第7話 魔法は、怖くなくていい
モモは、杖を握る手が震えていた。
戦場ではない。
敵もいない。
それでも――
詠唱の最初の一音が、喉で詰まる。
「……っ」
思い出す。
噛んだ詠唱。
暴発した炎。
味方を巻き込みかけた、あの日。
魔法は危ない。
その恐怖が、まだ消えていなかった。
「無理に撃たなくていいよ」
ノエルが、そっと声をかける。
「モモの魔法は、もう“派手”じゃなくていい」
モモは、顔を上げる。
「……でも、威力がないと」
「違う」
ノエルは、首を振った。
「魔法はね」
「続けられることが、一番の力だよ」
その言葉が、
モブオの胸にも刺さる。
+は量の技術。
ノエルは意味を重ねる。
そして
モモは、安全を重ねる。
モモは深呼吸をする。
詠唱を、短く。
区切って。
噛んでも、止まらないように。
《灯り》
《風起こし》
別々に。
確実に。
モブオが、+を添える。
《灯り+風起こし》
光が、揺れる。
だが以前のように、
暴れない。
風は強くない。
炎もない。
代わりに
視界が、安定する。
煙を押し流し、
影を消し、
敵の輪郭だけを浮かび上がらせる。
「……これ」
モモは、気づく。
「戦うためじゃない」
「戦場を壊さない魔法だ」
《灯り+風起こし》
魔法名が、変わる。
《導光風》(C級→進化中)
・煙を散らす
・視界を確保
・魔法暴発率を低下
事故を、起こさせない魔法。
派手さはない。
だが、
味方が倒れなくなる。
応援の変化
その背後で。
ノエルが、静かに旗を振っていた。
「大丈夫」
「今の、すごくいい」
声は小さい。
だが、
モモの集中が、切れない。
詠唱が、続く。
モブオの+が、安定する。
デブリの防壁が、揺れない。
重なっている。
意味が。
ノエルのスキル欄が、
淡く光る。
《応援》(C級)
補足表示。
士気維持効果、上昇
集中阻害低減
支援範囲、拡張兆候
その頃。
焚き火の前。
モモは、小さく笑った。
「……私」
「やっと、魔法が怖くなくなりました」
モブオは頷く。
「それでいい」
「壊すのは、俺たちの役目だ」
「モモは――」
「続けさせてくれ」
炎が、静かに揺れる。
それは、
事故らない魔法の光だった。




