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無限のゲーム - 絶望の先にある勝利』  作者: Marukuro Rafaella
第17章 日本最強のSランク、奈良匠
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支配者と創られし世界

巨大な城塞が彼らの前にそびえ立っていた。

この半壊した世界にあってなお、その壁は揺るぎない威圧感を放っている。


天空へと伸びる巨大な石板。

そこには正体不明の生物のレリーフが刻まれていた。


暗い金属で覆われた重厚な門。

その存在だけで侵入を拒むような気配を漂わせていた。


女は一歩前に出た。

迷いはない。


彼女は再び兜をかぶる。


鋼が顔を覆った瞬間――


紅い瞳が再び燃え上がった。


まるで内なる炎に照らされたかのように。


その時、砦の奥で何かが動き出した。


――ゴゴゴゴ…


重い機構が音を立てる。


そして、長年閉ざされていた門がゆっくりと開き始めた。


金属が軋む、不気味な音を響かせながら。


彼女は、静かにその手を離した。


「ついて来い」


彼女の声は冷たく、どこか遠いものになっていた。

先ほどまでの軽やかさは、もはや欠片もない。


今、彼の前に立つのは――


ただの女ではない。


戦士であり、この場所の支配者。

いや、この廃墟の女王と言ってもいいかもしれない。


タクミは彼女の背中をじっと睨んだ。


顔をしかめ、まるで何か酸っぱいものでも飲み込んだような表情を浮かべる。


――ぐぅぅぅ…


空腹が、またしても主張する。


思わずうめき声が出そうになった。


「なんて人生だよ、まったく…」


小声でぼやきながら、彼女の後を追う。

それでも、顔はひたすら飢えに歪んでいた。


彼の視線は、絶えず周囲を走る。


城内の様子を観察するうちに、彼はすぐに気づいた。


外とは違う。


ここには、無秩序な荒廃はない。

石畳の道が規則正しく敷かれ、整然とした列を成す松明が闇を照らしている。


この場所はただ存在しているのではない。


――この世界を支配している。


だが、そんなことよりも――


「…まあ、砦はカッコいいけどさ」


タクミは不満げに言った。


「飯はどこなんだよ?!」


女は振り向きもしなかった。


無言のまま、堂々とした足取りで歩みを進める。


広々とした廊下の壁には、戦場の光景、謎めいた生物、過去の英雄たちを描いたタペストリーが並んでいた。


タクミは足を引きずるようにしてついていく。


顔のしかめ方が、ますますひどくなっていた。


「なあ…おい…」


ついに我慢できず、呻くように言葉を吐き出す。


「お前さ、めちゃくちゃ大事な質問をスルーしてないか?!」


腹を押さえながら、必死に訴えた。


もう、限界だ。


「飯はどこだ?!」


その瞬間――


女は足を止めた。


目の前にあるのは、巨大な扉。


そこには二本の交差する剣と、炎の螺旋を描いた紋章が刻まれている。


「すぐだ」


そう呟くと、彼女は扉を押し開いた。


視界が一気に開ける。


そこに広がっていたのは、壮大な大広間。


高くそびえる柱が、天井の闇へと消えていく。


長テーブルの上には、黒紅の布がかけられ――


その上には、山のような料理が並んでいた。


焼き上げられた肉の大皿。

香ばしいパンが詰まった籠。

見たこともない異国の果物。


そして、金の杯に注がれた、湯気を立てる不思議な飲み物。


タクミの目が、輝いた。


タクミは動きを止めた。


そして、もう一度彼女を見て――


次に、料理の山を見た。


……次の瞬間。


何も言わず、一気に駆け出した。


「救いが来たァァァ!!!」


ほぼ泣きそうな声で叫びながら、手当たり次第に料理を掴む。


女は腕を組み、静かに微笑んだ。


「ようこそ、私の城へ……タクミ殿」


そんなことなど気にする様子もなく、タクミはすでに口いっぱいに肉を詰め込んでいた。


飢えた獣のように、両手で次々と食べ物をかき込んでいく。


まるで、長い飢餓の冬を生き延びた者のように。


「な、何だこれ?! めちゃくちゃ美味いぞ!!!」


興奮しながら叫び、金の杯を手に取ると、そのまま熱々の飲み物を一気に喉へ流し込む。


「飲み物まで……神の味がするだと?!」


女は無言で彼を見つめていた。


鋼のヘルムの奥で、赤い瞳が僅かに光る。


「――よほどまともな食事をしていなかったようだな」


「ただ久しぶりってだけじゃない! 俺、もう自分のマナで食うことになるんじゃないかって思ってたんだぞ!」


タクミは肉を掴みながら、まるで宝物のように抱え込んだ。


「ちくしょう、てめぇ、誰なんだよ、ほんとに?」


女は黙ってヘルムを外し、長く灰色の髪を肩に流した。


「私はエリザ・フォン・ドラクセン。言った通り、この世界の一つの領主だ」


タクミは手に持ったパンを口に運ぶのを止めた。


「フォン・ドラクセン? 何それ? ファンタジーみたいな称号だな?」


エリザは微笑んだ。


「君は、もう何度も異常に出会ってきたんだろ?」


タクミは眉をひそめた。


「ということは……俺たち、普通のダンジョンにはいないってことか?」


エリザは静かに頷いた。


「この世界は……」


彼女の声がわずかに低くなる。


「ただのダンジョンじゃない。自分自身で存在する場所よ」


タクミは口に入れていた食べ物を飲み込み、さらに深く眉をひそめた。


「つまり……これはシステムが作った一時的なゾーンじゃないってことか?」


「その通り。この世界には命がある。歴史があり、法則があり、伝説もある。そして――」


彼女の唇が軽く弧を描き、ほほえんだ。


「今、君はその一部だ」


タクミはカップをテーブルに置き、深く息を吸った。


「くそ……普通の狩りとは全然違うな」


「それに、さっきの話をして泣いていた頃とは全然違う感じだな」


タクミは少し思案し、続けた。


「今は、もっと威厳があるというか……」


エリザは静かに首をかしげ、ろうそくの光の中で赤い瞳がきらりと光った。


「君はまるで、私が二人の人間のように言うんだね」

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