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S級勇者にはなれなかった。だからC級を全部集めることにした。  作者: 虫松
第一部 追放編

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第6話 数字で示される現実

ダンジョン攻略を終えた翌日。


俺たちは、ファスト王国の冒険者ギルドにいた。


いつもの受付ではない。


その奥。


ギルドに併設された、小さな計算室。


ここでは。


討伐した魔物の数。


回収した素材。


負った傷。


使った回復薬。


攻撃。


防御。


支援。


そして。


誰が、どれだけ戦闘へ貢献したのか。


それらすべてが。


数字にされる。


俺レオン・クロウは。


その仕組みを。


今まで、あまり深く考えたことがなかった。


勝てば。


みんなで報酬を受け取る。


それでいいと思っていた。


だが、その日は違った。



「では」


ギルド職員が。


机の上へ木札を並べる。


「今回のダンジョン攻略報酬を分配します」


目の前には。


四人分の木札。


それぞれに。


名前と数字が刻まれている。


最初。


アレス。


俺は。


思わず木札を見る。


かなり高い。


前回よりも。


さらに増えている。


職員が説明する。


「アレス・ヴァンハルト」


「討伐数、最多」


「大型魔物への最終打撃、三回」


「総与ダメージ率、四十二パーセント」


「前線維持時間も最長です」


アレスが。


少し気まずそうに笑う。


「そんなに?」


職員がうなずく。


「A級《乱れ斬り》の貢献が大きいですね」


次。


リナ。


「リナ・フェルミア」


「総与ダメージ率、三十一パーセント」


「範囲攻撃による複数討伐、高評価」


B級ファイヤードによる殲滅効率も良好です」


リナの木札にも。


かなりの金額。


「やった」


小さく。


嬉しそうに笑う。


次。


カイン。


「カイン・セレス」


「直接攻撃への寄与は低めですが」


「防御成功回数、十五」


「被害軽減率、高」


B級カウンターによる反撃も確認」


「支援職として安定した評価です」


十分な額。


三人とも。


数字が。


強さを証明していた。


そして。


最後。


「レオン・クロウ」


俺は。


無意識に。


背筋を伸ばした。


職員が。


一枚の木札を。


俺の前へ置く。


「……」


少ない。


目に入った瞬間。


分かった。


前回より。


はっきり。


少ない。


俺は。


数字を見直した。


一度。


二度。


間違いかと思った。


でも。


間違っていなかった。


「今回の分配額はこちらです」


「……はい」


声を出す。


職員が書類を見る。


「レオンさんは」


「戦闘参加率、十四パーセント」


十四。


その数字が。


妙に大きく見えた。


「直接攻撃への寄与」


「三パーセント未満」


「防御支援」


「なし」


「回復支援」


「なし」


「後方警戒、物資管理」


「こちらは加点されています」


一瞬。


少しだけ。


救われた気がした。


だが。


次の言葉。


「ただし」


「戦闘報酬の分配では」


「直接的な戦闘貢献が大きく反映されます」


「そのため」


「今回の取り分は」


「前回より減額となっています」


静かな声。


事務的。


責める口調でもない。


見下してもいない。


ただ。


計算結果を。


読み上げているだけ。


だから、余計に


逃げ場がなかった。



「まあ」


アレスが言った。


「今回は戦闘参加率が低かったからな」


俺は、横を見る。


アレスは、フォローしているつもりだった。


「ほとんど後ろにいたし」


「仕方ないよ」


正論。


全部。


正論だった。


危険だから。


後ろに下がれ。


戦闘中は。


無理をしなくていい。


荷物を守ってくれ。


周囲を警戒してくれ。


そう言われ。


俺は、それに従った。


そして実際。


三人は、俺なしでも。


戦えていた。


むしろ。


俺が前に出ない方が。


安定していた。


その結果が。


この数字。


十四パーセント。


三パーセント未満。


減額。


俺は木札を見つめたまま。


言った。


「……問題ない」


自分でも驚くくらい。


声は落ち着いていた。


リナが少しこちらを見る。


「レオン」


「別にいいよ」


俺は笑う。


「計算通りなんだろ」


職員もうなずく。


「はい」


「計算自体に誤りはありません」


「なら」


俺は木札を取る。


「問題ない」


反論できない。


いや。


違う。


反論するための。


材料がない。


俺が、もっと戦っていたなら。


言えたかもしれない。


俺だって貢献した。


俺だって倒した。


俺だって守った。


でも何もしていない。


何も、していない。


「次は頑張れよ」


近くにいた冒険者が。


軽く言った。


悪意のない。


励まし。


俺は、笑ってうなずく。


「……ああ」


次、その言葉が。


妙に遠く感じた。


次、俺が。


前線に戻る。


そんな未来を。


誰が想像している?



数日後。


次のダンジョン攻略を前に。


俺たちは。


いつものように。


宿の一室で作戦会議をしていた。


机の上には。


簡単な地図。


魔物の情報。


過去の討伐記録。


以前なら。


四人で机を囲んでいた。


「ここから入るか?」


「いや」


「こっちの道の方が逃げやすい」


「レオンはどう思う?」


そういう会話が。


あった。


俺も地図を見て


考えた。


自分なりに意見を言った。


採用されることもあった。


否定されることもあった。


でも、ちゃんと四人の会議だった。


今は違う。


「入口から正面突破でいいと思う」


アレスが言う。


リナが。


地図を見る。


「狭い通路なら」


「ファイヤードは使いにくいわね」


「広間まで誘導して」


「そこから一気に焼く」


カインも続ける。


「アレスが前衛」


「私はその一歩後ろ」


「リナは射線を確保してください」


「了解」


「うん」


三人の会話。


俺は少し離れた場所で。


荷物を整理していた。


薬草。


ロープ。


食料。


水。


予備の松明。


話を聞いてはいる。


でも参加していない。


いや参加する隙がない。


戦闘に出ない俺に。


作戦への意見を求める必要が。


もう、ない。


「レオン」


アレスが呼ぶ俺は顔を上げる。


「ん?」


「今回は見張りを頼む」


「入口付近で」


「後ろから魔物が来ないか確認してくれ」


「……分かった」


それだけ。


それが。


俺への作戦説明の。


すべてだった。


俺は。


また荷物へ視線を戻す。


会議は続く。


「それでボス部屋なんだけど――」


三人の声。


俺は。


ロープを畳む。


その時。


ふと思った。


いつからだ?


「レオン、どう思う?」


その言葉。


最後に聞いたのは。


いつだった?



ダンジョンへ向かう道中でも。


三人は。


戦いの話をしていた。


「ファイヤードの射程、少し伸びたかも」


リナが言う。


「本当か?」


「昨日測ったら」


「前より二メートルくらい」


カインが。


真面目に頷く。


「それなら」


「アレスとの距離をもう少し取れますね」


「カウンターの範囲も広がってきています」


「次は、もっと攻撃へ転用できるかもしれません」


「いいな」


アレスが笑う。


「全体的に強くなってる」


強くなっている全体的に。


俺は後ろから。


その言葉を聞いた。


俺の肩には。


荷物。


背中にも。


荷物。


腰には。


使われない剣。


俺は。


自分の右手を見る。


C級《殴る》。


変わらない。


俺だけ


全体に入っていない。



ダンジョン攻略は。


あっけなく終わった。


アレスが斬る。


リナが焼く。


カインが守る。


俺は。


入口付近で。


見張る。


何度か。


遠くから。


戦闘音が聞こえた。


金属音。


爆発音。


怒号。


俺は。


ただ。


暗い通路に。


一人。


立っていた。


魔物は。


来なかった。


だから。


俺は。


本当に。


何もしていない。


数時間後。


三人が戻ってくる。


「終わったぞ!」


アレスが。


笑っていた。


「お疲れ」


俺も。


笑う。


「怪我は?」


「ほとんどなし」


カインが答える。


「問題ありません」


リナが。


嬉しそうに言う。


「今回、かなり早かったわよ」


「記録更新かも」


「そっか」


俺は。


荷物を持ち直す。


「じゃあ帰ろう」


普通だった。


あまりにも。


普通だった。



その夜。


野営。


焚き火のそば。


俺は剣を抜いた。


刃が炎を反射する。


綺麗だった。


傷一つ。


ほとんどない。


俺は布で刃を磨く。


丁寧に何度も。


でも磨く必要なんてほとんどなかった。


使っていないから。


昔は戦いのたび刃こぼれがあった。


泥がついた。


血がついた。


拳も。


傷だらけだった。


今は剣も拳も綺麗なまま。


俺は刃に映った自分の顔を見る。


「……努力が足りないのか」


小さく。


呟く。


もっと鍛えればいい?


もっと走ればいい?


もっと剣を振ればいい?


もっと殴ればいい?


でも、どこで?


戦闘には出ない。


スキルは進化しない。


「才能がないから?」


ギルドで何度も聞いた言葉。


才能。


アレスにはある。


リナにもある。


カインにもある。


俺にはない。


少なくとも。


今のところ。


誰も俺に才能があるとは。


言わない。


「それとも」


俺は剣を見つめる。


「最初から……」


こうなることが。


決まっていた?


C級《殴る》。


最初にあれを授かった時から。



答えはどれでもよかった。


努力不足。


才能不足。


運。


神の気まぐれ。


そんなことは。


もう重要ではなかった。


重要なのは。


結果。


この世界では結果が。


数字になる。


数字が評価になる。


評価が役割を決める。


そして役割が。


居場所を決める。


アレス。


高評価。


リナ。


高評価。


カイン。


安定。


レオン。


戦闘参加率十四パーセント。


直接攻撃。


三パーセント未満。


報酬。


減額。


ただの数字。


でも数字は。


嘘をつかない。


俺は焚き火の向こうを見る。


三人が次の攻略について。


話している。


俺は少し離れたところで。


剣を磨いている。


たった数メートル。


でも


もう。


同じ場所じゃない。


その時ようやく。


分かった。


追放というのは。


ある日突然。


「出ていけ」


と言われて始まるものじゃない。


先に役割が減る。


次に意見を求められなくなる。


戦闘から外れる。


報酬が減る。


会話が減る。


そして最後に数字がこう告げる。


この人間はいなくても。


困らない。


俺は剣を鞘へ戻した。


カチン。


小さな音。


誰も、こちらを見なかった。


俺はまだ。


勇者パーティーの一員だった。


名前だけは。


まだ、 そこにあった。


けれど切り捨てるための準備は


もう、ずっと前から静かに始まっていた。

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