第9話 C級冒険者の配置
魔王軍の侵攻が始まった。
最前線の平原には、
数え切れないほどの冒険者が集められていた。
鎧の光沢。
武器の銘。
漂う魔力の濃度。
ここに立てるだけで、
一人前だと誇っていたはずの者たちが、
今はただの“駒”として並べられている。
ギルドの号令が、冷たく響いた。
「陣形を確認する!」
最前線――
C級冒険者。
数だけは揃っている。
装備は貧弱。
生存率は、考慮されていない。
中衛――
B級冒険者。
前線が崩れた場合の穴埋め。
押し返しと時間稼ぎの役割。
後衛――
A級、S級冒険者。
戦場の切り札。
温存される戦力。
「ここぞ」という瞬間まで、動かない。
それが、
ギルドが敷いた陣形だった。
C級は、盾。
B級は、緩衝材。
A級以上は、勝利条件。
命の価値が、
配置で示されていた。
モブオたちは、
最前線に立たされる。
一番、死に近い場所に。
C級冒険者に与えられた役割は一つ。
数合わせ。使い捨て。突撃兵。
モブオ、モモ、デブリも、その列に並ばされていた。
前方を見る。
そこには、
名の知れた冒険者たちがいる。
《閃光剣》の二つ名を持つA級剣士。
巨大な魔斧を担ぐS級の獣人戦士。
詠唱するだけで戦場を変える大魔導士。
彼らの周囲だけ、空気が違った。
緊張はある。
だが恐怖はない。
「今回は腕が鳴るな」
「魔王軍の先遣隊か。軽い仕事だ」
談笑すら交わされている。
死線に立つ者の顔ではない。
その少し後ろ。
C級の列。
誰も、声を出さない。
剣を握る手が震え、
盾の縁を強く掴み、
祈るように俯く者もいる。
鎧は古く、
武器は擦り切れ、
回復薬は最低限。
「……帰れるかな」
「家族に、何も言ってない」
そんな呟きが、風に紛れて消える。
C級にとって、この戦場は
生還を期待されていない場所だった。
その時だった。
前線側から、
見覚えのある顔がこちらを見つける。
勇者アレス。
魔法使いリナ。
僧侶カイン。
そして、
モブオの代わりに加入した新戦士、ブレイブ。
筋肉が鎧を押し広げるほどの巨躯。
分厚い腕。
無駄のない立ち姿。
どう見ても、
俺より前線向きだ。
アレスが、笑って声をかけてくる。
「生きていたか、モブオ」
軽い口調。
だが、その目はもう仲間を見るものではなかった。
「なんだ、楽しそうな仲間たちじゃないか」
「ランクCの冒険者でも、この戦場でできることはあるさ」
一瞬、言葉を切る。
「……死なないようにな」
それは激励じゃない。
役割の宣告だった。
お前は、前に出て死ね。
俺たちが本気を出す前に。
そう言われたのと、同じだ。
号令がかかる。
「C級部隊! 前進準備!」
ざわめきが走る。
「え……俺たちが?」
「まだA級が動いてないのに?」
答えは一つ。
露払いだ。
魔物の群れにぶつけ、
数を減らし、
動きを止める。
生き残れば儲けもの。
死ねば、それまで。
C級の敵陣への突撃兵。
それが、
この戦場における俺たちの名前だった。
モブオは、前を見た。
魔物の群れが蠢いている。
牙。爪。咆哮。
死が、はっきりと形を持って迫ってくる。
横を見る。
モモは、顔色が真っ青だった。
杖を握る手が震えている。
デブリは、歯を食いしばり、
それでも前に立とうとしている。
「……怖いな」
誰かが言った。
否定する声は、なかった。
だが、モブオは笑う。
「いいじゃないか」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「一番前なら」
「一番、手数を出せる」
名を売る機会は、
命が安い場所にしか転がっていない。
「俺は、ここでやる」
モブオの瞳に、火が灯る。
号令。
「C級部隊、突撃!!」
「「「「「「ワアアアアアアアア!!!突撃!!!」」」」」」
叫び声と共に、
C級冒険者たちは走り出す。
誰かは泣きながら。
誰かは祈りながら。
誰かは何も考えられずに。
哀しい突撃兵たち。
だがその列の中に、
一人だけ違う熱を帯びた男がいた。
C級冒険者、モブオ。
この戦場で価値をひっくり返すために。
ここからが本当の始まりだった。
【 第三部 新大陸編 完結】




