第4話『おやおや。いきなりコメントが元気だねぇ。じゃあすぐ呼ぼうか』
特別企画という事でいつもは一週間に一度の配信を行っているヒナちゃんねるが連日の放送となった。
そして今日はその三日目だ。
この連日放送は毎回必ずゲストを招いて行われるのだが、その発表は前日という事で、皆いったい誰が来るのかと予想しながら大騒ぎだ。
ちなみに初日の配信は野球選手として世界的にも有名な大野晄弘とその奥さん。
二日目の配信は国内トップクラスの有名俳優である山瀬佳織。
そして三日目となる今夜の発表は昨日の配信で行われたのだが、まぁまぁコメントは荒れた。
いや、荒れたと言っても悪い意味じゃない。当然良い意味でだ。
そう。誰もが知りたいと感じていながらも、その存在を名前でしか知らなかったのだ。
だから彼女を見る事が出来るというのは、彼のファンにとって大ニュースに間違いなかったのだ。
「ばんちー。ヒナちゃんねるはっじまるよー」
【来たか!】
【今日は視聴者数多いな】
【下手すると大野の時より多くなるんじゃね?】
【ライバル対決勝利か。涙が止まりませんよ】
【いや、別に佐々木だからではなく、例の『サリナ』が原因だろ】
【『サリナ』が実在したという事で、佐々木の追っかけしてた女ファンは発狂してるらしいな】
【女だけじゃないぞ。脳内彼女という残念な生態を持っていると勝手に共感してた男共も発狂してるぞ】
【笑った】
「おやおや。いきなりコメントが元気だねぇ。じゃあすぐ呼ぼうか。ゲストのお二人、どうぞー!」
「やぁ! 佐々木和樹だよ。はじめましての人もいるかな。銀河最強のピッチャー佐々木って覚えてくれれば良いよ。ところで今日は僕の紗理奈と一緒に来た訳だけど、どう? この子が紗理奈。可愛いでしょ? でもまぁ、僕の大切な人だから、手を出そうなんて考えない方が良いよ」
【開幕うるさい】
【い つ も の】
【お前は知ってるからさっさとその『サリナ』を紹介しろ!】
「しょうがないなぁ。紗理奈。自分で言う? それとも僕が話す?」
「……じ、自分で、言うよ」
「そっか。じゃあ、頑張れ」
「うん。えっと、はじめまして。紗理奈です。えっと、大学で色々勉強して、今は夕焼けの里っていうレストランで働いてます。お料理の師匠と、その師匠がいて、私はお料理の事を教えてもらいながら、給仕をしてます。是非お店にも来てください」
【かわE】
【さて、予約してくるか】
【だからお前はマンモーニなんだ。俺たちは素人じゃねぇ。予約してくるなんて言わねぇー! 予約したッ! なら使っていい!!】
【兄貴! 流石だぜ兄貴!】
【何のプロやねん。てか予約出来ねぇ。ヒナちゃんねるの効果凄すぎだろ。もう埋まったんか?】
【前からだぞ。夕焼けの里って店、滅茶苦茶有名だから】
【聞いたことねぇけど。ホントに有名なんか?】
【お前が知らないだけだろ】
【これが無知を誇る無能の姿ですか】
【いや、どこの界隈で有名なんだよ。マジで知らないんだが】
【マウント取るだけの無能は消えろ。夕焼けの里ってのは、伝説の料理人『鳴村清』の店だよ。そんで、『河合風香』が居る店でもある】
【河合風香は聞いたことあるわ。なんかテレビに出てたな】
【炎上芸人じゃなかったのか】
【人格破綻系天才料理人だぞ】
【飯は旨いが、人格は終わってるって噂の河合風香か。てか師匠とか居たんか! 自分の道だけが正しいって信じてるタイプだと思ってたわ】
「だって。風香ちゃんの同級生として、どう思いますか!? お兄ちゃん!」
「急に振ってくるね。陽菜。こんばんは。立花光佑です。河合とは確かに同級生だけど、そんなに詳しくは無いよ。俺より同じ部活だった紗理奈ちゃんの方が詳しいんじゃないかな」
「師匠は良い人ですよ」
【いい、ひと……?】
【あれ? 今誰の話してるんだっけ。河合風香の話じゃないって事は分かるんだけど】
「あ。師匠は、風香さんです。料理が上手くて、優しくて、明るくて、憧れの人なんです」
「河合に憧れるのは止めよう。紗理奈ちゃん」
【立花必死で笑う】
【そらそうだろ。誰が好き好んで、河合風香を目標にしてる純粋っぽい子を見捨てようと思うんだ。人の心があれば当然止める】
【この言われ様である】
【てか、佐々木は良いんか? あれだけ独占欲丸出しなのに、今お前の紗理奈ちゃんが立花に急接近だぞ】
【数秒後には奪われてそう】
「あー。そういえば、知らないんでしたっけ。紗理奈。光佑さん」
「何の話?」
「あぁ、紗理奈ちゃんが俺の妹だよって話じゃない?」
【はぁぁぁああああああ!?】
【衝撃の新事実ってレベルじゃねぇぞ!!】
【サラっと口にする話ではない】
「まだ知らない人って居たんだー。おもしろー」
【せやな】
【陽菜ちゃんファンの中では有名な話だぞ】
【立花ファンの中でも有名だぞ】
【まぁ言うて、未だに立花家については謎に包まれてるんですけど】
【しょうがないね】
「紗理奈ちゃんと加奈子お姉ちゃんはお兄ちゃんの妹で、もう一人妹が居るんだよ」
【陽菜ちゃんだろ? 何を他人みたいに言ってるんだ】
「いやいや。名前は言えないけど、私じゃないよ。そもそも私、妹って言ってるけどお兄ちゃんの家に預けられてたってだけで本当の妹じゃないからね」
【ふぁっ!?】
【確か本当の母親は夢咲里菜だっけ。デザイナーの】
「そ。父親はわっかりませーん。まぁ別に欲しいなって思った事無いけど」
「陽菜ちゃん」
「んー? どうしたの? 紗理奈ちゃん」
「私は陽菜ちゃんの事、家族だと思ってるよ。和樹もそう思ってる」
「紗理奈ちゃん! 佐々木! 大好き!」
「照れるな。今度またお土産買っていくね」
「いえーい! 佐々木はお土産のセンス良いから好きー」
「あ。そういえば陽菜ちゃん。そろそろ駄目かも」
「なにがー?」
「私も佐々木になるから。和樹の事は和樹って呼んであげて」
「そっかー。じゃあ盛大にお祝いしないとね」
【はぁぁああああああ!??】
【本日二度目の衝撃】
【サラっと言ったけど、マジか。マジか……!】
【佐々木、お前だけは裏切らないって信じてたのに! こんな可愛い子と結婚とか、くっそ!】
【まだ早いだろ! もっと自立した大人になってからだな】
【オジサン。佐々木の稼ぎ。もうアンタ超えてるから】
【素直に祝福出来んのか】
【佐々木の結婚相手はもっとこう誠実そうで、一途な感じの子が良かった。佐々木が派手だし。地味な感じの】
【お前の妄想ぶつけんなよ。気持ちわりぃな。紗理奈ちゃん良いじゃん。話してた感じ良い子だし。俺は祝福してるぞ!!】
【あれ? おかしいな。この配信お金投げられないんですけど】
「そういう機能はカットしてるよ」
【なんて、ことだ!!】
【祝い金を投げられないとは! この気持ちをどうすれば良いんだ!】
【いやーでもまだ早いと思うんだよなぁ。若いしさ。選択肢はまだ色々あるだろ】
【男は三十代でも良いくらいだぞ】
【しつこいオッサンだな。まだ居たのか】
【台所の油汚れみたいな奴ら】
「まだ、結婚は早いって……どうしようか。和樹。この子、私一人で育てた方が良い?」
「そういう訳にいかないでしょ。お金もあるし。朝陽さんや幸太郎さん、ウチの両親だって協力してくれるって言ってるし。大丈夫」
【……?】
【ちょっと頭が追い付かないんだけど】
【奇遇だな。俺もだ】
【この会話から察するに、デキ婚という奴では】
【佐々木ィ!!】
【この美少女とヤッたんか。佐々木!】
【そら結婚を前提に付き合ってるんだからそういう事もあるだろ。何興奮してんだ】
【今回は大分コメント欄にキモイのが湧いてんな】
【当人同士の問題でしかないのに、何興奮してんだコイツ等】
【嫉妬とか色々あるんじゃないの?】
「んー? あり。電話だ。ちょっとみんなで話しててねー」
【本番中ですけど】
【陽菜ちゃんは自由人だからね。仕方ないね】
【誰も止めないの面白い】
【しかも画面内で電話してんのカオスだろ。外でやれよ】
【まぁ陽菜ちゃんやし】
「た、たたた大変だよ! 和樹君!」
「どうしたの? 陽菜ちゃん!」
「紗理奈ちゃんの件で話があるって加奈子お姉ちゃんが! 何か、凄い怒ってた!!」
「……」
「あー、でもちょうどいいや! 明日のゲストは加奈子お姉ちゃんと、和樹君! 紗理奈ちゃんでお送りするよ! じゃあ今日はちょっと早いけど、この辺で。ばいばーい!」
【ちょ】
【唐突なエンディングで笑う】
【自由人ここに極まれり】
【最後なんて佐々木固まったままだったけど】
【加奈子お姉ちゃんって、紗理奈ちゃんのお姉ちゃんだろ。話があるって確実に今回の件だろ】
【お姉ちゃん知らなかったのか】
【まぁ海外で生活してるしな】
【明日は修羅場か。楽しみになってきたゾ】
【最低過ぎだろ】
【人の不幸は蜜の味だからね。仕方ないね】