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抗争は避けられない④

 市目鯖(しめさば)高校の校庭では、リオ the チェーンソーと鯨川(くじらかわ)、アユナ、ブラックバス鱒野(ますの)の戦いが始まろうとしていた。両陣営とも向かい合い、メンチを切る。



「市目鯖高校の制服……お前が浜栗(はまぐり) ミキホか?」


 

 アユナの問いかけに、リオは「|No, I'm not.(ちげーよマヌケ)」と、バカにするようにゆっくりと答えた。その挑発的な口ぶりを受け、アユナの眉間のシワが深くなる。



「コイツはウチが殺すわぁ。鯨川の兄貴と鱒野は手を出すなよ」



 アユナはそう言うと、リオのほうへ歩を進める。鯨川が「おい」と止めようとするが、アユナは言うことを聞かない。



「待て、アユナ。そのチェーンソー女子がキモロン毛を()ったヤツかもしれねぇ。単独で戦うのは危険だ」



 鯨川の言葉は至極真っ当である。しかし、リオの挑発に乗ってしまったアユナは、やはり聞く耳を持たない。「うるせぇっすよ」と、鯨川の制止を一蹴する。


 感情的に行動する人間がいると、その周りの人々は冷静になるもの。リオの背後で、死を覚悟するほど追い詰められていた蟹沢が落ち着きを取り戻した。そして目の前にいる女子高生が、ミキホが事前に「死軍鶏組(ししゃもぐみ)以上に警戒しろ」と言っていたリオ the チェーンソーだと悟る。彼女が現れた場合にするべきことは一つ。その戦いに巻き込まれないよう行動すること。蟹沢は、動ける組員に指示を出し、負傷した者を運びながらリオから大きく距離をとった。


 後方で動く浜栗組(はまぐりぐみ)には目もくれず、リオはアユナを見据えて挑発を続ける。



「一番弱そうなヤツが最初の相手か。前菜ってわけだ」



 アメリカ、そして南米でならず者どもと戦いの日々を送っていたリオは知っている。怒りに任せて行動する人間は、煽れば煽るほど、手の内を簡単に晒すことを。リオがチェーンソー留学で身につけた戦闘スキルは身体的なものだけではない。心を揺さぶる言葉の駆け引きも、習得したテクニックの一つである。


 戦いに自信があるからこそ真っ先に、単独でリオと戦おうとしているアユナ。そんな彼女にとって「弱そう」と言われるのは、屈辱の極み。アユナの頭の中でリオは、つい数秒前まで「何だか気に食わない相手」程度の認識だったが、「絶対に息の根をとめるべきムカつく相手」へとグレードアップしていた。リオの誘導に、完全にかかってしまっている。



「バーベキューにしてやるよ」



 アユナは足を止め、思い切り息を吸い込む。そして、リオに向けて空気を吐き出した。「人間火炎放射器」とでも評すべき、アユナの火炎の息吹。彼女の前方十メートルほど先まで火の高波が襲い、一瞬にしてリオの全身を包んだ。


 肉が焼けるどころか、蒸発してしまいそうな豪炎。改造手術により超人となったアユナが、瞬間的に出せる最高火力である。まず生き残れる人間はいないだろう。相手がただの人間ならば。


 猛火を裂いて中からリオが現れ、アユナに一直線に突っ込む。



「炎を斬れば焼けることはない」



 アユナの息吹により高まった熱を冷ますような一言を言い放つリオ。そしてチェーンソーを左斜め下から右上に振り抜き、アユナの首を切断する。頸動脈から噴き出した血がジェットエンジンのごとく、アユナの頭を数メートル上空へと飛び上がらせた。


 司令塔となる頭が切り離されたアユナの体は、人形のように力無く崩れ落ちる。ピクリとも動くことはない。


 チェーンソーを二回振り、刃に付着した血を払うリオ。そして、刃の先端を鯨川とブラックバス鱒野のほうへ向ける。



「さて……次はどっちが死ぬのかなぁ? 選ばせてやるぜぇ」



−−−−−−−−−−



 校庭から見て、校舎を挟んで裏手に当たる中庭。鮟西(あんざい) ミナトとクマムシが並んで歩く。まるで市目鯖高校の生徒であるかのように悠然と、昇降口から校舎の中へと入った。



「あの三人が浜栗組を引きつけてくれています。が、そこに全戦力を投入するほど、浜栗 ミキホもアホではないでしょう。自分は身を潜め、すぐ近くに何人か護衛を置いているはず」



 鮟西の分析を聞きながら、クマムシは頷く。



「僕たちはミキホを探し、校舎内を回ります。もし浜栗組の連中と出くわしたら、その始末はクマムシさんにお願いしても良いですか?」


「ああ。俺はミキホよりも、古参の組員どもを殺したい」


「ありがとうございます。バンバン殺しちゃってください」


「言われなくとも」



 ニヤつきながら歩く二人の正面。廊下の突き当たりから、浜栗組の組員が顔を出す。組員は二人を見るなり、スーツのジャケットから拳銃を取り出して射撃を始めた。飛来する銃弾を、その身で受けるクマムシ。不死身の彼は、銃弾を何発食らっても死ぬことはない。クマムシの隣で鮟西は右半身を引き、銃弾を全てかわす。


 拳銃が空になったと同時にクマムシが走り出し、左腰にぶら下げていたサバイバルナイフを(さや)から引き抜く。組員が弾倉を交換している隙に、ナイフを鳩尾に五回突き刺した。拳銃を落とし、口から血を吐きながら倒れる組員。


 クマムシの殺しの手際を見て、鮟西は拍手を送る。



「見事ですね。一切のためらいがない……その男、知り合いでした?」



 クマムシはうつ伏せに倒れる組員の頭を右足で小突き、顔を確認する。



「……俺が入る少し前から浜栗組にいたヤツだ。一応、兄貴分だったが……癪にさわる野郎だったよ」


「じゃあ早速当たりですね」


「運が良い。それより鮟西よぉ。お前、さっき銃弾を全部かわしてやがったな。どうやった?」


「銃口の向きから弾が飛ぶ方向を予想して、射線を避けるんです。幼い頃からそういう訓練をしてきました」


「俺にも教えろよ」


「一朝一夕でできることではありません。それに、クマムシさんは不死身なんだから、避ける必要ないじゃないですか」


「死なないけど痛いんだよ。できれば喰らいたくねぇ」



 クマムシの言葉の直後、銃声を聞きつけた組員が四人、廊下に現れる。それぞれが手に持つ拳銃を見て、クマムシは「また痛い思いしなきゃならねぇのかよ」とつぶやいた。

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