第15話 ついに奴が動き始める
驚くことに、事故当日に岩屋 剛毅の指示で姫乃が出会うはずだった男『としま だいき』は、そこには居なかった。
しかし彼女は、存在しない相手から荷物を受け取ろうとしていたのか?
俺が困った顔をしていると、現場監督は思い出したかのように問いかけてくる。
「君、あの時の事故に遭った少年だよね?」
「は、はい」
「直接、謝罪ができるとは思わなかったよ。入院中はご両親にしかお会いできなくて、申し訳ない」
「しかし、あの事故にあったとは思えないな……元気そうでよかった」
「これでも、まだ肩は上がりませんし、歩くのが精いっぱいで走れないんですよ……」
「そ、そうなのか? ここでは何だ……時間があれば、すぐそこの喫茶店で話しでもしないかい?」
俺も、もう少し情報を得る機会だと、その提案に付き合うことにした。
彼は舞田といい、この現場の工事が始まってから1年近く労働者を管理しているが、聞き間違いではないかと似たような名前の人物が居たかもしれないと思い出そうとしてくれていた。
時折、電話をして確認もしてくれていたが、もしかしたらと1人の人物を教えてくれた。
「確か、あの事故の次の日から、1人、急に連絡が取れなくなり欠勤しているやつがいるんだ……」
「もしかしたら、そいつが鉄筋の落下に関わっていたんじゃないかと、警察の人は調べているようなんだが」
「事故ではなく、事件だと……言うことですか?」
「警察の方はその線の可能性があると調べているらしい――」
「そ、そうなんですね。(茂上刑事は、そんなこと一言も……)」
その男は、園川 圭太といいい、まだ30歳だが借金返済目的で必死に働いていたという。
しかし、その男がなぜ鉄骨の落下をさせようとしたのか理由が見当たらない。
だが冷静に考えると、居もしない男に逢わせようとした岩屋に呼び出された姫乃を殺そうとしたのかという疑惑すらわいた。
しかし舞田氏に、現場からなのか電話がかかって来る。
「はい、もしもし……わかった。すぐ戻るよ」
すぐに現場に戻らなければならないと、解散することになる。
「つまらない話に付き合っていただき、貴重なお時間ありがとうございました」
解散後、急いで家に戻り茂上刑事に連絡を取ろうと考えていた。
だが、帰り道の交差点を渡ろうとした時、俺に向かって凄まじいスピードで信号無視をした車が飛び込んでくる。
「あ、脚がっ! このままでは、かわせな――」
キキーッ! ドーン!
――。
「――しもし……わかった。すぐ戻るよ」
「すまない、現場に戻らなければいけな――」
「(じ、時間が戻った? まさか、さっきの暴走車に引かれたというのか……)」
「どうしたんだい?」
「い、いえ、つまらない話に付き合っていただき、貴重なお時間ありがとうございました……」
俺は何もなかったかのように、その場を立ち去ろうとし、問題の交差点の前で1つ信号を見送った。
しかし、暴走する車が近寄ってくる雰囲気はなかった。
とりあえず人通りが多いタイミングを狙い交差点をしらじらしく渡たり、いつも以上に要所要所に注意しながら家まで無事にたどり着くことができたのだった。
まだ昼過ぎだというのに、とても疲れてしまった。
あれは完全にタイミングを見て、ひき殺そうとしたのは間違いないと理解したが、あの時の看護婦のように、もう一度仕掛けてくれるなら証拠をつかめるが、そんな車の気配すらなかった。
実際、殺されかけた事実があるとしても、それは俺の能力があったから解っているだけで、証拠が何もない。
さすがに、命が狙われたと茂上刑事に伝えても信じてもらえないだろうという事はわかっていたが、とりあえず電話をかけることにした。
『としきまいだ』と姫乃が会おうとしてたということを話す訳にもいかず、事故当日の鉄筋の落下の件は事故ではなく事件として捜索しているのではないかという話に切り込んだ。
「――君はやはり勘がいいんだね」
「隠すつもりではなかったんだが、これ以上、確証のない話で君に不安を与えたくなかったんだ……許してくれ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「ここまで話してしまった以上……説明だけはしておくよ」
「彼は一週間前に……君が退院する前日だな、近くの山中で遺体で見つかったんだ」
「……自殺ですか? 看護婦の時と同じ――」
「あぁ、不自然すぎるんだがな……自筆の遺書もあり、他殺ではなかった」
「まさかですが、その男も岩屋 と繋がりが……?(ありますよね? 姫乃が接触させられようとしたのだから……これも隠すつも――)
「その通りだ……」
「(!)」
彼女は、あの工事現場は、表名義は違えど岩屋財閥関連業者のビルを建設していると説明する。
そして、走査線上に舞田 敏樹の名前が挙がっているという。
彼は岩屋社長のいとこであり、現場監督をしていると……。
「(舞田……あの人じゃないか!)」
「どうした?」
「い、いえ」
「こいつも何かある、まだ、調査している途中なんだが、接触は避け――何っ!」
「陽斗君、さっきまで工事現場に居たのは本当か! それで事件の事をっ!」
茂上刑事は、丁度、俺を警護していた私服警官からの報告を受け唖然としていた。
「す、すみません……」
「何で現場に行った? 確かに行くなとは言っていなかったが……彼と接触してしまったんだな?」
「はい……事故現場がどうなっているか気になってしまい(さすがに、姫乃から聞いた人物を探していたなんて言えない……)、そこで偶然、出会って――当日のお詫びをしたいと……」
「事件の件を隠していた私も悪いから謝らなくていいが……無事ということは、何もされていないようだな――」
「(まさか、さっきのひき逃げ未遂……園川の事を調べると言って頻繁に電話をしていたのは……)」
「(いや、待てよ? 『まいだとしき』……同じ文字が……『としきまいだ』? 『としまだいき』! アナグラムじゃないか!)」
「陽斗君? どうした?」
俺は確信を持ち始めていた。
姫乃が接触しようとしていたのは、現場監督。
そして現場監督から俺の動向を確認して殺そうとしたのは、やはり、岩屋 剛毅からの指示なのだと。




