第7話 重層竜、降臨
魔王軍幹部
重層竜バルガス(じゅうそうりゅう)
それは、
生き物の形をした質量だった。
呼吸ひとつで、
空気が歪む。
吐き出された息は、
炎でも毒でもない。
圧だ。
肺で吸い込まれた大気が、
重さを持って押し返される。
近くにいた冒険者の一人が、
それだけで膝を折った。
「……息が……」
立っていられない。
呼吸が、できない。
バルガスの装甲鱗は、
ただ「硬い」のではない。
層になっている。
一枚目は、衝撃を受け流す傾斜装甲。
二枚目は、魔力を拡散する魔導層。
三枚目は、物理衝撃を溜め込む蓄積層。
そして
その奥に、本体装甲がある。
斬撃が当たっても、
・弾かれ
・滑り
・吸われ
・消える
攻撃が「届かない」のではない。
“意味を失う”。
鱗の隙間からは、
赤黒い光が脈打つように漏れている。
心臓ではない。
魔力炉。
この竜は、
生きている兵器だ。
戦闘開始 ― 圧殺
バルガスは、翼を広げない。
飛ぶ必要が、ないからだ。
ただ、歩く。
一歩。
地面が沈む。
二歩。
岩盤が割れ、
衝撃波が前線を舐める。
三歩。
魔物ですら、逃げ惑う。
A級冒険者が、意地で踏みとどまり、
斬撃を放つ。
当たる。
だが、鱗の一枚が、
わずかに鳴っただけ。
次の瞬間。
バルガスの前脚が、
踏み下ろされる。
衝撃。
空気が壁になる。
冒険者の身体は、
潰れる前に、吹き飛ばされた。
骨が折れる音すら、
衝撃波にかき消される。
「……っ、撤退――」
叫びは、
最後まで届かない。
バルガスは、戦っていない。
試している。
この世界が、
どれほど脆いかを。
「……弱い」
声は、確かに言葉だった。
だが、感情はない。
怒りも、愉悦もない。
ただ、
事実を述べているだけ。
単発火力。
一撃必殺。
圧倒的質量。
連携も、
持久も、
工夫も。
すべてを、
一撃で否定する存在だからだ。




