第12話 墓参りで、蛇に睨まれた気分になる
俺は、異世界では冒険者としてフレイゾンの街があるケンゲシュタル王国に行くために姫乃と一緒に経験値を上げる一方、現世ではようやく学園生活が再開し、学業に専念しつつも宅間 透をどうやって探し出すかを考えていた。
学校に復帰して3日目、今日は部活に参加せず瑠菜と下校をしていた。
俺は、自分の命が狙われていることや宅間の事は忘れ、週末の事について話をしていた。
それは姫乃のお父さん、つまり二階堂社長との約束で、俺が退院したら一度、墓参りに来てほしいと言われていた件である。
正直、異世界では毎日のように逢っている姫乃の墓参りと考えると、少し複雑な気分であった。
しかし、俺はふとある車の存在に気付いてしまう。
何かに見られているような、確信はなかったが気になって仕方なかった。
退院後の初日の下校の時にも居た気がしてならなかったのだ。
しかし、中を覗こうとするとそそくさと車は去っていくのであった。窓ガラスの仕様なのか、運転手の顔は全く見えなかった。
命が狙われている恐怖から来るものなのか、もしかしたら新たな刺客なのかと動揺しながらも、瑠菜には気づかれてはいけないと出来る限り冷静を装う努力をしていたが、彼女に何かを察しされてしまう。
「陽斗? 大丈夫? 体、どこか痛いの? 顔色が悪いよ」
「(しまった……顔に出てるのか?) い、いや、大丈夫、やっぱり、疲れがでちゃったのかなぁ?」
「本当? もしかして明日のお墓詣り、本当は顔が出しづらくてストレスになっちゃってる?」
「あ、そ、そうかもね。それかなぁ~?」
「でも、気にしすぎだよ。姫乃さんも陽斗に来てほしいと思っているわよ、きっと」
「そうだといいな(ご、ごまかせた……)」
「それじゃ明日は朝10時ね。バイバイ」
家に着いた俺は、すぐに自分の部屋に駆け込み、茂上刑事の携帯に電話をするのであった。
彼女との通話は、基本的に俺からかけるという約束になっていた。
逆にかけてこられるとタイミングが悪い場合が多いからだ。
もし瑠菜と一緒にいる時に掛ってくると、俺の命が狙われている件を知られてしまう可能性があることはもちろんだが、彼女からしてみれば犯人に俺との接点を悟られたくないということでもあった。
「もしもし、陽斗君? どうかしたのかい?」
俺は、尾行されている可能性について相談をした。
するとタイミングよく、彼女もその件について俺の警護をしている私服警官から報告を受けていたところであった。
「陽斗君、岩屋財閥の誰かに知り合いは居るかい?」
「いわや? あぁ、ありますね隣町に……」
「知り合いなんて居ませんよ。友達との会話でもそんな財閥の話なんて上がったことすら」
「そうか……」
彼女が言うには、私服警官も俺と同じように不審車に気付き去っていく時にナンバープレートを確認し調べていたようだ。
すると、その車が岩屋財閥もものであったのだ。
それだけではない。
以前、俺を殺そうとした看護婦の行動を、俺が病院に担ぎこまれてからビデオで確認していたところ岩屋グループ関連の男と接触していたことが分かり何か裏があるとほのめかす。
しかし、それだけでは殺人の動機にはならず、とにかく岩屋関連の人物との接触には要注意するように警告されるのであった。
――そして翌日の朝10時。
二階堂社長が社用車で俺と瑠菜を迎えに来てくれ、3人で一緒に霊園に向かうのであった。
しかし、俺は移動中の車でそわそわしていた。
始めて乗るロールスロイスの社内の豪華さに魅了されて興奮しているのもあるが、後ろに見える車が、どうしても尾行している車に見えてしまい不安と恐怖が入り混じってしまう。
「すまないねぇ、陽斗君。落ち着かないようだが?」
「い、いえ、そんなことはないですよ」
「一生、こんな凄い車に乗ることなんてないと思ってたんで(姫乃……お前の家ってなんなんだ)」
「あははは、すまない。そんなつもりでこの車で迎えに来たつもりではなかったんだが」
「瑠菜さんは落ち着いているように見えるが……」
「い、いえ、き、緊張して固まっているだけです」
「(お前もかいっ)あはは」
「ところで、霊園は隣の県なんですね」
「あぁ、母親もそこに眠っているんだ……姫乃が10歳の時に交通事故で無くなってね」
「それから私1人で娘が後々困らないように色々習い事をさせていたのだが……こんなことになるなら、もう少し高校生らしい青春を送らせてやればよかったと後悔しているよ」
「そんな事はないですよ。色々、役に立っていると思います」
「「え?」」
「あ~、ほら、その、学校でも弓道部のエースだったとか、多才にあふれていらっしゃったと後輩から聞いています」
「(? 陽斗ぉ? 姫乃さんの事を知らないって言ってなかった? やけに詳しいわね? 後でゆっくり説明してよね)」
「(ひぃ~)」
「そ、そうなのか……家ではゆっくり話す機会もなくてな。高校生活が充実していた話しが聞けるとは思っても見なかったよ」
「ありがと――おっ、到着だ」
そして、俺達は姫乃墓前までたどり着き、俺と瑠菜は目をつむり両手を合わせた。
するとそこへ、ある男が現れ二階堂氏に声を駆けてきたのであった。
「ご、剛毅君か……どうしたんだい? こんなところに――」
「どうした? 切ないですねぇ、お父様」
「婚約者だった姫乃が眠っている場所ですよ。来ちゃおかしいですか?」
「(誰だコイツ? 婚約……そうか、転移前に話していた、高校卒業したらって言ってたやつか?)」
「(あぁ確かに、男の俺からしても生理的に無理かも……しかし、自殺まで考え――)」
「それより、そこの2人はどちら様で?」
「あぁ彼らは姫乃の学校の先輩たちだよ。一緒に墓参りの約束をしててね」
「ところで例の件かな? 今日はこういう事情だ。後日にしてもらっても良いかな?」
「わかりました。では、また」
その男は俺を見ながら不敵な笑みを浮かべ去っていく。
しかし『では、また』のセリフは俺に言ったようにも聞こえ、背筋が凍ってしまう。
その後二階堂氏から彼の名前を聞き、俺の中で確信に変わる。
――彼の名前は、岩屋 剛毅。
岩屋財閥の跡取り息子なのだと。




