンヘルさんが手を振る。

 今朝、魔術学院の青と白のお仕着せを着ると、お母さまは涙を流して喜んでくれた。

 私は、子爵家の娘ではなく、神殿で学んだ平民として入学することになった。


 白の館(ヴァイスハイム)の前には、両親に送り出される生徒たちがたくさんいた。小さな人だかり、大きな人だかりを(かわ)しながら玄関を目指す。ポーチの短い階段を上ると、入り口の左右には青いお仕着せ(サーコート)を着た鎧の人が立っていた。


「あの……新入生のアンリエットです。入ってもいいですか?」


 ちょっと怖かったのもあって声を掛けたけど、ピクリとも動かず、こっちも見ない。

 困っていると――


「アンリエット君じゃないか!」


 声を掛けてきたのはアフマズル先生マギステル・アフマズル


「――ああ、ここの衛士はこうする決まりなんだそうだ。気にせず入りたまえ」

「ごきげんよう、アフマズル先生マギステル・アフマズル。教えてくださってありがとうございます」


「先生はやめてくれたまえ。オレはまだ、先生には成れてないんだから。アフマズルでいいさ」


 だけど、そのアフマズル先生……アフマズルさんが、ドン!――と突き飛ばされ、こちらへよろける。


「ほら、退けよ()()()! ロゼリア様の邪魔だよ」


 だけど、アフマズルさんは何も言い返さず、入り口から離れる。すると、大きな人だかりが目の前を通り過ぎていった。


「アンリ?」

「えっ、ああ……そう。オレの名前。アフマズルは家の名。ほら、貴族ってさ、祝い名が先に付いて、名が後から付くだろ?」


「うん?」

「2年くらい前の新入生から、知の化身に(あやか)った名前が急に増えたんだ。そしたら、オレは関係ないのに一緒にされて……。だからアンリエット君、君のことも悪く言ってしまった。すまない」


 胸に手を当て、頭を下げるアフマズルさん。


「気にしません。私の名前は、お母さまがつけてくれた大事な名前なので」

「…………そうか。そうだな。ありがとう」


 どうしてかお礼を言われた。


 それから、衛士の間を抜けて、白の館(ヴァイスハイム)に入った。


 中は冬とは思えないほど暖かかった。あまりに暖かいので外套(クローク)を脱ぎ、玄関(ロビー)で名前を告げて預かってもらった。奥へ進むと広い廊下が伸びていて、天井がとっても高かった。その廊下の先には、二階を渡る弓なりの橋まで掛かっていた。


 ただ…………その橋の真ん中から下の私たちを見下ろす黒い長衣の女の人。じいっと私たちを見て、目を凝らしていたのがとても怖かった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ