「世界最強の誕生」
運命の眼 — Sランク覚醒
タクミが一歩踏み入れた瞬間、空気が緊張感を帯びた。
広大なホールは、まるで古代の神殿のようだ。青白い光が溢れ、中央には巨大なプラットフォームの上に浮かぶ運命の眼があった。
世界が変わったとき、各国の政府はすぐに対応しなければならなかった。
モンスターが現れ、人々が覚醒し始めた。
だが、普通の戦士と歩く災厄をどう区別する?
その答えが、「運命の眼」プロジェクトだった。
魔法の核と繋がったスーパーコンピュータ。
生体データ、オーラ、エネルギーの波動を使って、個々の力を評価し、ランクを決定できる。
だが、問題があった。
技術は人間によって作られたが、ランク付けのアルゴリズムは自ら変化し始めた。
最初は戦闘能力を基準にランクが決まったが、次第にシステムは未知の要素を考慮し始めた。
「隠れた潜在能力」
「現実世界への脅威」
「異常な存在」
一部のプレイヤーはテストを二度受け、異なるランクを得ることがあった。
そして、他の者は… システムを破壊していた。
そして、今、彼の前に立つのはタクミ・ナラ。
だが、彼一人ではなかった。
壁際には人々が立っていた。この国で最強のハンターたち。
何人かは順番を待ち、他の者は腕を組んで見守っていた。
その中には、初心者でも名前を知っている有名なSランクもいた。
— 見てみろ、新入りが来たぜ。
— なんだか、妙に冷静じゃないか?
— ドラゴンを数匹倒したくらいで、大したことないだろ。
— 今度は、その自尊心が数字で潰されるのを見られるかな?
皮肉な冗談が飛び交うが、そこには憎しみはなかった。むしろ、楽しんでいる様子。
ここでは、強者たちの中で、弱者は尊敬されることはない。
タクミは何も言わずにプラットフォームに向かって歩き出した。
スーツを着た男が頷く。
— 手を置け。
その瞬間、指先が冷たい石に触れたとたん、運命の眼が目を覚ました。
ホールは光の閃光で照らされた。隅々で暗闇が震えた。そして、始まった。
囁きが空気を裂いた。まるで千の声が一度に話し始め、反響しながら広がっていくようだった。
轟音。
光の渦。
現実そのものが震えるような振動。
— 何だ…?!
何人かのハンターたちは無意識に後退し、拳を握りしめた。アーティファクトの光は眩しすぎて、みんなの目に火花が散った。
そして…
Sランク。
タクミの上に浮かび上がった文字は、あまりにも鮮烈だった。
まるで、その威圧感だけで空気が震えているかのように。
静寂。
誰かが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
— 冗談だろ…?
— Sランク? こいつが?
— そんな…あり得ない!
観衆の中には、最強クラスのSランクハンターもいた。
彼の表情が驚愕に歪む。
しかし、すぐに薄い笑みへと変わった。
— ほう…
— 今日は、面白くなりそうだな。
タクミは何の感情も見せず、ゆっくりと手をプラットフォームから離した。
彼のステータスは、正式に認められた。
だが、彼は分かっていた。
これは、まだ始まりに過ぎない。
Sランクハンターは、極めて希少な存在。
モンスターが現れてから数ヶ月――
国内でこのレベルに到達した者は、ほんの一握りしかいない。
Aランクですら驚異的な存在であり、その数が一人増えるだけで国中の注目を集める。
だが、Sクラスとなると話は別だ。
それは、まったく異なる領域。
人智を超えた力を持つ者。
たった一人でモンスターの大軍を殲滅できる存在。
その破壊力は、核兵器に匹敵する。
そんな存在は、ほんのわずかしかいない。
だからこそ、新たなSランクハンターの誕生は、国家の祝祭となる。
それは、世界における新たな切り札の誕生を意味していた。
Sランクを多く擁する国は、世界に対して優位に立つ。
政治の地図が塗り替えられる。
力の均衡が崩れる。
政府、企業、秘密組織――
すべてが彼らを狙う。
なぜなら、力を持つ者こそが、世界を支配するのだから。




