第9話 正直、ダンジョンを甘く見てました
無事に冒険者の試験に合格した俺たちは、翌日から始まる研修の為、その日からガイレルに泊まることにした。
しかし予定外の初めての外泊ということになり、泊まる部屋は1つであった。
もともと2人は夫婦という設定だから仕方がないが、姫乃が予約した時に1部屋で手続きをしていたのだ。
だが若い男女が2人というのはなかなか気まずいものである。
俺には瑠菜がいる上、そもそも2人でお泊まりなんかしたこともない。
そんな動揺する俺をよそに、姫乃は試験で気をはりすぎたのか疲れたように、いや、まるで誘ってるかのように無防備に眠ってしまう。
その姿を見ながら、俺は同じベッドで悶々としながら『これからも彼女とうまくやっていくためだ』と言い聞かせながら無理やり眠りにつくことにしたのだ。
「(……もうっ! 先輩の意気地なし~っ)」
「(私って……魅力が無いのかなぁ……こっちの世界の先輩なんだから、少しぐらい……ぐすん)」
――その後、俺は現世で目覚めるも、入院生活以外何も変わったことは起こらなかった。
俺の命が狙われている件については茂上刑事からの連絡も一切なく、不安を抱えつつも1日が終わっていくのであった。
おそらく、退院する2週間後まではこんな感じで過ぎていくのだろう。
そして再び異世界の朝がやってくる。
「お、おはよう姫乃……」
「おはようございます」
姫乃の仕草は、いつもより冷たく感じた。
俺は不機嫌な理由が全く分からず、その件にはあえて触れずに宿の朝食に誘い、1日も早く姫乃の手料理を食べたいとゴマをすりながら、ご機嫌を取っていた。
少し笑顔が見られたことに安心しつつも、ギルドに赴き冒険者の研修が始めるのであった。
ちなみにギルドの階級は、Fランクが一番下であり、俺たちはそこからのスタートとなる。
そしてE→D→C→B→A→S→SSと実績を経て昇格し、そのランクが上がると難易度が高い任務を受けられ、高額の金を得ることができるという。
俺たちは研修での内容を聞いている限りではCランクまで上がれば、スノーア王国の雪山に居る魔物と渡り合えるぐらいの実力だという事が解り、とりあえずそのレベルを目標にすることにした。
こうして俺は、『異世界』と『現世』の行き来を繰り返し一週間が経ってた。
無事に冒険者の研修の最終日を終え、久しぶりにヴォルケンの家に戻ろうとした、その時――。
「ゲイツさ~ん、ミーナさ~んっ」
俺達を呼び止めたのは、必死に探してくれていた受付嬢のフレインさんであった。
研修が終わったことを聞きつけ、明日以降も時間があるのであれば、初心者用の経験値を上げる為の任務をしてみないかと提案を受ける。
この誘いは願ったりかなったりであった。
実戦の腕試しが出来るのはありがたい上、初めてこの世界での労働対価……給金をもらえるということに、浮かれ気分で引き受ける事にした。
――そして、翌朝。
フレインさんから聞いたダンジョンに向かうと、そこには4人の新米Fランク冒険者とBランク冒険者の剣士のハウルという男が待っていた。
研修では魔物とは実際にはたたかっていないが、これから向うダンジョンには『スライム』や『ホーンラビット』が主に生息している場所と説明された。
表向きは初心者向けの経験の場としているが、そのダンジョンに生息する魔物減らしの一環のようだ。
「とりあえず、入り口付近にはスライム、さらに奥に進むとホーンラビットが生息している」
「倒し方は説明した通りだ。理解はできたかい?」
「何度も言うが、とにかく危なくなったら逃げろ! ここのホーンラビットはそれほど脚は速くない」
「逃げられなくなったら、とにかく叫べ! やつらの力ではすぐには殺されることはない! 俺がすぐに助けに行く――」
そうして新人冒険者達は各々、単独で行く者もいれば、俺たちみたいにペアで自由にダンジョンの中に入っていく。
俺はあらかじめ姫乃に危険察知をさせていたので、100m以内に魔物がどこら辺りに何匹、そして脅威になりうるかを調べさせていた。
「先輩、これって反則ですかね?」
「いやいや姫乃が授けてもらった能力がこんな使い方に転用できたんだ。感謝しなきゃ」
「――先輩、来ます!」
「あの曲がり角から3匹、たぶん悪意の強弱からして一番弱いスライムだと思います」
「それじゃ、まずは俺がやってみるね」
「確か、スライムはコアになる赤い部分を……」
俺は変な高揚感で研修で覚えたての剣を使いたくてしょうがなかった。
そして、出現位置が分かっている優位を逆手にとり、曲がり角から出現しようとしているスライムに対して、先制攻撃を仕掛けようと飛び込んだ――。
――!。
「――先輩、これって反則ですかね?」
「いやいや姫乃が授け――え? え? え?」
「どうしたんですか? 先輩? ――来ます!」
「あの曲がり角から3匹、たぶん悪意の強弱からして一番弱いスライムだと思います」
時間が戻っていることに動揺する俺。
つまり、あの曲がり角で遭遇したスライムに致命傷を与えられたとしか考えられなかった。
「姫乃? 本当に3匹のスライムなんだよな?」
「はい、この先には3匹だけですね。このダンジョンの100m以内には同じような強さの悪意しか感じないですよ。だからホーンラビットはまだ奥にいるかと……」
「実は俺……この後、攻撃を仕掛けて死んでしまったみたいなんだ――」
「――え~~っ! ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさ――」
「落ち着いてくれ姫乃、俺の能力のおかげでこうして助かっている……(ならあそこにいる魔物はなんなんだ?)」
その後、その3匹の魔物はその場から引き返していったことを確認し、複雑な気分なまま俺達はハウルさんの元へ戻り相談をすることにした。
だがハウルさんは、見ても居ないスライム以外の魔物が存在しているという説明では理解できず、ただ俺達が怖がっているだけの腰抜けと笑われてしまう。
そうしているうちにダンジョンから、他の冒険者の悲鳴がそこら中に響き渡る。
「な! 何が起こった? たかがスライム相手に……3か所から同時に悲鳴だと?」
ハウルは俺達に動かないように指示を出しダンジョンに駆け込んでいくのであった。
だが俺は、すぐに姫乃をダンジョンに近づけさせ100m以内の索敵を行わせた。
「せ、先輩! さっきのスライムの気配と変わらない……です?」




