最終章邪馬国編シーン65
『クククッ……ようやくここまできたようだな。』
俺達を見てそう言い放ったのは恐ろしい程の存在感と威圧感……一度声を聞いた事からコイツがあの魔王ゼルドリスだという事を認識する。
すると男の全貌が光に照らされ見えてくる。
それは魔王とはかけ離れた出で立ち…なんと研究員の様な白衣を着こなしドカッと玉座に深々と座る男の姿だった。
「お前が……魔王ゼルドリス…………。」
俺はそう言葉にする。
するとカルマは涙を零れさせ…身体を震わせ叫ぶ。
「パパ!!!!!?????」
「なにっ!!!???」
俺はカルマの確かな声を耳にする。
今ここにいる時点でこうなる事は分かってはいた事だったが……やはりそうだったんだ……とカルマが魔王の娘だと実感した瞬間だった。
すると魔王ゼルドリスはゆっくりと顔を上げ口を開く。
『今の名は…カルマだったな……そして我が娘……本来の名では、あかり………よくぞここまで…きたな。』
「パパ………………………どうして?それに……ママはどうしたの?」
男の声に声を震わせ問いかけるカルマ。
あかりと言うのはカルマの本当の名前なのだろう……俺は二人の会話をじっと聞く。
すると…しばしの沈黙の後…再び口を開く魔王ゼルドリス。
『お前の母である月子がお前達をここまで導いたのだろう?』
「えっ!?それって…どういう事?ママが私達をここに?」
『クククッ…まあいい……アイツがここにお前達を導いた……その答えはこの私にも分かっている……』
「どういう事なの?パパ!?」
すると余裕の表情で応えるゼルドリス。
『この俺とお前……あかりを再会させ…この俺の野望を止めてくれる事を願っての行動…それがお前の母である月子の願いなのだろうな。』
「えっ!?」
「いいか?あかり……なぜこの俺が今こうして月世界にいると思う?」
そう魔王ゼルドリス……いや、カルマの父は問いかける。
「私には分からないよ……それはなんなの!?」
『ククッ……クックック……アッハッハッハーーー!!楽しいなあああーーーーーーーっ!?』
大笑いし…そう答える魔王ゼルドリス。
すると奴は続ける。
「いいか?この私は元の世界でとある『ゲーム』を開発した…すると…後で知った事だが、そのゲームの世界は思いがけなくこの異世界と共通点が多かったのだ……そして突然二つの世界はリンクする……するとどうだ……この私は異世界に召喚された……と同時に私は世界の魔王という存在になっていた…私は突然膨大な魔力と力を手にしたのだ…こうなった私はこの世界を自由にする事を可能としたのだ……そうだろう?魔王の力を好き放題し放題なのだ…そんな事が出来る者などどの世界にも存在しないのだぞ!?こんな事楽しくて仕方がないだろう?」
笑いながらそう声にする魔王ゼルドリス。
「これは!?本当にこいつ…カルマの親父なのか?」
「ううん……クロノ……この人はパパなんかじゃないわ…この状況からするとパパの身体を利用した魔王なのかもしれない。」
俺は改めて魔王の様子を見るとやはりその目には普通ではない違和感を感じたんだ。
「きっとそうだよな?……カルマの親父を操ってるんだろう?離れろよ!!魔王ゼルドリス!!」
俺の叫びにニヤつく男。
『フン……貴様が……以前の私を倒したあの憎き勇者の生まれ変わりの転生者なのだろう?』
「それがどうした!?」
俺はゼルドリスに苛立ちの声を上げる。
すると奴は微笑み続ける。
『貴様も私同様、この世界で手にしたその力を自在に扱い、そして人々を自分の自由自在に使ってみたいとは思わないかね?』
「は!?何言ってんだ?さすが魔王だな…てめえの腹は心底腐ってるぞ。」
俺はそう返す……するとゼルドリスは笑みを浮かべたまま続ける。
『お前が幼き頃はどうだった?夢はあったか?初めは自分から見える世界は小さく……そして自分にも力などはなかったハズだ……だが…親なり身近な人々はお前に期待をする……幼い頃は自分は何でもできると錯覚する……だが、成長するにしたがい…自分の限界を知る……そう……皆がそうなっていくのだ…そしてこれでいい……自分はこれでいいんだ……と思いながら結婚し子を産み我が子に自分の思いを託す……そして人間は次に自身の夢と未来を繋いでいく…まあこれが一般的な生物の一生だ…そんなつまらん一生で貴様は本当に後悔しないのか?』
ゼルドリスの俺への問いかけ…俺はそんな質問などに全く興味がない。
「知るかよ……俺は好きに生きてるだけだ。」
「そうだろう?だが、その好きに生きるにはその力があれば…もっと自分の欲望というものを抑えることなく人を従えさせ自分の思い通りの世界を作れるのだぞ?どうだ?魅力的な話だろう?」
俺にそんな話をしてくるゼルドリス。
魔王は何を俺に求めてるんだ。
『クククッ…さあこの私と共にこい…勇者クロノよ……この世界を共に好きに笑いながら自在に操っていこうではないか!?』
俺に交渉してきてるのだろうか。
そんな俺とゼルドリスをじっと見ているカルマ。
「クロノ…………………………」
「カルマ……お前の親父はとても素晴らしい父親で誰にでも優しくて温かな人だったって前に言ってたよな?」
「う………うん……………。」
俺の問にそう返すカルマ。
「なら…………………」
俺は魔神具を構える。
「魔王ゼルドリス…お前とは…交渉決裂だ…………」
『なんだと!?』
「お前はカルマの父親なんかじゃない……俺が本当のカルマの親父を取り戻してやる……覚悟しろ………魔王。」
「ゼルドリス!!!???」
俺の最終決戦は、こうして…はじまったんだ。
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