第6話 守る者の深化
デブリは、立ち止まっていた。
物理的な意味ではない。
戦い方として、だ。
《多重防壁》は強い。壊れない。
崩れない。
だが
「……動けねぇ」
防げる代わりに、
前に出られない。
守れる代わりに、
追えない。
それが、
これまでのデブリだった。
魔王軍斥候部隊。
小規模。
だが、速い。
二足歩行の魔族に、
四足の斥候獣。
包囲。
撹乱。
離脱前提の動き。
「正面から来ない……!」
モモが叫ぶ。
モブオが歯噛みする。
《乱打》では追いつけない。
防壁は厚い。
だが、点でしか存在できない。
敵は、横を抜ける。
後ろを取る。
その瞬間。
デブリが、一歩踏み出した。
「……全部、守るな」
呟くように。
だが、はっきりと。
《守る+守る+移動》
防壁が、
剥がれる。
いや、違う。
再配置される。
デブリの動きに合わせて、
必要な場所だけに現れる。
《守る+移動》(C級派生)
足を止めない防御。
重さが、消えた。
斥候の一体が、
背後へ回り込む。
爪が、振り下ろされる。
デブリは、振り向かない。
「……そこは、捨てる」
《守る+選別》
防壁が、
一部だけ消えた。
守る対象が、限定される。
モモ。
モブオ。
ノエル。
それ以外は
切り捨てる。
攻撃は、デブリの鎧をかすめる。
だが致命にならない。
その一瞬で、
モブオの《乱打》が入る。
意思を持つ防御
戦闘は短かった。
斥候は撤退。
だが
「今の、防壁……」
モブオが息を呑む。
ノエルが目を輝かせる。
「意味が変わった」
デブリは、静かに拳を握る。
「俺は……」
「全部を守らなくていい」
「守るべきものを、選べばいい」
その瞬間。
スキル欄が、
微かに震えた。
《多重防壁》(C級)
補足表示が増える。
派生適応率、上昇。
防御意思、形成中。
正式なランクアップではない。
だが、
明確な“深化”だった。
ノエルが、旗を掲げる。
「デブリ、今の――」
「完全に“盾役”じゃないよ」
「“守護者”だ」
デブリは照れたように、
視線を逸らす。
「……まだ、途中だ」
モブオは笑う。
「十分だよ」
「もう、置物じゃない」
夜。
焚き火の前。
デブリは、みんなに言った。
「……俺」
「守るのが、好きなんだ」
誰も、笑わなかった。




