第3話 俺の理解が追い付かない!
俺は、病院で就寝時間になり眠りについたが、意識をなくしたかと思うと突然、目が覚めた。
そして、目の前には姫乃の顔が何故か急接近していて驚いた。
そう、俺は異世界に居たんだ。
俺に起こった出来事を姫乃に説明していると、部屋の置物の人形から女神フレーディアの声が聞こえ、話しかけてきたんだ。
「ふ、フレーディア様?」
「良かった、こちらの世界に意識が来れたのですね」
「?」
フレーディアはいきなり、俺の異世界転移が失敗したと言い出す。
確かに、俺はせっかく生き返って現代で生きるはずだったのに、結局、異世界に来てしまった。
ということは現世のベッドの上で寝ている俺がまた死んでしまったということが、失敗だったのかと問い返す。
フレーディアは異世界転移を2人に施している瞬間に予想外にも俺が蘇生されてしまったため、本来1つの体が2つ精神体に分かれてしまったのだという。
彼女は現世では活動ができないため、事情を説明しようにも困っていのだ。
そして今、俺が異世界に来れたことで、こうして話ができると言う。
「2つの精神体? 俺は現世と異世界に2人存在……いやいや、意識は1つだぞ?」
「フレーディアさん、陽斗先輩の精神が分かれたって? どう言う事なんですか?」
フレーディアは他の神にも連絡をとり確認したが、このようなケースは過去に前例がなく、他の神との意見を交換した結果の仮説を話し始めた。
「陽斗、あなたの体は2つの世界にそれぞれありますが、意識というか精神はどちらかにしか存在しません」
「そして、このままだと……いつかはどちらかの世界の体に統一されます……」
「――と、統一?」
「つまり現世か異世界、どちらかのあなたは精神のパワーバランスが片寄った方に飲まれてしまう」
「それって、どちらかの俺が消えるって事ですか?」
「そんな……こっちの世界の先輩が消えちゃったら……私は――」
「ちょっと待ってくれよフレーディア様、なんとかならねぇのか?」
フレーディアは今の不安定な状態では、いづれそうなる可能性があるとしか言いようがないと申し訳なさそうに語る。
そして今、この世界にいるのは現世の世界で寝ているか意識を失っているからであり、逆もしかりで、こちらの世界も寝るか意識がなくなれば現世の俺に意識が戻るのではないかと――。
「もし今、現世で誰かが俺を起こしたら、その瞬間に意識は向こうに戻るということですか?」
「こっちの世界に来れたのは、私が先輩を何度もゆすって起こそうとしてましたから……それで来れたのでしょうか?」
「(顔が近くにあったのは、本当にそのせいなのか?)」
「おそらく、そうなると思います」
俺は言葉を失った。
つまり意識が無い時に、反対側の世界の自分に意識が移り行動するという可能性が高いことはわかった。
だが、人間の睡眠時間は平均でも6~9時間前後、つまり起きている時間は15~18時間という事になり、現世ではその生活は一般的で、それ以上寝ていると無理やりにでも起こされるし、隠れて無理やり寝ない限り、異世界では6~9時間の行動しかできないという事になる。
その話をするとフレーディアは、異世界と現世の時間の流れは時空が歪んでいるので通常の感覚とは一致しないという。
異世界で普通の生活をしていても、現世で流れる時間は別物であり意識が双方の世界に居る間、空間同士で時間を補完しあっているから問題なくどちらの世界でも生活できるという。
「なんだそれ? 都合がいい時間の流れっていうのはなんとなく……だからどっちの世界にいても普通の生活はできるということなんですか?」
「ある意味、パラドックスですね」
「ぱらどっくす? 姫乃? さんは、そういうのお詳しい方?」
「ご存じないですか? そうですね例えば……」
「先輩が『自分は嘘をついています』と発言したとしましょう」
「もし、この発言が真実であれば、先輩は嘘をついていることになります」
「ですが、その嘘が真実だとすれば、嘘はついていないということになります」
「あっ!」
「そうです。嘘が寝ている時間、真実は起きている時間……表面上の矛盾に隠された論理が成立するんですよ」
姫乃は、趣味で小説を描いており、そういう話は大好きなんだという。
俺に嬉しそうに理屈を説明してもらい、なんとなく理解ができた。
いろいろ話している内に、フレーディアはこの世界に干渉できる限界時間が来てしまい、また新しい事実や解決方法がわかれば伝えに来るといいながら人形からは声がしなくなるのであった。
そして、沈黙の中、俺達はなんとも言えない空気に包まれていた。
「あ、あの……(さすがに、異世界に転移する前のようなことがあるから、ご両親のことは聞かれるまで黙っておいた方がよさそうだな)」
「なんだか、俺、結局、生き返ってしまったみたいで、本当にごめん」
「あ、え、その……助かったのなら喜ばしい事ですが……これで、彼女さんとまた楽しくできますね」
「?」
姫乃は、暗い顔を隠しながら俺の生きていたことを喜んでくれていた。
しかしだ、そもそもなんで彼女が俺の事を知っているのかが疑問だった。瑠菜と付き合っている事まで。
「先輩、サッカー部のゴールキーパーですよね。いっつも教室から部活を拝見させていただいておりました」
「そ、そうなんだ……(俺って有名人?)だから知ってたんですね姫乃さ――」
「あのぉ、一応、こっちの世界での名前に慣れておきませんか? 別に2人の時は、姫乃と呼び捨てで呼んでいただいて全然かまいませんわよ」
「あの……その……一応、夫婦って事なんですし」
「っと! (そうだったぁ、こっちの世界では夫婦ってことで転移させられたんだっけか? なんで兄弟でもよかったんじゃないか? 顔が全く似てないか……)」
「そうだったね、姫乃は確か――」
「はい! (やった! 呼び捨てを先輩にしてもらっちゃったぁ) ミーナです!」
「俺はゲイツだったな。ミーナよろしくな」
「はい、あなた」
その言葉に、言った本人も言われた俺も、何故か顔を真っ赤にして沈黙してしまうのであった。
――こんなので、この先、この世界でやっていけるのだろうか?
それ以前に、この世界で……俺達は何をすればいいんだ!?




