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第3話『はい。今日は来てくださってありがとうございましたー』

待ちに待った日が来たと言っても過言では無いだろう。


俺はヒナちゃんねるが始まる前から、配信画面を開き待機していた。


そして今日の配信を楽しみにしているのは俺だけじゃないらしく、まだ配信開始には早いというのに、既に多くの人が待機している様だった。


まぁ当然だろう。


何せ今日は、特別なゲストがヒナちゃんねるに来るのだから。


【うぉぉおおお。待機待機】


【楽しみすぎて夜と朝と昼しか寝てねぇ!】


【働け】


【そろそろか?】


【あ、画面がかわ】


【キターーーーーー!!】


画面が切り替わった瞬間にコメントが今までにないほど盛り上がり、急流の川の様に流れてゆく。


そして、俺もコメントこそ打たないが、テンションを上げ、画面に注目した。


『どもどもー。陽菜ちゃんだよー! じゃあ今日も週末のヒナちゃんねる。やっていこうかー。と、その前にー。今日のゲストを紹介していこうかなー。ゲストは、この人! 私の、大大大大好きなお姉ちゃんでーす!!』


『あ、私から紹介なのね。大野加奈子です。本日はよろしくお願いいたします』


『もう! お姉ちゃんってば固いなぁ! もっとリラックスしてよー』


『いや、私、テレビとか慣れてないから。ごめんね。陽菜ちゃん』


『ううん! ぜーんぜん気にしてないよっ!』


『じゃあ私はそろそろ終わりにして、ね。もう一人、紹介する人。居るでしょ?』


『そうだね。じゃあ呼ぼうか! お兄ちゃーん』


『あれ。ここで俺なの?』


『そう。お兄ちゃん。そして今日はこの三人でやっていきまーす』


【おい】


【一番大事な人間忘れてんぞ!】


【陽菜ちゃんさーん? もう一人紹介する人居るよねー?】


どうやら三人もコメントが見えているらしく、こちらを見ながら、頷く。


いや、陽菜ちゃんは頷いていない……どころか顔を逸らしている。


『こら。陽菜。ちゃんとやらないと駄目だろう?』


『ぷぇー。はぁーい。じゃあ、特に呼んで無いですけどー。大野とかいう人ー。来てくださーい』


【やる気がないなって笑う】


【扱いヤバすぎだろ】


【また番組終わったら炎上するんだろうなぁ】


『どうも。大野晄弘です。趣味で野球やってます』


そんな軽い口調と共に画面外から登場した大野は、奥さんの横に座り、いつもの何を考えているのか分からない顔で頭を下げた。


しかしこうして見ると、デカい。


奥さんより頭一個分くらいデカいんじゃないだろうか。


『はい。今日は来てくださってありがとうございましたー』


『いや』


『もう晄弘くん。いや。じゃないでしょ』


『とは言ってもな。特に話す事も無いし』


『じゃあ帰って良いですよー。バイバーイ』


『そう言うなら、行くか。加奈子。光佑』


『コラー!! お姉ちゃんとお兄ちゃんを連れて行くなー!』


『大丈夫だ。向こうに連れて行くだけだから』


『何も大丈夫じゃなーい!!』


【マズい! 何も無いと大野が帰るぞ! 何か質問をぶつけるんだ!!】


【い、いかん! そうだ。大野! どうやったら大野くらい早く投げられるんだ?】


『ほら晄弘。質問来てるぞ。まだゆっくりしていってくれ』


『そうだな。光佑がそう言うなら』


『晄弘くん。質問に答えないと。どうやったら早く投げられるのか。だって』


『早く投げる方法? なら、二百キロを出すつもりで投げれば早くなるよ』


【????】


【どういう事だ】


【まるで分からん。気合いって事か?】


【多分そういう事なんじゃないかと思うが】


【分からんが、次だ次!】


【えっと、じゃあ、どうして奥さんと結婚しようと思ったんだ!?】


『好きだったからだな』


【そらそうだろうけどさ】


【もっとエピソードを語れ!】


『え、エピソードとかは恥ずかしいし。言わなくても良いよ。晄弘くん』


『俺は聞きたいけどな。二人の話』


『ちょっと! 光佑君!』


『なら……話すか。結婚しようと思ったのは、高二のクリスマスの時だな。加奈子とイルミネーションを見に行って、そこで加奈子とずっと一緒に居たいなって思ったんだよ。ただ、まぁあの時は加奈子が光佑を好きだと思ってたから、フラれる気満々だったが』


『アハハ。加奈子ちゃんはずっと晄弘の事が好きだったよ。気づいてないのは晄弘くらいだろうね』


『信じがたい事ではあるがな。光佑と俺が居て、俺を選ぶなんて、さ』


『まだ信じられない?』


『それはない。光佑より俺の方が出来る事もいっぱいあるからな』


『ほー。気になるな! どんな事だ?』


『最近この配信を見ていて気付いたんだが、光佑。お前はゲームが下手だ!』


『うっ』


『その点俺はチームメイトとも対等以上に戦えている。俺の方が上だな』


『まだ直接対決した訳じゃ無いからね。やってみるまでは分からないぞ』


『ならやってみようじゃないか! 家に帰ったら勝負だ! 光佑!』


『あぁ、良いよ。やろうか!』


【今までにないほど饒舌な大野に開いた口が塞がらん】


【この人誰? 大野? マジ?】


【てか大野VS立花とか、それを配信でやれ! いや、これから毎秒配信しろ!】


【大野の印象変わるわ。マジで】


『ねぇねぇ。晄弘くん。なんかみんな晄弘くん見て驚いてるみたいだよ』


『ん? なんでだ?』


『多分普段は無口な癖に今だけペラペラ喋ってるからじゃないですかねー』


『ふーん』


【普段は饒舌な陽菜ちゃんが静かになってて、大野がペラペラとよく喋る。面白いな】


【しかしこうして見てると、陽菜ちゃんが大野を苦手にしてる理由がよく分かるな。大野立花が揃うと話に絡みづらいのか】


【まぁ二人は幼馴染だしな。言うてそれだと奥さんも二人と一緒に居ると辛いんじゃないかって思うが】


『なんでだ? 加奈子も昔っから一緒に居るし。辛くないと思うが、辛いのか? 加奈子?』


『ううん。私は二人を見てるのが昔から好きだからね。気にならないよ』


『あー。視聴者の人たちは知らないのか。俺と晄弘と加奈子ちゃんは小学校の低学年くらいからずっと一緒なんだよ。幼馴染って奴かな』


【マジ―!?】


【まぁ、知ってる人は知ってる情報だな】


【大野の結婚で世間が騒いだ時に、幼馴染でずっと支えてくれた人だったって言ってたもんな】


【そうか。大野と幼馴染なら立花とも幼馴染になるのか】


【小さい頃からずっと立花大野と一緒だったとか、前世でどんな徳を積んだんだ】


【う、羨ましすぎる】


【まぁでも大野の性格考えると、それくらい昔から一緒に居ないと厳しいんだろうな】


【そう考えると大野は幸運だったのか。いや、奥さんのがどう考えても幸運だが】


『んー? いやいや。幸運って話なら俺の方が加奈子の千倍は幸運だぞ。加奈子が俺を選んでくれなきゃ、今頃は一人で野垂れ死にしてたかもしれないからな』


『晄弘はコミュニケーション能力がなぁ。そろそろ言葉は覚えた?』


『キャッチボールをすれば誰とでも分かり合える』


『駄目そうだね。加奈子ちゃん。晄弘の事、どうか目を離さないでやって』


『そうだね。本当に。そう思う』


【ホンマにな】


【野球しか出来ない生き物大野】


【大野がもし、立花とか奥さんに出会わなかったらマジでどうなってたか分からんな。これは】


【そう言えば気になってたけどさ。大野は夢とかあるの?】


『あぁ、ある』


質問に対して短く答えた大野は反対側に座っている立花に視線を向けた。


そして、挑戦的に笑う。


『また、同じ場所で戦える日が来るのを、俺は待ってるよ』


『期待が重いな』


『そう言えば最近知ったんだが、生まれ変わりっていう物が世界にはあるらしい』


『へぇ』


『もしあの人が生まれ変わったとして、今の光佑を見たらどう思うかな』


『さて、分からないな。いっそ文句を言ってくれれば良いと思うけど』


『なら見つけて貰う為にも戻ってくる方が良いんじゃないか?』


『今ここでも十分に見つけて貰えるさ』


『今日も平行線か。俺の夢は叶わないらしい』


【なんのこっちゃ】


【今の分かった人おるんか?】


【さぁ?】


【大野語は難しい】


【微かに分かるのは立花とまた野球やりたいって事なんだろうけど、その他がサッパリ】


【そもそも立花が野球出来ないのは事故からの故障だろ? 生まれ変わりがどうこうってのはどういう事じゃ】


【分かれば大野語マスターよ】


『あー! もう! ツマンナイ! ツマンナイ! つーまーんなーい! 陽菜を放置して盛り上がらないで―!』


『今日も騒がしいな』


『陽菜ごめんな』


『さ。陽菜ちゃん。お兄ちゃんたちはお話してるからね。お姉ちゃんと話そうか』


『ヤダヤダヤダー! お兄ちゃんとお姉ちゃんは陽菜と一緒に居るんだから! 大野は帰れー!』


『断る』


『ムッキー! もう大野嫌い!!』


ずっと放置されていた陽菜ちゃんが暴れだした事により、番組は混乱していたが、コメント欄は実に楽しそうにコメントを流していた。


かくいう俺も、面白くなってきたとテンションを上げながら動向を見守るのだった。

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