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後日談② 結婚式

前半アリソル視点、後半エドモンド視点です。

だんだんアリソルの性格が面白くなっていく‥‥。



 ウェル兄さまの結婚披露パーティには、驚くほどたくさんの人が参加していた。


 招待客の視線は、花婿の側で朗らかに笑う、今を時めく石炭王ことバルラガン様に注がれている。皆、少しでもつながりを持とうと必死なのだろう。今日の主役はウェル兄さまとケイティ様なのに。


 私はエドモンド様の隣で、ゆったりとパーティを楽しんでいた。

 エドモンド様は最近ウェル兄さまの仲介で石炭の輸入に力を入れている。二人は仕事仲間としてよい関係を築いてくれているのが嬉しかった。


「アリソルはこっち」

 私の腰に回した手を離さないまま、エドモンド様はさりげなくワインをノンアルコールのドリンクに変えた。

「君の酔った顔は俺だけのものだから」

 耳許でささやかれてぼふんっと赤くなる。


 誤魔化す様に睨むと、彼はどこ吹く風、という顔で笑っていた。

「それより、君は挨拶に行かなくていいのか?バルラガン子爵に会うのは久しぶりなんだろう?」


「いいんです。今日の主役はウェル兄さまとケイティ様です。」

 あの二人をお祝いするのが目的なのだから。それに。

「そのうちに向こうから来ますよ」


 宣言通り、私達の会話に気づいたバルラガン様が、周囲を押し切るようにこちらにやってきた。

 ね?

 私は得意げにエドモンド様を見る。


「リー?リーなのか?」

 懐かしい声に思わず笑みが零れた。


「‥‥リーって呼ばれていたのか?仮にも他人の人妻に、馴れ馴れしすぎやしないか?」

 嫉妬を隠そうともしないエドモンド様につい笑ってしまう。私は丁寧に膝を折った。


「ご無沙汰しています。エドモンド・ハーディンが妻、アリソル・ハーディンにございます」

 一線を引いた挨拶をする。

 あ、これだけでエドモンド様のご機嫌が直ってる。そして得意げに鼻息を荒くしている。

 単純でかわいい。


「私に堅苦しい挨拶は不要だよ。そうか、リーはこんなに大きくなったか」

「そうですよ。もう立派な人妻です。あの頃の小さなリーじゃないですからね」

 つん、と上を向いて答えたが、バルラガン様は目を窄めて微笑んだ。

  

 親し気な私達の会話に周囲の視線が集まるのがわかる。

「皆様とのご挨拶の途中だったんじゃないですか?」

 小声で問えば、彼は肩をすぼめた。

「いいんだ。以前は子爵の三男だからって鼻もひっかけなかったくせに、富を築いた瞬間わらわらと寄ってきて。態度が昔から変わらないのはウェルとリーだけだ」


 彼は振り返り大げさに手を広げ、皆に聞こえるような声で説明を始めた。

「彼女とは昔からの知り合いでね。こんな小さな頃から世話をしてきたんだ。いつも突拍子もないことばかりする子で迷惑かけられてばかりで」

 びよーんと下に伸ばされた手に、つい不満が滲む。

「ちょっと!いつ私が迷惑を掛けました?」

「迷惑しかかけてないだろう?いつだってじっとしていなくて。目を離すとすぐどこかに飛んで行ってしまって」


 じっとしていないって。

 私、そんな性格だったっけ?

 首を傾けてウェル兄さまを見ると、困ったように笑い返された。


「ハーディン殿、初めまして。リーの友人のトールヴァルド・バルラガンです」

 彼はようやく我が夫の存在に気づいたかのように、手を差し出してきた。

「エドモンド・ハーディンです。こちらこそ、石炭の輸入に関してはお骨折りいただき感謝しています」

 エドモンド様も手を差し出し、しっかりと握手をする。

「いやいや、いち早くあれの重要性に気づくなんて、さすがリーの選んだ御仁。先見の明をお持ちだ」


 彼の言う通り、人よりやや先んじて石炭の売買に手を出したおかげで他の貴族よりも優位性を保って輸入させてもらっている。


「お恥ずかしながら、妻の助言なのですよ」

 正直なエドモンド様の発言に、バルラガン様はこちらを向いて嬉しそうに顔を綻ばせた。

「やっぱり。リーは覚えていたんだね」


 覚えていた?

 ‥‥何を?


 不思議そうに首を傾げると、彼は苦しそうに顔を歪めた。

「‥‥覚えて、いないのか?」


「えっと?バルラガン子爵、さま?」

 困ったように声をかけると彼は唸った。

「頼むから‥‥。そんな呼び方をしないで‥‥。昔のように気安く、とーたま、と…」


 さすがに吹き出してしまった。淑女らしからぬところは目をつぶって欲しい。

「バルラガン子爵様!私が今いくつだと思ってらっしゃるの?さすがに人様の前でそのような恥ずかしい呼び方はできませんわ!これでも人妻ですのよ?一応」

 彼は首の後ろを掻いた。

「そうか。そうだな。‥‥大きくなったんだな」


 当たり前のことを泣きそうな顔で呟く彼に、何故か胸が痛む。


 彼はエドモンド様に顔を向けて笑顔で切り出した。

「ハーディン殿。今後の取引のことも詰めたいですし、明日、奥様とご一緒に我が家にいらっしゃいませんか?身内だけの小さな晩餐を開く予定なのです」


 それから、彼は再度皆に聞こえるように声を張り上げた。

「古い友人でもあるハーディン伯爵夫人は事業家としても優秀だとは聞き及んでおりますが、以前から彼女の知識と発想力には目を瞠るものがありまして」

 周囲の意識を惹きつけるように彼は続ける。

「実は私が始めた石炭事業も、きっかけは彼女なんです。今の私の地位と経済力があるのは彼女のおかげと言っても過言ではない。本当に彼女には感謝してもしきれないんですよ」


 えええっ!!??

 全く心当たりがないんですけど?

 驚く私とは裏腹に、ほおっと周囲から感嘆の声が上がり、戸惑ってしまった。


「私が!?いつ?どこで?」


 その言葉にバルラガン様はまた悲しそうに眉を顰める。

「本当に覚えていないんだね」


 突然に前世の記憶を思い出したと思っていたけれど、その前から何かしらの記憶があったのだろうか。

 曖昧になってしまった過去の自分に恐怖を感じる。

 身に覚えのない過去と突然の周囲からの注目に恐れをなし、思わずエドモンド様の袖をぎゅうっと握ってしまった。


 ***


 バルラガン殿との会話の最中に、アリソルが俺の腕にしがみついてきた。

 

「アリソル、どうした?」

 なにか不安なことでもあったのだろうか。

 のぞき込むように彼女の表情を確認すると。

 彼女はぷくっと頬を膨らませて。

 あれ?怒ってる?


「何をそんなにへそを曲げているんだい?」

 くすりと笑ってその膨らんだ頬を手の甲でそっとなぞれば。


「よくわかんないけど悔しくないですか?」

 急に口を開いた。

「だって、私は全然覚えてないとはいえ、バルラガン様はどうやら私の発想からとんでもない富を築いたんですよ。かたや私はチマチマとドレスなんぞを作って‥‥」


「いや、チマチマじゃないから!十分な規模の事業になってるから!」

 そんな俺の突っ込みに同調するように、バルラガン殿も声をかけてきた。


「そうだとも。今回この国に戻ってきたのはもちろんウェルをお祝いするためだけれども、リーにお願いがあってきたんだよ。リーの作ったウエディングドレス。第二王女の降嫁の際の。あれを見てね」

「まあ、御存じだったんですか!?」

 アリソルの目が嬉し気に大きく見開く。


「当然だろう?とんでもなく長いレースのあのヴェールは居合わせた各国要人の度肝を抜いたからな」


 うふふと楽しそうに笑うアリソルに、俺も嬉しくなる。

 突然舞い込んできた第二王女のウエディングドレス作成の依頼。

 王族からの依頼にテンパる俺とは対照的に、何でもない顔で引き受けたと思ったら、びっくりするほど大勢の針子を集めて。何か月もかかりっきりで。

 出来上がったそのドレスは、繊細なレースが長く長く伸びる長いヴェールが特徴的な、そしてそのヴェールを数人がかりで引きながら歩く見たこともないデザイン。

 その様子はため息が出るほど荘厳で神聖で、王女様は一目で気に入り、列席した国賓も、パレードを見に集まってきた王都民をも一瞬で魅了した。

 一夜にして全ての女性の憧れの象徴となったそのドレスに、その後各国から依頼が殺到したのはいうまでもない。

 なのに肝心のアリソルは、「燃え尽きたので無理」と一切の注文を断ってしまった。

 うちの妻はやる気があるのかないのか、時々わからなくなる。


 まあ、俺としては、「これ以上はエドモンド様との時間がなくなるので」と言われれば嬉しいばかりなのだが。

 おかげでキャミソールセットとはまた別の意味で幻の一品になってしまった。

 まあケイティ殿のウエディングドレスは手掛けたかったようだが。母親のドレスを使いたいと言われたら引き下がらざるを得ない。


「どうだろう?私を助けると思って、力を貸してくれないかな?」

 バルラガン殿の申し出に。

「え?え?もしかして?バルラガン様も結婚の御予定が?」

 破顔一笑、彼女は最高の笑顔を見せた。

 珍しく彼女の語尾にハートが見える。期待を込めたその目の意味するところに気づいたのか、バルラガン殿は小さくため息をついて肩をすくめた。


「残念ながら。今回の依頼は我が国の王太子の依頼なんだ」


 はあ!?またしても王族の婚礼衣装なのか!?

 驚きで固る俺の横で、アリソルから急速に興味の色が消えたのがわかる。


「まあ。光栄です。‥‥が、あのデザインはすでに周知されていますし、他のデザイナーの方に頼まれては‥‥?」

 おずおずと、さも遠慮する風を装っているけれど。

 あれだろ、ただめんどくさいんだろ。

 王族だぞ?不敬じゃないのか?何故にそんなにぞんざいに扱える?

 まあ俺としても、受けるとなると隣国まで足を運ばなくてはいけないし、そんな遠くまで妻を一人で送り出したくはない、と思ってしまうのだが。


「それが、やはり第一人者であるリソルド商会に頼みたいというんだよ。他のデザイナーに作ってもらっても二番煎じなだけだからな」

 まあ一理ある。

 ちなみに事業の拡大に伴って新たに立ち上げた商会には二人の名前を合わせて名付けた。アリソルとエドモンドでリソルド商会。俺の名前は一文字しか入っていないけど、いいんだ。アリソルが気に入っていれば、それでいいんだ。


 困ったように俺に体を寄せる彼女をバルラガン殿はじっと見つめた後で、

「まあ心配しないで、リー。詳しい話はまた明日しよう」

 そういうと、その場を後にした。



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