第14話 俺は事故現場の調査を開始する
俺は姫乃から、岩屋 剛毅の事について話を聞き出すことが出来た。
彼の会社、岩屋財閥の後継者になる男であり、岩屋財閥は近年、経営不振に陥りつつあった彼女の父親の会社、つまり二階堂財閥に声をかけ、姫乃と剛毅を結婚させることを担保にして高額の融資をし会社を立て直させたという。
しかし二階堂社長の本心は不本意であったが条件を飲むしかなく、姫乃も今まで男で一人で育ててくれた感謝を、それでしか恩返しができないと我慢することにしたという。
彼女は続けて、岩屋の性格について話そうとしたが声は震えていた……おそらく、思い出したくないのだと察したが、彼女は勇気を振り絞って語り始める。
付き合い始めてから、デートすらするわけでもなく、会う時は休日や学校の放課後に急に呼び出され、いつも知らない人物の居る建物や場所に荷物を運ばされることばかりさせられていた。
そして、自分はまったく女として見られておらず、『用事で行けない』と言うと豹変し何度か殴られたこともあり逆らうのが怖くなっていたと言う。
「(こんな美人を? パシリに……いや、それ以前に殴るだと! とんだクソ野郎だ)」
「(だが、何のために姫乃に……?)」
俺は、話の流れで荷物の中身を聞くが、中身は見ないように言われていたため暴力が怖くて見た事もないと答える。
そして荷物は封筒だったり小袋だったり、毎回異なり、それを持って身も知らな男に会わされていたという。
「もしかして姫乃、あの事故の日にあそこに居たのは――?」
彼女は小さくうなづいた。
その日は工事現場で働くある男から物を受け取ってくるように指示をされて、中をうかがっていた最中だったのだと答えたのだ。
その後、鉄骨が彼女の上に降って来る瞬間に俺は出くわしたということだ。
「(フレーディアが言っていたな、俺達2人は……)」
――死ぬ予定だった人間の代わりに事故に巻き込まれ死んでしまった
しかし、その運命を変えたのは俺でもなければ、フレーディアでもない。
だが死ぬ予定の人間が変えるなんて出来やしない……その疑問が残っていた。
以前、フレーディアに死ぬ予定だった人物を興味本位で聞こうとしたが、俺が、現世で生きている以上、どんな事情があろうとそれが誰かを教えることはできないと、結局、答えてくれなかったことを思い出す。
そこで俺は、彼女に誰に渡す予定ように指示されたのか聞き出すことにした。
その人物こそ、本来、事故に遭うはずだった人物ではないかと睨んだからだ。
男の名前は『としま だいき』という工事現場にいる作業員だというが、彼女はその男には接触すべきではないと忠告をしながら、小さな肩の震えが増していくのであった。
おそらく、彼女の悪意を感じる能力が違う形でそう言わせているのだろうと感じた。
俺は『もう話さなくていい』と彼女の震えが止まるまで抱きしめることにした。
しばらくそのままの状態で居ることで、やっと彼女の震えが止まるのであった。
彼女も落ち着いたところで、仕切り直し、今日から始まるギルドの初任務に間に合わなくなると急いで出かける準備をし、ガイレルの街に向かう馬車に飛び乗り移動するのであった。
「……ごめんなさいね……全部、語り切れなくて――」
「いいや十分だよ。思った通りのクソ野郎だったことは伝わったから……俺でも生理的に無理だわ、あの顔」
「くすっ、そう言ってくれると少しは心が安らぐわ」
「でも……止めても無駄よね……現世で、無茶しないでくださいね」
「……あぁ」
「でも、今日の任務を楽しみにしてたのに、嫌な気分にさせてゴメンな」
「んん、私が話すって決めたんだから、いいのよ」
「それじゃ、うっぷんは新しい武器で魔物達で晴らそう」
「はい」
ギルドへ到着した後、俺達は初任務へと出かけ、それなりの成果を残し1日が終わる。
この任務はあと3日ほど続くため、任務地にある宿を取り、いつものように俺達は1つの部屋を予約することになる。
その夜、相変わらず無防備で寝ている姫乃に背中を向けて俺は必死に別の事を考えながら寝ようとしていたが、ふと彼女の鳴き声が聞こえた気がした。
おそらく起きている、いや、今日、俺に話した現世での嫌な話を思い出し苦しんでいると思った。
俺は瑠菜のことが頭をよぎるが、こっちの世界では姫乃を守るのは俺しかいないんだと心に決め、泣くのをこらえている彼女を抱きしめた。
すると彼女は一瞬ピクリと動いたが、悲鳴1つ上げずに、何も言わず俺の好意を受け入れてくれた。
そして辛そうな顔から幸せそうな笑顔に変わり、おそらく安心したのであろう、数秒もしないうちに呼吸が寝息に変わるのを感じた。
……それはそれで良かったんだが、俺の方が別の意味でおさまりがつかなくなってしまった……情けない。
しかし、そこはぐっと堪えながらも、結局、任務の疲れに負けて寝てしまうのであった。
「(ううう、先輩の意気地なしぃ……でも、ありがとうございます。私、この世界に来られて今が一番幸せです)」
そして、俺は、現世で日曜日の朝を迎える。
今日は瑠菜は家族の用事で出かけているため、1人、事故現場に出かけることにした。
そこで誰かに話しを聞けば、姫乃が接触しようとしていた『としま だいき』という人物と岩屋の繋がりが何かわかるかもしれないと……茂上刑事に相談もせずに動き出す。
「――今日、瑠菜が居なくてよかった、絶対、目なんか合わせられない……あのまま放置もできなかったしぃ」
「悪いことをしてしまったような、してないような……それ以前に瑠菜とも……いかんいかん」
そうこう変なコトを考えているうちに、現場に到着する。
俺は、周りに怪しい車や人影はないことを確認し、鉄筋の落下した場所を眺める。
そこは『立ち入り禁止』の札と柵が設けられていたが、建設工事は何もなかったように続いていた。
そんな中、その柵の横のドアから現場に入っていく、中年の男性を見かけ声をかける。
「すみません、この工事現場に『としま だいき』って方はいらっしゃいますか?」
質問をした相手は、その工事現場の現場監督であった。
これはすぐたどり着けると安堵した瞬間、そんな人物はここには居ないと、あっさり言われてしまうのであった。
俺は姫乃は一体、何をさせられていたのか、解らなくなってきてしまうのだった。




