【完結】生まれ変わったけど、男になった俺を受け入れられない前世の元旦那は切り捨てて、新しい旦那と幸せになります【短編】
「死する時も共にあれて、嬉しく思う。しかし、マリアンヌとは為したい事が多くあったのだ。悔いは残る」
サラサラとする金髪の下から、真っ直ぐと青い瞳を私へ向け、悲しげに美しい男が言う。彼はこの国の王太子。隣国より攻め入られ、圧倒的な戦力差により、滅ぶ運命であるサライアン王国の王太子、レイモンド・サライアン。
戦火に飲まれた王城にて覚悟を決めた私達は、頑丈な一室に閉じこもり、共に果てる為に寄り添っている。
「私もです。レイモンド、貴方と末永くこの国を護っていきたかった。しかし、もはや受け入れる準備はできております。王太子妃として、愛しい貴方と共に潔く散りましょう」
悔しくはあるけれど、緊張状態の続いていた隣国との関係を思えば、覚悟は随分前からできていた。こんな日が来る可能性はあると。
レイモンドは更に顔を歪めて私の手を取る。嫌だと顔を振りながら。揺れる金髪を撫でてあげたい。私は彼の金髪を指で梳くのが大好きだった。
「あきらめきれないのだ。マリアンヌ、どうか僕と儀式を行ってくれ」
「儀式ですか?」
「我が王家に伝わる、禁術だ。大きな代償を支払う変わりに、来世で共に生まれ落ちる事ができる。今世での記憶を持ったままだ。来世で再び出会おう。そして今度こそ、二人で幸せになろう」
「そのような事が可能なのですか?しかし、代償とはいったい?」
レイモンドは私の両手へ愛おしそうにキスを落とすと、ふと離れて部屋のどこからか斧を引きずってくる。少し錆びていて、切れ味の悪そうな斧だ。
「一人の人間の生きた四肢と、苦痛の喘ぎを捧げるのだよ。美しい君にこんな事をするのは心が痛むが、どうせ僕達はここで果てる身。ならば構わないだろう」
何が。構わないのだろう。
私達は、お互いに散る為の毒薬を持っている。それは眠るように静かに死を迎えられる、優しい毒だ。
この部屋で、愛する人を抱きしめながら、穏やかに終われるのだと思ったのに。
最後の時を迎える部屋として、王家が信仰する神への祭壇があるこの部屋を選んだのは、共に神の御許へ行くためでは無く、私を捧げる為だったのか。
「やり遂げてみせよう。君の身体を傷つけるなんて、己の身を傷つけるにも等しい苦痛だろうが、マリアンヌとの未来の為に、必ず僕はやり遂げるよ」
どこか誇らしげに言うレイモンドは、斧を振り上げた。
「待っ……」
◇◇◇◇◇
その先の事なんて思い出したくもねぇ。
己の身体を強く抱きしめるようにして、健在の両腕を堪能する。マリアンヌであった頃より三倍は太くなったこの腕。逞しく筋張って、剣を振るのが得意になった。前世の記憶があるおかげで、勉学の時間を剣術の時間にあてられたのも大きい。
俺はマリアンヌから生まれ変わり、ヴァイス辺境伯家の一人息子で嫡男のライリー・ヴァイスとなった。マリアンヌであった頃と違って、言動は多少粗野になってしまったが、辺境ではこのくらいが丁度良い。
容姿どころか性別まで別物になってしまったが、中身は俺のまま。転生の儀式とやらは上手くいったらしいな。
そして、レイモンドの方だが……。
「坊ちゃま、第三王子殿下がいらっしゃいました」
「まぁた、先触れも無く……。苦労かけるね」
うんざりとした顔を漏らしながら、メイドの一人が報告にやってくる。
今世で生まれ落ちた王国の名は、サジェスタ。その国の第三王子殿下の名は、モルディオ・サジェスタ。
レイモンドの生まれ変わりが、モルディオだ。俺達は既に感動の再会…を、果たしている。
レイモンドを探し出すのに苦労はしなかった。それと言うのも、モルディオ殿下は幼少期より、自分がレイモンド・サライアンの生まれ変わりである事を宣言しているからだ。滅亡した国の王太子であった事など、好んで吹聴する事では無いだろうが、その滅亡も伝説となる程過去の事。今では悲劇の王太子と王太子妃の恋物語が、大衆の間で小説や舞台として親しまれている。
もちろん、あの凄惨な儀式の事も殊更詳しく書かれていた。
歴史学者達の努力のかいあって、あれはサライアン王家の禁術、転生の儀式である事まで突き止められ、そうまでして悲劇の二人は共にありたかったのだと美談になった。
魅力的な物語の登場人物本人であるとなれば、己がそうであると宣言するのに戸惑いは無かったようだった。実際、モルディオ殿下はそれが理由で、第三王子でありながらも、婚約相手として人気が高い。
自分が悲劇のヒロインでは無いかと夢見て、モルディオ殿下に好意を示す令嬢は多いのだ。
俺の方は、自分がマリアンヌの生まれ変わりである等と言うのは恥ずかしい。辺境伯家の跡取りとして、強く逞しく生きる事を目指しているというのに、悲劇のヒロインだと名乗り出るなんて冗談じゃ無い。
と思っていたのだが、モルディオ殿下がそれはそれは熱心に、そして哀れな様子で悲劇のヒーローとしてマリアンヌの生まれ変わりを探しているのを見て、つい打ち明けてしまったのだ。多少、前世の情も残っていたというのもある。
打ち明けたのは、貴族学園時代。生徒会の役員メンバーとして、モルディオ殿下と生徒会室で二人きりになった時に、こっそりと。
その時のモルディオ殿下の絶望感溢れる顔といったら。言うべきでは無かった。貴族学園を卒業した今も、それは強く後悔している。何も、モルディオ殿下の気持ちを慮っての話だけでは無い。
「お断りなさってもよろしいかと。先触れの無い訪問は、いくら王族であっても、礼を欠いております」
「一度そうした時の、あの騒動が忘れらんなくてさ……。すぐ行くよ」
報告にきたメイドは、憎々し気に顔を歪めて言う。確かこのメイドも、始めはモルディオ殿下にキャーキャー言ってるうちの一人だった気がするが。
モルディオ殿下は、度々こうして、先触れの無い訪問をする。辺境の地までわざわざご苦労な事だが、ヴァイス辺境地は観光業も盛んなリゾート地。わざわざ尋ねるのに、面倒を感じる事は無いだろう。なんたって、来る度に存分に遊んで帰っているようだから。今日だって散々に遊んだ後に、思い出したように屋敷へ寄っただけだろう。
無礼な訪問に抗議して、面会を断った事があったが、その時は最悪だった。対応した使用人を剣で斬りつけて、無礼打ちだと殺そうとしたのだ。騒動を聞いて慌てて俺が駆けつけた事で、使用人は怪我だけですんだが、あまりにも酷い出来事だった。辺境伯家として王家へ抗議はしたが、その時にようやく俺は、自分の失態を知ったのだ。
『ライリー・ヴァイスは、己をマリアンヌの生まれ変わりだと宣言した。真実、あの悲劇のマリアンヌであるならば、レイモンドの生まれ変わりであるモルディオの訪問を断るはずがない。王族へ虚偽の申告をしたと言うならば、相応の沙汰が下るであろう』
生徒会室で、こっそりと二人きり。ただし、王族につけられた影が聞いている室内で。
マリアンヌであった時は、気づいたかもしれない。しかし、野を駆け山を駆けの辺境で長く暮らしたライリーでは、影の存在にまで考えが至らなかった。マリアンヌの生まれ変わりであるという告白は、正式な宣言として王家に記録されてしまった訳だ。
第三王子という、継承権の高くも低くも無い微妙な王子。辺境伯家に押しつける理由があるならば、全力でそれを利用するという姿勢が、王家に見て取れた。俺の失態だ。俺が告白した事で、モルディオ殿下を受け入れなければならない義務が発生した。後悔は尽きない。
とはいえ、辺境伯という地位を、王家は舐めすぎだとは思うが……。それでも事を荒立てて、犠牲者を増やす程の出来事では無いのだ。モルディオ殿下の、先触れの無い訪問と、平民の使用人が“勝手に二人の逢瀬を邪魔した”から無礼打ちにした件。というのは。
それを理由に反旗を翻すのは、関係の無い国民を犠牲にしすぎてしまう。
レイモンドとマリアンヌの悲劇が美談として受け入れられている今では特に、元マリアンヌと名乗る得体の知れない辺境伯家の男が元レイモンドであるモルディオ殿下を拒絶した事で起こる戦争等、国民に受け入れられる筈も無い。彼等から見れば悪役になるのは、こちらの方だ。
マリアンヌとして生きていた時代から長い時が経過した今、同性愛も受け入れられつつある。モルディオ殿下を正式に、ヴァイス辺境伯へ同性婚で婿入りさせる話すら来ている今では、もはや後戻りもできない。結局の所、俺は彼を受け入れるしか無い。その証拠に、いずれ俺達の養子として本家へ入る予定の幼子が教育を受けている最中だ。
「やってくれたよなぁ」
モルディオ殿下へ向けてなのか、自分自身へ向けてなのか解らない悪態をつきながら、応接室の扉をノックした。
「入れ!」
苛立ったような声は聞き慣れた。入室すれば、いつものように、モルディオ殿下の観察するような鋭い視線が全身に浴びせられる。
「ようこそいらっしゃいました。先触れがあれば、もてなす事ができましたが、至らぬ所をお見せして申し訳ありません」
「まったくだ!マリアンヌであれば、全て完璧だった!本当に彼女であれば、常に僕の為に準備をしていたはずだ!」
先触れを寄越せと遠回しに言ったのだが、モルディオ殿下は、俺の謝罪をそのままに受け取ったようだ。レイモンドの頃から馬鹿だとは思っていたが、マリアンヌへ愛を向けている時はもっと操りやすかった。マリアンヌの言う事ならば、なんとか受け入れようとする姿勢があったから。しかし今は……。
「どうせ嘘なんだろう!?とっとと白状したらどうだ!貴様のせいで、本当のマリアンヌが名乗り出れずにいるかもしれないだろう!王家と繋がりを持ちたいからと、悪質な嘘をつく外道め!真実を明らかにして、必ずや罰してくれる!ギロチンでは物足りぬ!火あぶりだ!悶え苦しむと良い!」
モルディオ殿下は、俺がマリアンヌであった事を信じていない。面影も無く、筋肉のついた、自分より背の高い男がマリアンヌであるとは受け入れられなかったのだ。
告白するまでは、生徒会メンバーとしてそれなりに重宝されていただけに、油断してしまった。男の側近としてなら受け入れられても、最愛の人としては受け入れられない。情に絆されて思考を狂わせていなければ、推測も可能だったろうに。俺はなんて愚かな事を。
「いえ……、マリアンヌは俺の前世で間違いありません。ご期待に添えず、申し訳ありません」
王家へ虚偽の報告をしたとなれば重罪。モルディオ殿下が勝手に言っている事と侮れない。火あぶりもあり得る話なのだ。俺はただ、かつてマリアンヌであった事を謝罪するしか方法を持ち得ていない。
「では、マリアンヌが一番好きだった花はなんだ!」
「白いチューリップでございます」
「くそ!どうせ僕の自伝を読んだのだろう!なんの証拠にもなりはしない!」
俺がマリアンヌである事の証拠を示す機会を潰したのは、自分だろうに。
幼少期から悲劇のヒーローとしてもてはやされた彼は、様々な新聞社や出版社のインタビューを受けた。自伝も多く本屋に並ぶ。マリアンヌとの出会いから別れまで、全てを赤裸々にして、俺達が二人だけ知る真実というのはあまりにも少なすぎて、思いつきもしない。もしや、何一つ無いのでは。いや、あれを除けばだが……。しかし、あれは……。
「貴様のせいで、僕はこんな田舎に押し込められようとしている!かつて王太子として手腕を発揮していた僕がだ!マリアンヌであるならば嘆いてくれただろう!僕という有能な男が、辺境等に押し込められる悲劇を!ああ!僕はいつまで悲劇に捕らわれなけばならない!」
劇がかった口調で高々に言うが、レイモンドの頃から王太子としての手腕は発揮されていなかった。ついでに言うと、レイモンドの父親である国王も政治の腕はいまいちで、マリアンヌである俺が奔走したが追いつかず、結果攻め落とされた訳なのだが。
あれは惜しかった。レイモンドが国王にさえなれば、マリアンヌはレイモンドの手綱を握って、国を動かす事ができたのだ。あと少しという所で。
いや、その前にという隣国の策略によって、あの時に攻め入られたのかもしれないが。
「紅茶を淹れますね」
いつものように、用意された茶器に手を伸ばす。レイモンドは、マリアンヌの淹れた特別な配合の紅茶が好きだった。
「ふん。僕の自伝“香る紅茶と愛しの君”を読んだ浅知恵だろう!しかし、今のところお前が一番紅茶を淹れるのが上手い。さっさと淹れろ。側近としてなら、可愛がってやったものを」
特別な配合も、全て自伝に書かれてしまえば、特別では無くなってしまう。マリアンヌの紅茶として有名になったソレは、平民の通う飲食店でも口にできるようになった。
「マリアンヌとは似ても似つかん。マリアンヌは優しげな桃色の髪と瞳だったというのに、貴様はおぞましく猛る炎のような赤髪と雑草のような緑の瞳だし、マリアンヌは抱きしめれば折れそうな程華奢なか弱い身体に、豊かな胸と尻を持った女神のごとき造形の女だったが、貴様はなんだ!?どこも太ましく、ゴツゴツとして、胸と尻が無い代わりに、股ぐらに余計な物がついている等と!貴様のような者がマリアンヌの名を騙る等、恥を知れ!」
俺ばかり責めるが、あんただってかつての容貌はどこにも無いじゃないか。梳いてやるのが好きだったサラサラとした金髪は、黒髪のふわ毛に変わっているし、青い空のような瞳はチョコレート色に変わっている。だからと責めるつもりは無かったのだが、俺ばかりが変わった容姿を責められると文句をつけたくなりそうだ。
今日も後悔のため息をつきながら紅茶を淹れる。
あんな男のどこを好いていたんだっけな。
◇◇◇◇◇
「自分を一心に愛してくれる男だったからでは?」
大量の花を抱えた、金髪に青い瞳の男が言った。彼は馴染みの花屋の店主。辺境のリゾート地では、花は飛ぶように売れる。優秀な店員達もそろい踏みとなれば、随分繁盛しているようで、訪れたこの本店は、貴族の屋敷かと思う程に立派なものだ。
「あぁ。それはそう。むしろそれしか無いか」
納得できると頷いた。現在の状況は、つい零した俺の愚痴に、彼が答えた形だ。モルディオ殿下の事だとは言っていないが、花屋として屋敷に訪れる事もある彼は、モルディオ殿下の傍若無人な振る舞いを知っているうちの一人でもあるので、誰の事かは何となく察しているだろう。
マリアンヌの生まれ変わりだと、俺はモルディオ殿下にしか打ち明けていないが、モルディオ殿下が怒りに任せて周囲へ言い触らしている為に、詳しく言わずとも解ってしまう。
あんなに愚かな男でも、容姿が整っていてマリアンヌだけを愛し、マリアンヌの言葉ならばなんとか理解しようと努力してくれたかつてのレイモンドならば、愛せた。愛してしまったのだ。
「貴方は面食いで、愛されたがりなんですよ。そして悪い男が好き」
彼は何やら追い打ちをかけてきた。しかしその通りだろう。でなければ、あんなに愚かな男を愛しはしない。
「男運も悪い」
「いや、もう良いよ。容赦ねぇな。上客だぞ、俺」
「ふふ」
平民と貴族で、花屋と客という立場ではあるが、俺達はそれなりに仲が良い。砕けて話せる程度には友人だ。現当主である辺境伯の父さんも、彼を気に入っているようで、花の礼だと食事に招待する事がある。時には、父さんと部屋にこもっている事もある。母さんはそれを見て見ぬフリだ。花売りねぇ……。
「ライリー様のお好きな花は、スイセンノウですよね」
「そうそう。そこらにも生えてて可愛いよな」
「ええ、私も可愛いの好きですよ」
青い瞳は、真っ直ぐに俺を見つめる。見定めるように。かつてのレイモンドを思わせる、サラリとした金髪を揺らしながら。しかしその根元には、桃色が見えている。初対面の時、彼は確かに桃色の髪だったはずだ。
「……髪を染めるのって、めんどうじゃねぇ?」
「得られる物が大きいかもしれないので。めんどうには思いません」
「怖いなぁ、あんた」
「怖がる必要はありませんよ」
怖いよ。“大きな物”を狙うその視線は、恐ろしくて魅力的だ。
◇◇◇◇◇
「私は真実の愛を見つけた!彼女が本物のマリアンヌだ!」
王家主催のパーティーで、モルディオ殿下は登場するなり大きく声をあげた。傍らには、桃色の髪と瞳を持つ愛らしい少女。胸も尻もある。
「ライリー・ヴァイス!貴様の醜悪な嘘はこれで終わりだ!見ろ!マリアンヌの生き写しかの如く美しい彼女を!彼女こそ本物のマリアンヌ!図体のデカい獣のような偽物が、マリアンヌに成り代わろう等、身の程知らずめ!王族へ虚偽の申告をした罪で、火炙りの刑を言い渡す!いや!それだけでは足りん!貴様の四肢をもいで、苦しめるぞ!晒し者にもして、それから…っ」
鼻息荒く怒り狂うモルディオ殿下は、俺をどうやって残虐に殺すかを延々と語る。
俺はその間、確かに前世の俺に似ていそうな少女をぼんやりと眺めていた。愛らしい顔には似合わないような、勝ち誇った笑みを俺へ向けた彼女は、白々しい程にギュッとモルディオ殿下の腕へ縋り付いてみせた。
「モルディオ殿下~。ライリー様が睨んできます~。こわ~ぁい」
そんな台詞もつけながら。
モルディオ殿下は更に怒りで興奮して、顔を真っ赤にしながら俺へ罵声の言葉を叫び続けた。
◇◇◇◇◇
俺の処刑を言い渡したモルディオ殿下だが、彼はあのパーティーから数日経った今日も、当然のように我が家に訪問した。
ライリー・ヴァイスの処刑は執り行われなかった。当然だ。処刑を決めるのは、モルディオ殿下では無い。それを決めるのは裁判長か、国王陛下だ。
ヴァイス辺境伯家からの抗議に、この時ばかりは王家も顔色を悪くして正式な謝罪が行われた。
のらりくらりと躱せない程の失態。辺境伯の一人息子を、勝手な言いがかりで処刑するとのたまったのだから。国民感情も大きくこちら側へ動いた。特に辺境の領民達は俺へ同情的で、王家へ怒りを抱いた。
同性愛に寛容になってきたこの時代、マリアンヌが男として生まれ変わり、モルディオ殿下と男同士の愛を深めるというのは、一部の国民達にとても人気があったのだ。そんな夢物語がぶち壊されたどころか、モルディオ殿下の身勝手な振る舞いも隠せない程知れ渡ってしまった。
モルディオ殿下の自伝の売り上げが急激に落ちたとか、舞台の演目が多く中止されたとか、そんな噂も聞いている。
「くそ!どいつもこいつも!馬鹿ばかりか!」
悪態をつく目の前のモルディオ殿下は、名目上は謝罪の為の訪問だったはずだが。
「本物のマリアンヌは平民で、僕を受け入れられるだけの財産を持っていなかった。だから仕方ない。とりあえずは、貴様と結婚してやる!だが、僕が愛するのは、本物のマリアンヌただ一人!結婚したからと言って、僕に愛して貰えると思うなよ!」
この状況でまだそんな事を言えるのかと、呆れて返す言葉も無い。無言の俺を見てどう勘違いしたのか、モルディオ殿下は少し気が晴れたようにいやらしく笑った。
「貴様には、僕とマリアンヌが愛し合う所を間近で見せてやろう!僕に愛される事も無く、惨めにベッドの下で這いつくばって、泣きながら自身を慰めてでもいれば良い!面白い芸の一つでもするなら、少しくらい遊んでやっても良いがな!」
辺境でもそうそう聞かないレベルの下品な話だ。目眩を覚えながら無言のまま退室すると、モルディオ殿下が何か怒りの声を上げているのが解るが、理解もしたくない。足早に去ろうと扉を閉めると、廊下には花屋の彼が佇んでいる。
「仮にも王族との話を盗み聞きか……?平民がやって良い事じゃねえな」
言いながら歩を進めると、彼も俺の横へついて歩き出す。
「いえいえ、ヴァイス辺境伯様に花を頼まれたので、お伺いした所バッタリと」
自室の前までついてきた花屋は、徐に俺の手へ触れる。
「ライリー様も、自室に飾る花は如何ですか?スイセンノウをお持ちしております」
そんな事を言うが、彼はずっと手ぶらだ。
「どこに花が?」
「見えませんか?私の胸にありますよ」
妖艶な程美しく笑ってみせる彼は、面食いの俺を的確に射止めてくる。そろそろ覚悟を決める時が来たか。
通りがかったメイドを呼び止めて、彼から花を買う相談をするから、しばらく部屋へ誰も寄せ付けないよう人払いを頼む。メイドはハッとした顔をしてから真っ赤になって頷き、小走りで去って行った。
自室へ共に入れば、後から入った花屋が勝手に鍵を閉めた。
部屋の最奥にあるベッドまで行き、彼と共に腰掛ける。万が一聞き耳を立てる素行の悪い使用人がいたとしても、ここならば簡単に声は届かないだろう。
「まだ恐ろしいですか?」
「そりゃ、こんな事、前世でも未経験だからな」
尋ねてくる彼へ素直にそう返す。そうしてから、俺はベッドから降りて彼の足下へ跪いた。
「花の王国ガーデナリティの、フランネル第一王子殿下とお見受けします。私が働いた数々の無礼をお許しください」
「いえ。事情を考慮し、私を平民として扱ってくださった事を感謝していますよ。ヴァイス辺境伯のおかげで、非常に動きやすかったですから」
桃色の髪に青い瞳。ハッキリとした容姿は明らかにされていない、辺境を挟んだ隣国ガーデナリティの第一王子殿下だが、色合いに関しての情報だけは公開されていた。それに加え、辺境伯である父さんが殊更気に入って重用する平民である事や、愛妻家のはずの父さんと、長く二人きりで部屋に籠もる事。それについて不満を口にしない母さん。サジェスタでは手に入り辛い花を豊富に揃えた店。複数の支店を持つ店のどれにも、妙な程に統率の取れた店員達が存在して、大きく繁盛する程に切り盛りしている事。何よりも、フランネル殿下の立ち振る舞いが、前世共に生粋の貴族である俺を魅了する程に美しかった事から、彼の正体を推測するのは簡単だった。
「当主が貴方様へ服すると言うならば、私も従いましょう。いかようにもお使いください」
ガーデナリティは、隣接するヴァイス辺境地を欲している。観光業が盛んになる程、海陸共に便の豊かなこの土地を抑える事は、即ち両国間の主導権を握るにも等しい。ヴァイス辺境地を抑えられれば、サジェスタ等脆く崩れ去るだろう。かつてのサライアン王国のように。
だからこそ、王家はヴァイス辺境伯を舐めてはいけなかった。傲慢な驕りで、多少雑に扱っても良いだろうと判断したのは間違いだ。
確かに、国民感情が王家に、特に悲劇のヒーローレイモンドの生まれ変わりであるモルディオ殿下にあったのであれば、父さんは動けなかっただろう。領民や国民達の反発にあえば、いくら辺境伯と言えど、無力な一人の人間にしかならない。
だが、事は起こってしまった。モルディオ殿下が己で獲得したはずの国民からの支持を、己の手で手放した。彼は永遠に悲劇のヒーローを演じなければならなかったのに。レイモンドとかけ離れた容姿を持つモルディオ殿下が、マリアンヌと容姿の似た女を選び、ヒロイン役として始めに支持を得た俺を捨てて、勝手に処刑だと叫ぶのは、リアリティが薄すぎたのだ。急に色褪せた恋物語のせいで、後に目立つのはモルディオ殿下の軽率で傍若無人な振る舞いばかり。
今ならば、ガーデナリティへ寝返ったとしても、反発は大きく無い。そのうえガーデナリティは、サジェスタよりも税が少しばかり安い。領民の多くは触らず関わらず、静観する事を選択するだろう。
「いかようにも使って良いのですか?君を、私の好きなようにして良いと?」
「……そう言われると不安になってくるのですが。できる限り従います。できる範囲で」
友人関係を築いた今では、フランネル殿下が何か良からぬような悪戯を考えているのは手に取るように解る。真面目な話の最中だろう。からかうのは止めてくれよな。
「そんなに警戒しないでくださいよ。君に私のプロポーズを受けて頂きたいだけです」
「殿下、冗談はその辺で」
「冗談だなんて、とんでもない!」
跪く俺の手が取られ引き上げられる。ベッドに腰掛けるよう誘導され、俺よりも頭一つ小柄なフランネル殿下を見下ろした。俺を見上げる青い瞳は、悪戯な笑みを消して、鋭く俺を射貫く。
「今の私は、君にとって好みの男であるはず。君が望むのなら、髪も一生染め続けましょう。此度の功績で立太子したとしても、側室は考えません。一生ライリーだけに不変の愛を捧げましょう。共に散る事があるならば、来世には期待しない。私は今生の命限りと思い、全てを君に捧げ尽くすと誓いましょう。他に望みはありますか?ライリー。そして、マリアンヌ」
「フランネル殿下……。言葉を崩してもよろしいでしょうか」
「構いません。いつもの貴方の方が好ましい」
「こんなデカい男相手に、本気かよ?あんた、趣味わりーな」
「趣味が悪いのは君の方ですよ。だから自分の魅力に気づかないのかな」
ふふと小さく笑ったフランネルは、剣ダコのできた固い俺の手を愛おしそうに撫でてキスをする。金髪がサラリと触れて、俺の身体に熱を灯していく。
「本当に趣味が悪い。レイモンドの事など放っておけば良かったのに。何故わざわざ彼に正体を明かしたのです?最後は、恨んだのでしょう?」
「どうしてあんたがそれを知ってるんだ?レイモンドとマリアンヌは、お互いに来世で会う約束をして愛し合いながら死んだってのが通説だろう」
「私は悲劇のサライアン王太子夫妻の伝説が好きでしてね。あらゆる資料を集めて、できる限り正確な歴史を記した物だけを繋ぎ合わせました。巷の恋物語のような脚色された話は排除して。サライアン王家は政治の手腕がふるわない者達ばかりであった事や、その尻ぬぐいに、マリアンヌ王太子妃が日々奔走していた事。そして有名な転生の儀式は、美談として尊ばれるような物でも無かった事を知っています。
儀式に必要なのは、一人の人間の四肢と苦痛の喘ぎ。切れ味の悪い斧で痛めつけられ、マリアンヌ王太子妃は、この世の全てを呪うような形相で目を大きく開いたまま亡くなっていたそうですね」
そうだ。あまりの苦痛と、レイモンドの身勝手な行いに、俺は最後の時恨みの言葉を吐き続けた。とっくに意識を失い事切れても良いはずだったのに、不思議な事に、俺は四肢を切り離されるまで死ぬ事ができず、意識もハッキリとしたままだった。火を灯してもいない祭壇が煌々と光るのを見て、禁術は真に為されるのだと痛みの中で理解した。
「愛し合っているはずの夫妻は、とても離れた場所で亡くなっていたそうです。レイモンドは、部屋の隅に逃げるようにして、毒薬を二人分飲み尽くし、怯えたように自分の身体を抱いて爪を噛み、恐怖と絶望の顔のまま事切れていた。失禁もしていたそうですよ。おかしいですよね。夫妻の持っていた毒薬は、優しい毒だと聞いています。それなのに、なぜ毒を飲んだレイモンドがそんなに怯えていたのか。マリアンヌから逃げるように部屋の隅で死んだのか。状況から察するに、仲違いをしたのだろうと、当時の記録に残っていました。これは正確な歴史ですか?マリアンヌ」
「ははは!そうか!あいつ怯えて死んだのか!そりゃ良い!」
思わず大きく笑いが漏れた。
モルディオ殿下が得意げに話す悲劇の物語だが、ある事については誰にも話していなかった。自伝も全て読み上げたが、書かれていなかった。届かなかったのかもしれないと思った。苦痛に苛まれながら叫んだマリアンヌの言葉だ。人の言葉を為しておらずに、レイモンドの耳には届かなかったのではと思った。
しかし、レイモンドは聞いていた。聞いていて、怯え、死んだ。
「だから、俺をマリアンヌとは認めたく無いのか。さぞ怖かっただろうな。俺という大男を見て絶望の顔をしたのは、聞いていたからか」
「なんです?是非教えてください。楽しそうだ」
わくわくと知的好奇心に溢れた顔で、美しきフランネル殿下が言う。人の凄惨な末路を嬉々として本人に聞きたがるこの美しい男は、なんて悪い男だ。そうでなければ、己の立太子の為に他国を侵略しようとはしないだろう。当然といえば当然。
「あの時、儀式を何かが見守っている事を知ったマリアンヌは、苦痛の声で願ったんだ。生まれ変われるなら、大男になりたいと。そうして、自分を苦しめたこのレイモンドの生まれ変わりを八つ裂きにしてやりたいと。願いを叶えてくれるなら、レイモンドの四肢と苦痛の喘ぎを捧げるからと」
「ふふ」
美しい顔で小さくフランネル殿下が笑う。いい男だなぁ。
「髪は染めなくて良い。初めて会った時の、あんたの桃色の髪も気に入ってた。それより俺は、髪を指で梳きたいんだ。指通りの良い髪が好きだ。染められたら、髪がきしむから良くない」
「なるほど、ではそう致しましょう」
快く頷いたフランネル殿下は、そのまま続けた。
「切れ味の悪い斧も、ご入り用ですか?」
◇◇◇◇◇
ヴァイス辺境伯に切り捨てられたサジェスタは、急速に国力を堕としていった。ほんの数年で時代の激流に呑まれるように、ガーデナリティ王国に取り込まれ、属国となったのちにしばらくして国名を失った。
不要となったサジェスタ王家の行方など、歴史学者しか興味を持たない。そうなってようやく、俺はモルディオと再会した。
小さな逃げ場の無い部屋で、俺と対峙させられたモルディオは、最初こそ怯えた顔を見せたが、なんとか取り繕うようにして笑みを向けてくる。
「あ、会いたかったぞ!マリアンヌ!ああ!僕の最愛の妻!抱きしめてあげるから、こちらにおいで!」
「本物のマリアンヌはどうしたんです?俺は偽物なんでしょう?」
尋ねてやれば、モルディオは焦るように言葉を並べ立てた。
「いや、違うんだ!誤解があった!あれはただの卑しい平民の女だった!僕は騙されていたんだよ!あの女は、マリアンヌの紅茶を淹れる事もできないし、所作もガサツで、マリアンヌには似ても似つかなかった!なぜあんな女をマリアンヌだなんて思ったのか!僕は恥ずかしいよ!でもようやく真実が解ったんだ!ライリーこそ本物のマリアンヌ!悲しい想いをさせて悪かったね。これから愛を持って償っていくとも!だからどうか許してくれるね?マリアンヌは、いつだって僕を愛してくれたものね?どんな失態を犯しても、君は僕を許し愛して助けてくれた!だから今回だって!そうだろう!?」
「そうですねぇ……」
俺の顔には笑みが浮かんでいるのだろう。モルディオはホッと安堵したように表情を緩ませた。俺の笑みは、許しの笑み等では無いというのに。
「今世に生まれ変わって、あんたがマリアンヌを必死に探している姿を見て、危うく絆されかける所だった。つくづく俺は、男の趣味が悪い。あんな事をされたのに、今世ではやり直せるかもと僅かに思ってしまったんだ。だからあの日生徒会室で、あんたに打ち明けてしまった」
「そう、そうか!やり直そう!マリアンヌ!今世では共にあり、末永く幸せになろう!前世では為し得なかった事を今世で叶えるんだ!」
「あんたが俺を拒絶してくれて良かった。そうで無かったら、俺は愚かなままあんたを再び愛してしまっただろうな。何せ、悪い男が俺を愛してくれるのが好きなもんだからさ」
「え、あ、いや、きょ、拒絶は、していない……っ。ただ、確かめたかっただけ、なんだ。マリアンヌを愛しているから……っ。確認が必要だっただけなんだ…!」
モルディオの息が荒くなっていく。たらりと鼻水が垂れ、瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。
「俺ね、結婚したんだよ。フランネル王太子と。この場合、俺の立場はなんて呼ぶのか、未だに決まってなくてさ。王太子妃ではおかしいだろうし。王太子配が今のところ有力だけど、呼びづらいんだよな。まあそんな悩みも、あと少しで無くなる。フランネルが王位を継ぐ日が決まったからな。そうなれば俺は王配だ」
「けっ…こ…、あ、そんな、王配…。で、でも、じゃあ、僕は…。そ、そうだ、愛人に、愛人になろう!すれ違いから、マリアンヌとの結婚が叶わなかったのは残念だが、僕は愛人の立場でも受け入れるよ!マリアンヌを愛しているから!き、君と共にあれるなら!どんな形でも僕は…!」
とうとう涙を零しながら、モルディオが言い募った時、小さな部屋の一つしかない扉が開く。
「滑稽な事を言うのは止めてくれないか。愛人なんて認めないよ。私の伴侶には、私と同様に、配偶者だけを愛してくれる者を望んでいるんだ。だからこそ、駄目な夫を見捨てずに愛し抜いた王太子妃マリアンヌに興味を持った。ライリー、君はマリアンヌであった頃のように、夫である私だけを愛してくれるよね?」
桃色の髪をサラサラと揺らしながら、フランネルは笑顔で言う。
「もちろん。今世の愛する男は、あんただけだよ、フランネル」
「ふふ。聞くまでも無かったな。さぁ、愛しの伴侶へこれを」
そっと渡されたのは、刃こぼれした斧。何やら可愛らしいリボンがついている……。
ドシャリとモルディオが崩れ落ちた音がした。彼の股間が濡れて、床に尿が広がっていくのが見える。
「マリ、アン…ヌ、ゆ、ゆる…ゆるし…ごめ、ごめんな、さい、ゆるし、て、ゆるし…」
爪を噛みながら、グラグラと視線を揺らし、身体を震わせ、消え入りそうな声で許しを請うモルディオ。レイモンドの最期も、こんな風に怯えたのだろうか。
「これを忘れてはいけないね。契約は果たされなければ」
小さな部屋を更に小さくさせる、不自然な布のかかった置物。それに手を伸ばして、フランネルは一気に布を剥ぎ取った。
「ぎいいいいい!!!!!」
虫のような悲鳴を大きく上げて、モルディオは部屋の隅へ這いずって逃げる。
布の下から現れたのは、歴史書を読みあさり解読して、フランネルが再現してくれたあの祭壇だ。
「や゙め゙でっ゙!ごべん゙な゙ざい゙!!マ゙イ゙ア゙ン゙ヌ゙!!ラ゙イ゙リ゙ィ゙ィ゙ィ゙!!!ゆ゙る゙ぢでぇ゙!!」
「おかしな話だな。マリアンヌには痛い思いをさせておいて、自分は嫌なのか?そもそも、あれって、捧げるのはレイモンドの四肢でも良かったろう?なんで迷う事無くマリアンヌに斧を振り下ろしたんだ?愛してるなら、マリアンヌに斧を渡して、自分を傷つけさせようとは思わなかったのか?そうしてくれたら、きっとマリアンヌは、自分が犠牲になりますと健気に言っただろうに。恨みもせず、愚かな俺は、レイモンドを愛したまま身を捧げただろうに。そんな事もしてくれないくらい、レイモンドは結局のところ、マリアンヌを愛していなかったんだろう?」
「ぢがっ゙!あ゙、あ゙い゙じでま゙ずぅ゙!だから゙!だずげでぇ゙!い゙だい゙の゙や゙だあ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「困った元旦那様だな」
漏れる苦笑は、モルディオへ向けてというより、俺自身に呆れてしまって。こんな男を愛してしまうような、自分の好みはろくなモンじゃ無いと。
きっとそれは、今世で決めたたった一人の相手だって当てはまる。
花でも飛ばしているのかと思うほど、にこやかに穏やかに笑みを絶やさず、愛しそうに俺を見つめるフランネルに一度視線を向けてから、モルディオへ向き直った。斧を振り上げると、祭壇は煌々と光り輝いた。
◇◇◇◇◇
「そういえば、マリアンヌ役のあの少女はどうしたんだ?姿をみかけねぇな」
「あれは、ガーデナリティに不要な血だから、とっくに片付けたよ。ライリーが気にするなんて思わなかったな。残しておいた方が良かったのかい?」
ベッドの上で、桃色の髪を俺に梳かれながら、フランネルは驚いたように言う。
「いや、そういう意味じゃ無い。髪の色が、フランネルに似てんなぁって印象深かっただけなんだ」
パーティー会場で初めて彼女を見た時、ぼんやりと眺めながら、フランネルが送り込んだ女だろうなぁと考えていた。
工作員かと思ったが、不要な血族を共に始末したかっただけか。モルディオが彼女について、所作がガサツだと言っていたが、落胤関係だろうか。
なんにせよ、居ない者の事を考えても仕方ない。
「可愛いなぁ……。私の伴侶は世界一可愛い……」
フランネルの呟きが俺の耳へ届く。うっとりとした顔で頬を染めて、こんな大男へ「可愛い」とのたまう。
「やっぱ、あんたも趣味悪ぃよ」
趣味が悪い伴侶同士、今世は末永く愛し合えるだろう。愛しくなって、フランネルへキスを落とした。
end
元旦那は切り捨てました……物理的に…