第5話 俺の命が狙われた理由がわからない
俺は無理やり異世界から現世に呼び戻された。
ただ呼び戻されただけならよかったのだが、結果的に異世界転移の時に与えられた能力が、現世でも発動したことを理解する。
『自分の身に致命傷となる出来事が発生すると、3分前の時間に意識が戻る』
だが、最初は何が起こったのかさっぱりわからなかった。
それは当然だ。初めて実感する事象……目が覚めたばかりの俺は夢の続きだと無理やりにでも状況を飲み込もうと必死だった。
そんな中、先に体験した部屋のドアが開き誰かが入ってくる気配を再び体感する。
しかし混乱する中、カーテンが開き注射器を持った看護婦が、動けない俺の首元に躊躇なくそれを刺し液体を流し込む――。
――そして俺は再び目を覚ます。
「(くそっ何時だ……3:15? やっぱり俺は殺される――)」
2回殺された時点で、はっきりとフレーディアから与えらえた能力だということを実感したんだ。
「(なんで俺が殺されなきゃいけない――このままだと……どうする?)」
そして再び部屋のドアが開き誰かが入ってくる気配を感じながらも、俺は残り約2分間で必死に対策を考えた。
もしここで騒いだり、緊急呼び出しボタンを押せばまず殺されることはないとしても、それでは看護婦は未遂のままその場を去っていくだろう。
――そうなってしまうと、現場を押さえることも犯人が誰かさえも分からない。
「(なら!)」
俺は不自由ながらも右手を必死に伸ばし、ベッドそばに置いてあるお見舞い籠の中からリンゴを掴み取った。
さすがに2回目ともなれば注射を刺される首元の位置が分かっていたため、とっさにそのリンゴを首元へ置いた。
そしてカーテンが開き看護婦が注射器を振り下ろす。
暗がりながらも、針は俺の予想通りリンゴに刺さり暗殺されることを回避することができた。
その瞬間、刺した感触の違和感に気づき慌てる看護婦の手を、俺は必死に力を振り絞り掴み、大声で叫んだ。
「助けてくれ~っ! 殺される~っ!」
静まりかえった夜の病棟に俺の声がこだまする。
ただ事ではない状況に、病棟はざわつき始め警備員が駆け寄る中、看護婦は俺を振り切り逃げていってしまった。
しかし、注射器はリンゴに刺さったままであり、さらには証拠となる看護婦服の裾を俺は引きちぎっていた。
そして警備員が駆けつけ、看護婦に殺されかけた事を説明すると、すぐに警察を呼んでくれ、10分か15分もしないうちに警察が駆けつけ、現場検証や防犯カメラの確認が進められていった。
「君が、陽斗君ね? 私、この件を担当する刑事部捜査第一課の茂上 鋭子と言います」
「結論から言うわね」
「あなたを殺害しようとしたと思われる看護婦なんですが、防犯カメラを確認したところ逃亡してそのまま病院屋上から飛び降り自殺をしました。そして先程、死亡が確認されました」
「衣服に君が引きちぎった袖の部分がなかったから、本人で間違いないと思う――」
「じ、自殺ですか(俺を殺し損ねたから? でもそこまでして……なぜ)」
「寝たままで結構ですので、いくつかご質問させていただけると助かるのですが、よろしいでしょうか?」
そして俺は看護婦の名前を聞かされ、知り合いまたは怨恨はないか等、ネチネチ聞かれたが全く見覚えがなかった。
「――そうですか」
「ありがとうございました。最後に1つだけ個人的に質問があるのですが……」
「あなたは何故、咄嗟に『殺される』と叫んだのですか?」
「(?)」
「いえね、看護婦はただの巡回だった可能性もあったわけですし、それだけではなく、君は解っていたかのようにリンゴで首元を護った……いや、防いたのではないですか?」
「(この刑事さん、鋭すぎるだろ? 確かに不自然だよな……どうする?)」
「そ、そういえばリンゴはお見舞いにきてた家族が剥いてあげようと言ってるうちに、どっかに消えてしまったやつかもしれませんね」
「そうか! 布団の中に入ってたんですね? それが起きたら首元に……」
「……なるほど、偶然ですか?」
「それと寝ていた時に、誰かに殺されそうなり必死に逃げていた夢を見ていたんですよ」
「多分ですが首元にリンゴが転がって来たのが、触れて驚いて叫んでしまったと……」
「でも、まさか本当に――」
「――なるほど、正夢になってしまったというわけですか……わかりました(うまく辻褄は合いますが、合いすぎなのが気になりますね)」
とりあえず茂上刑事は、メガネの奥に見えた目線は疑っているように見えたが、事情徴収は乗り切ることができた。
そして後日、看護婦の素性の調査や液体の分析結果が終わり次第、再度、訪問すると。
「そうそう、ご両親には今、部下が連絡しているとおもいますが、看護婦との因果関係の可能性もございますので、早朝、家族への事情聴取をしますので、ご面会は明日の昼過ぎになるかもしれません」
「わかりました。ご丁寧に、ありがとうございます」
「あと念の為、君が退院するまで交代で警官を見回りさせるから、今日はゆっくり寝て――」
「いや流石に殺されかけたんだ、興奮気味だよね? 今、医者を呼んできてあげるよ」
「す、すみません」
そして茂上刑事は去っていき、呼ばれた医者から精神安定の注射をしてもらうことで、俺は再び眠りについた。
――と……ると……陽斗先輩っ!
「(もう、起きないと……今ならチャンスですね……今度こそ……き、キ――)」
「――あっ! ごめん!」
「きゃーっ!」
「俺、寝ちゃってた? 本当にごめんっ! 街ではしゃぎ疲れちゃったのかなぁ……あははは」
「(そうか、あっちの世界で無理やり起こされたから、こっちの世界では寝墜しちまうんだ)」
「も、もう、しがたいですね(なんで、いつもいいところで起きちゃうんですか! 確かに起こしてますけどぉ)」
「ところで姫乃? 顔が異様に近くね?」
「な、な、な、な、な、なんでもないですよ! ご、ご、ご、はん、冷めちゃいますから、たた、た、食べましょう」
「(凄い慌てっぷりだな、まぁ、寝たことはごまかせたから……いいか)」
「(それに現世で起こった件は姫乃には話せないか……心配をかけたくないしな)」
そして2人は夕食を楽しみ軽く雑談したあと、それぞれの部屋に戻り一日が終わった。
――だが再び現世で目を覚ました時、俺の目には心配そうに見つめる両親と茂上刑事の顔が飛び込んでくるのだった。




