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無限のゲーム - 絶望の先にある勝利』【旧作】  作者: Marukuro Rafaella
「第10章 プレイヤー覚醒:新たな力の目覚め」
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「終わりの始まり、迫る運命」

沈黙が広間を包み込んだ。


まるで重たい布が音を吸い込むかのように、呼吸の音さえもかき消される。


すべての視線がケイトに注がれていた。


彼の冷淡で無表情な瞳には何の感情も映っていなかった。だが、そのわずかな指の動き、壁に映るかすかな影――その些細な仕草が弟子たちの心に不安を植え付けていた。


沈黙を破ったのは、ずっと黙っていたパンダだった。


「……先生」


その声には迷いがあった。慎重さがあった。まるで、自分自身も聞きたくない答えを求めるかのように。


「もし……あの化け物がまた現れたら……先生は、止められますか?」


その問いには虚勢もなければ、安易な楽観もなかった。


勝利を経験した戦士たちが時折見せる偽りの勇敢さ――そんなものは微塵も感じられない。


これは、世界の崩壊を 実際に見た者 の問いだった。


アヤナは隣で静かに唇を噛んだ。


本当は、彼女も同じことを聞きたかった。


だが、その言葉を口にする勇気はなかった。


タケシは、いつも冷静な彼が珍しく眉をひそめた。


ヒカルはただ拳を握りしめる。答えを聞くのが怖いかのように。


ケイトはゆっくりとパンダへ視線を移した。


「……ふむ」


目を細め、まるで言葉を慎重に選んでいるかのように一瞬沈黙する。


彼はゆっくりと手を持ち上げ、その指に巻かれた布越しにじっと見つめた。


布の下で、力が蠢くのを感じる。


まるで、彼の内側に眠る何かが、今にも目覚めようとしているかのように。


「今の化け物どもなら、簡単に消せるさ」


静かで落ち着いた声。誇張もなければ、虚勢もない。ただの事実。ただの現実。


誰もが、その言葉を疑わなかった。


ケイトが指をわずかに動かすと、周囲の空気が震えた。


まるでこの世界そのものが、彼に従うべきか迷っているかのように。


だが次の瞬間、彼の声色が変わった。


「……だが、もし 奴ら が戻ってきたら?」


空気が一気に張り詰める。


「……厳しい戦いになるな」


ケイトはそう呟くと、ふっと目を細めた。


「本気を出しても、二百パーセントの力を振り絞っても、もしかしたら負けるかもしれない」


沈黙。


誰もが息を呑んだ。


そして、その刹那――


ケイトがわずかに口角を上げた。


「――冗談だ、バカども」


一瞬、場の緊張が弾け飛ぶ。


「勝つさ。俺が負けるわけがないだろ?」


そう言って、ケイトは軽く笑った。


その言葉は井戸に落ちた石のように静寂を切り裂き、波紋のように広がっていった。


弟子たちは息をのんだ。


アヤナは背筋を冷たいものが這うのを感じた。

彼女はもう長い間、ケイトが"ただの人間"ではないことを理解していた。

彼は単なる強者ではなく、常識では測れない存在。


しかし──今、彼は言ったのだ。「もしかすると負けるかもしれない」と。


タケシはいつになく険しい表情を浮かべた。


「……な、何ですって?」

ヒカルが思わず声を上げた。

「先生、でもあなたは──」


ケイトは弟子たちを一瞥した。


そして──ふっと笑った。


軽く口角を上げると、瞳がかすかに輝きを帯びる。

まるで、全てを見透かしたかのような、悪戯っぽい光が。


「冗談だよ、おバカさんたち。」


彼は自分の胸を軽く叩き、口元にさらに笑みを深めた。


「俺が負けるわけないだろ。」


ピンと張り詰めていた空気が、まるで糸が切れたかのように揺らいだ。

張り詰めた緊張は、一瞬で驚愕に変わる。


ヒカルは瞬きをした。


アヤナは思わず、拳を握りしめた。

殴るべきか、やめるべきか──ほんの一瞬、本気で悩んだ。


タケシは大きく息を吸い、目を閉じ、そして開いた。

何が起こったのかを理解しようとしているかのように。


「先生……」

パンダの声には、呆れと安堵が混じっていた。

「本気で言ってるんですか?」


「もちろん。」

ケイトは相変わらず、余裕の表情を崩さない。

「君たち、知ってるだろ? 俺は負けない。」


「でも、さっきは……」


「はは、君たちの顔、最高だったぞ。」

ケイトは気だるげに伸びをしながら、くつくつと笑った。

「そんなに真剣な顔して、まるで子供みたいだな。まるで、サンタクロースは存在しないと聞かされたガキみたいに。」


「……サンタクロースなんて、もともと存在しませんけど。」

タケシが真顔で突っ込んだ。


ケイトはさらに口元の笑みを深めた。


「ほら、見ただろ?」


ヒカルは苛立ったように手を振った。


「くそっ、先生! たまにはマトモに話せませんか?!」


ケイトは肩をすくめ、ゆっくりと歩み寄る。

その瞳が、ふたたび鋭く光った。


「……よし、冗談はここまでだ。」


腕を組み、弟子たちを見渡す。


「俺の力は十分ある。だが……もし、奴らが戻ってきたら、今度はもっと厄介になるだろう。」


彼は一人ひとりの目を見つめた。

その意味を理解しているか、確かめるように。


「今回、俺たちには勝機があった。なぜなら、奴らは俺たちを本気で相手にしていなかったからだ。世界を完全に滅ぼすこともせず、俺たちを生かしたままにした。……なぜか? それは、ただの"遊び"だったからだ。」


空気が張り詰める。


「奴らは希望を与えた。俺たちに『戦える』と思わせた。そして──俺たちがそれを信じた今、本当の狩りを始めるつもりかもしれない。」


「じゃあ、どうすれば?」

アヤナが問う。

声はしっかりしていたが、その瞳には緊張が滲んでいた。


ケイトは一瞬考え──


そして、またあの悪戯な笑みを浮かべる。


「まずは──泣き言をやめることだな。」


「はぁっ?!」


「次に……もっと強くなることだ。」


パンダは深いため息をつき、鼻をつまんだ。


「……つまり、また奴らの"おもちゃ"になれってことですか?」


「違う。」

ケイトはゆっくり首を振る。

「今度は──遊ぶ側になる。」


その言葉には、ただの虚勢ではない確かな"確信"があった。


弟子たちは互いに視線を交わす。


そして──


そこには、ただの不安だけではなく、ほんの少しの"希望"も滲んでいた。


ケイトは満足げに頷くと、くるりと背を向けた。


「さて、ガキども。話は終わりだ。明日は訓練だ。」


「はぁ?! さっきまで訓練してたばっかじゃないですか!」

ヒカルが悲鳴を上げる。


ケイトは肩越しに振り向き、言い放った。


「で?」


「先生って、俺たちのこと全然気遣わないですよね?!」


「当たり前だ。」


アヤナは顔を手で覆った。


タケシは長く息を吐いた。


パンダは小さく首を振った。


それでも──


彼らは知っていた。


先生は決して負けない。


空が紅く燃え上がった。

まるで神々の血が天に流れたかのように。


大地が静止する。

年齢も性別も、国籍すらも関係なく、すべての人間の脳内に"それ"が響いた。


──音ではない。

──声ですらない。


それはただ"存在"していた。

意識のすべてを満たし、余計なものを押し流す。


耐えがたいほどの"感覚"だった。


言葉ではない。"知識"。

音ではない。"真実"。

脳へと直接刻み込まれる"絶対の理"。


「──聞け、死すべき者たちよ。」


感情のない、無機質な声。

それなのに、そこには計り知れぬほどの"古き冷たさ"があった。

生者の存在を許さぬ、宇宙の虚無のような冷たさ。


「──闇が訪れた。

 そして、お前たちは滅びへと導かれる。」


「──だが、我らは"機会"を与える。」


その瞬間──


数千、いや数万もの人々が、自らの身体が"燃える"のを感じた。


内側から襲いくる、異様な熱。

ある者は膝をつき、息を詰まらせた。

ある者は叫びを上げた。


"何か"が目覚める。


自分ではない、"異なる存在"。

恐ろしく、そして強大な"何か"が。


「──力を受け入れよ。」


「──試練を受け入れよ。」


「──"プレイヤー"の運命を受け入れよ。」


そして次の瞬間、選ばれた者たちの目の前に、半透明の画面が現れ、システムメッセージが浮かび上がった。


【おめでとうございます。あなたは「プレイヤー」になりました。】

【クラスが付与されました…】

【初期ステータスを取得しています…】


世界が震えた。


人類は、もはや以前の人類ではなかった。

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