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第五話 問題があります

 宗一と付き合って二週間が経ち、悟は一組のクラスメイトと仲良くなった。


「お邪魔します」


 そう言って弁当箱を持って教室に入ると、廊下側の一番前の席の深川瑠美がヒラヒラと手を振って迎えれてくれる。ストレートのロングヘアでバッチリとメイクして、短いスカートでいわゆるギャル系の子だ。その後の席で、ふわふわの金髪を耳の下で二つ結びにして、ピンクのリボンをつけている平島菜穂も手を振ってくれる。


「いらっしゃーい。あのさぁ、青谷。ずっと気になってんだけど、青谷って大型犬好き?」


 瑠美の突然の質問に悟を首を傾げる。


「それも、賢いわんこじゃなくて、アホなわんこな」


 菜穂が言う。彼女はとても可愛い声をしている。


「動物はなんでも好きだけど、大型犬が特に好きってことはないかな。もし飼う猫がいい」


 悟が答えると瑠美と菜穂は顔を見合わせた。


「そっかー。急に変なこと聞いてごめんなーじゃ、またねー」


 瑠美と菜穂の二人は小さなバッグを持って、食堂に向かう。

 なんだったんだろう、思いながら宗一の席に向かう。一組はほとんどが食堂に行くようだ。


「おっす、青谷。昨日おまえが送ってくれた神スリーポイント動画、よかった。よくああいうの見つけてくるな。リサーチ力たけぇ」


 矢倉智樹が笑いながら話してかけてくる。矢倉は宗一の小学校からの親友でずっと同じバスケチームだったので、悟は彼のことをすごく意識している。積極的に自分から話かけて、個人的にラインを送り合う仲になった。


「よかった。またいいの見つけたら送る」


 悟も矢倉に笑顔を返す。


「ありがとな。じゃあ、宗一がちゃんとメシ食ってるか観察よろしくー」

「後でなー、青谷」

「後で喋ろー」


 矢倉と仲のいい駒田と大谷たちが、教室から出ていくのを見送って、悟は弁当箱を机においた。


「すっかり人気者だなぁ、悟」


 弁当を開けて宗一が言う。


「一組がみんないい人なんだよ。ん、今日は唐揚げ弁当か」


 悟は弁当を開けて言う。実は朝からある理由で食欲がない。


「これ母さんの揚げてくれた唐揚げ、美味しいから食べてみて」


「いいの、やったぜ!」


 悟が言う宗一は唐揚げ一つとって口に入れて、うっま、と声を上げる。


「ええ味やぁ」


 だろう、と悟は誇らしげに言う。


「いーいーじゃーん。ほらほら、あーん、だよ。早川、ほら、お口あけて」

「嫌だ」

「もう、恥ずかしがり屋さんだなぁ。プチトマト好きなんでしょ、だからタッパーいっぱい持ってきたのに」

「知らん。夏場に弁当生野菜は危険だし。特にプチトマトは葉っぱとってないと菌湧くんだよ、覚えてとけよ」

「へー、知らんかった。これ可愛いのに」

「そういうとこ、かわいいとかでふわっと判断したら痛い目見るの。かわいいに弱すぎだよ花川」

「あー、そうかー。ちいかわの世界も実は厳しいもんね」


 廊下側の一番後ろの席で弁当を食べている早川と花川のカップルはいつも賑やかだ。人見知りでおとなしい早川と、明るく誰にでも話しかける花川は付き合ってるのが不思議と感じるほど正反対だ。

 側から見たら自分たちもそうなんだろうな、と悟は考える。


「ごちそうさまでした」


 悟は弁当の蓋を閉めて、先に食べ終えている宗一の顔を見る。

 宗一は垂れ目だがバスケの時は目がキリっとなる。いつもほんやりしてた顔わかりづらいが一重の切長の目に大きくて高い鼻で顔立ち整っている。


「宗一。俺とおまえが付き合っていることで、一つ問題があります」


 宗一がぐっと眉間に皺を寄せた。


「えっ、俺、なんかやらかした?」


「おまえと歩いて話していると、首が疲れる。おまえ187㎝、俺、170㎝。首が疲れるんだよ。それで昨日寝違えて、首痛い。どうしよう。ちゃんと顔見て話したいのに」


 悟は痛めている左の首筋に手を当てて言った。

 悟は痛みに敏感だ。体のどこか一つでもあったら、気になって授業にも集中できない。


「宗一、おまえこれからもデカくなるだろう。俺は高一か伸びてない。身長差ってけっこう不便だな」


「んーーーえーーーそれは…………俺が屈めばいいのか?」


 宗一が頭に両手を乗せて言う。


「それは不自然だろう」


「じゃあ、こうしよう。悟が鏡を持って、そんで鏡に映った俺を見るとか」


「よし、じゃあ立ってみろ」


 悟は立ち上がってスマホをインカメにして手にもつ。

 宗一が隣にたつが、宗一の顔はそこ映らない。


「無理だろう。これが鏡だとしても無理だ。なぜその発想になった。鏡を持って歩いてるとか俺がナルシストみたいだろうが」


「そうでした。ごめん、適当に思いついたこと言った。じゃあ、俺が悟をお姫様抱っこして歩く。そうしたら顔近い」


「おまえ、それ本気で言ってるのか」


「ごめん、本気ではない」


「よかった。それが名案だとか言われたらどうしようかと思った。だから、歩いてる時は重要な話は避けて欲しい。そういうのは顔見て話したいから」


「わかった。でも見たい時はおまえの顔を覗き込むのは、アリかナシで言うとどうですか?」


 悟は腕を組んで考え込む。自分が歩いていて、急に宗一が顔を覗き込んでくるのを想像する。


「だめだ、それはなんかその…………ときめく」


「ヤダァ」


 宗一が両手に手を当てて甲高い声で言う。


「ヒャーーーパン屋のおばちゃんのきまぐれカレー、辛かった。おばちゃん機嫌悪かったのかな」

「いや、むしろ絶好調なんじゃない?」

「じゃあ逆に甘口だとテンション低いのか」


 小倉たちが教室に帰ってきた。


「あ、おかえり。駒田、いつも椅子貸してくれてありがとうな」


 悟はさっと弁当箱を持ってそそくさ一組からでた。


 急に顔なんか覗き込まれたら、キスされるかも思うだろう。

 いつも見上げてるこっちの気持ち、少しは理解しろよ。


 インカメにした時、咄嗟に撮影ボタンを押した。隣に立っている宗一。少しも身構えていない素の顔でじっゃかんあごが出て写りがよくないのに、その一枚をじっと授業が始まるまで、悟は見ていた。



 

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