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第6話『ホンマ不器用な男だな』

ヒナちゃんねる特別企画の四日目。


毎日大物ゲストを呼ぶという企画だが、今日はなんと二日連続で佐々木とその彼女が登場する。


そして、さらには彼女のお姉さんも登場するとか何とか。


そのお姉さんは大野の奥さんで、おそらく佐々木が彼女を妊娠させた件で来るとか何とか。


これは、修羅場の予感である。


俺は冷蔵庫からビール缶を二つ持ってきて、配信に備えた。


そして、さほど待たずにいよいよ配信が始まる。


「やぁやぁ! はじまりましたーヒナちゃんねる。今夜は何が起きるのか! 右から、和樹君! 紗理奈ちゃん!! そしてー左には加奈子お姉ちゃんと、オマケだー!! そしてそれを見守るのは私とお兄ちゃんでございます。ではまずお兄ちゃんから一言! どぞ!」


「怪我をしない程度に話し合いをしよう」


「との事でした!」


【なんで暴力前提なんだ】


【そら既にキレてる人が居るからだろ】


【こうして並ぶと本当に似てないな】


【まぁ双子じゃなければ、そこまで似ないよ】


「さて、こんな場所で話すつもりは無かったけど。佐々木君。話を聞かせてもらえる?」


「それは」


「別に話す事は何もないよ。これは私と和樹の問題だもん」


【それはそう】


【いやいや、お姉ちゃんは心配なんだろ。まだ若いんだしさ】


【言うて一歳差しか無いだろ】


「そういう訳にはいかないでしょ」


「いくよ。だって私、和樹と結婚するから、問題だって何もないよ。和樹もそうしようって言ってくれたもん」


「佐々木君は忙しい時期なんだよ? 紗理奈一人で育てられるの?」


「朝陽さんが手伝ってくれるって言ってた」


「……でも、朝陽さんにいつまでも頼ってるのは、良くないんじゃない?」


「朝陽さんはお姉ちゃんだけのお母さんじゃないでしょ。何でそんな事お姉ちゃんが決めるの?」


「それは」


「私はずっと、ずっと幸せの夢を追いかけてたの。だから、後悔はしたくない」


「紗理奈……」


【思っていたのと違う空気やな】


【ウチの妹を傷つけやがって! この野郎! バコッ! みたいなのを想像してたわ。始まったら何も口出しできない空気で笑う】


【何笑ってんねん】


【いや、もう笑うしかないだろ。こんな空気】


【まぁ、ガチガチの修羅場だし】


【どうしてこうなった!】


「佐々木」


「なんですか? 大野先輩」


「敬語は止めろ。何だか鳥肌が立つ」


「そう? じゃあ、何? 大野先輩」


「一つお前に大事な話がある」


「うん」


「結婚式の時に新郎の挨拶って奴があるが、かなり緊張するから気を付けろ」


「いや、僕の方が話すの慣れてるから。あんな無様なスピーチはしないよ」


「なに!?」


「大野先輩のお母さん大分恥ずかしそうにしてたからね? よく反省した方が良いよ」


「ほー! じゃあお前の時は凄いスピーチが出来るって言うんだな!?」


「当然でしょ。大野先輩じゃないんだから」


「よく言った! じゃあ酷いスピーチだったら後から散々言ってやるからな!」


「お好きにどうぞ。まぁ大野先輩の語彙力じゃあ難しいと思うけど」


【突然謎の助言から修羅場が始まったぞ!】


【いや修羅場っていうか小学生同士の喧嘩というか】


【さっきまでの空気から一気に和やかな空気になってて凄い。大野やるじゃん】


【多分何も考えてないゾ】


「……はぁ。まったく晄弘くんはまったくだね」


「なんだ? 何かおかしな事言ったか?」


「おかしくないとは言えないけど、まぁいいや。紗理奈」


「……なぁに?」


「無理はしないでね」


「うん」


「なら、いい。私から言う事は何もないよ」


「……うん。ごめんねお姉ちゃん」


「謝らないでよ。紗理奈が悪い事なんて、何も無いんだからさ」


「そうだな。加奈子はただ相談して貰えなくて寂しかっただけだもんな」


「ちょっ、晄弘くん!」


「だから気にしなくて良いぞ。紗理奈」


「ちょっと黙って! 晄弘くん!!」


「おーおー。揺れる揺れる」


【大野って本当に空気読まないよな】


【読めないの間違いでは?】


【でも姉妹のわだかまりみたいのは完全に無くなってるじゃん。これは大野のお陰ですね】


【大野のお陰って言われるとなんかこう釈然としないものを感じるんだが】


「双方言いたい事は言えたかな? じゃあこれで、仲良しこよし! 一件落着!」


「うん。そうだね。ごめんね。紗理奈。何だか大事にしちゃって。佐々木君も」


「ううん。私は気にしてないよ」


「そうですね。加奈子さんには正式に挨拶に行くべきでした。申し訳ないです」


「いやっ! 全然気にしないで! 私なんて、姉らしい事なんて何も出来てないんだから」


「そうだなぁ。加奈子はお姉ちゃんって感じじゃないもんなぁ」


「ちょっと! 晄弘くんには言ってないよ。お口チャック!」


「ぐいー」


【なんだ大野、そのポーズは】


【口にチャックをしたイメージだろ】


【挑発してんのかと思ったわ】


【しかし大野、尻に敷かれてんだな】


【まぁ奥さん居なきゃ何も言葉通じないし、明日死んでるかもわからんって本人が言ってるからな】


【ホンマ不器用な男だな】


【野球しか器用じゃないからな。まぁそういう所が格好いい訳だが】


「でも、加奈子さんが心配なら向こうに行かず、残りますか?」


「おい、佐々木」


「あ。それ良いね! 良いじゃん良いじゃん! 家なら用意するよ! ね? こっちで暮らそうよ。加奈子お姉ちゃん!」


「え、えぇー? それはちょっと」


「ハッキリ言ってやれ加奈子。無理だって。何なら紗理奈が向こうに来れば良いだろう。二十四時間体制で医者と看護師を雇えば完璧だ。何なら朝陽さんたちも呼んでも良いし。光佑も来れば良い」


「おいこら大野―! 私の提案を無視するな!」


「やかましい妹だな。お前と佐々木はこっちでやる事があるんだろう? なら残れば良い。向こうは良いぞ。ハンバーガーも旨いし。新作だってこっちじゃ売ってないけど、一度食べたら忘れられない味だぞ」


「ちょっと晄弘くん? ハンバーガーが美味しかったってどういう事? 最近食べてないはずだよね」


「お口チャック中」


「何だんまりしてんの!? またモリスさんと食べに行ったんじゃないでしょうね?」


「……いや、気のせいじゃないか?」


「そう。言わないつもり。じゃあ良いよ。調べるから。今のうちに言った方が罪は軽くなるけどね」


「分かった。素直に言おう。食べに行った」


「いつ」


「一ヵ月前の、その、十七日」


「やっぱりそうだったんだ。あの日ご飯殆ど食べなかったもんね!? おかしいなぁって思ってたけど、やっぱりそういう事だったって訳!?」


「いや、その……店の前を通った時に、旨そうでな、衝動が抑えられなかったんだ」


「で。私のご飯より優先したんだ」


「いや、その……ごめんなさい」


「連絡くれればさ。用意しなくても良かったのに、何も言わないから、私待ってたんだよ? 用意して。でも、晄弘くんはモリスさんと一緒にハンバーガー食べる方が良かったんだ! モリスさんと食べたハンバーガーはさぞ美味しかったでしょうね! そんなに好きならモリスさんと結婚して、ハンバーガー食べて生きていけば良いでしょ!」


「本当にすまなかった。加奈子。ごめん。今度はちゃんと連絡するから」


「本当に?」


「あぁ」


「じゃあ、私の料理とハンバーガー。どっちが美味しかった?」


「……それは……加奈子に決まってるだろ」


「今迷ったよね? なんで?」


「いや、別に加奈子の料理が旨くない訳じゃ無いんだが、こう、大衆的じゃないというか。独特というか。まぁ、なんだ? やっぱり俺が作った方が良いんじゃないか?」


「私の料理は不味いって事?」


「そういう訳じゃないが、その、な?」


「やっぱり不味いんだ」


「……加奈子?」


「分かった。分かったよ。紗理奈!」


「うん」


「料理教えて。体調良い時だけで良いから」


「うん。良いよ」


「短い時間しか使えないけど、晄弘くんをアッと言わせる料理作るから」


「……そっか、それなら。うん。ちょうど良いかな」


「紗理奈?」


「うん。私も配信に興味があったし。ちょうどいいや」


「あぁ、前に言ってた奴?」


「うん。良いかな。和樹」


「勿論。僕は協力するよ」


「ありがとう」


【なんだなんだ?】


【大野夫婦が喧嘩始めたかと思えば、今度は佐々木夫婦が二人にしか分からない話をしている!】


【いや、わかるだろ】


【マジ?】


【天才かよ】


【夫婦で内緒の話をしてるじゃん】


【無 能】


【二度と口を開くな。コメント打つな】


【辛辣過ぎて笑う】

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