ブラズール世界編シーン70
俺の力の全てを奪いにきた魔神ベルゼブブ。
対する俺と雷武の闘気の対決はクライマックスを迎えようとしていた。
奴から感じるあの巨大な魔力は魔王さながら…実力は本物だといえよう。
俺は奴の魔力に押されながらも自分に言い聞かせる。
すると。
俺の脳裏に誰かの声が聞こえてくる。
『勇者……クロノよ。』
『その声は……ドワーフ王……『ドワフロス』…アンタか。』
『そうだ…今はお前のその魔神具へと姿を変えたがな。』
『ああ…でもその生命と引き換えに作ってもらった、この魔神具にまだ慣れていなくてさ。』
すると…魔神具となった彼は更に続ける。
『お前の為に打ったこの魔神具…その力はこれまで以上の力を秘めている…だがその分…取り扱いは更に難しくなっているハズだ…理由は魔石の元が純粋な生物であったこの俺だからなのだ…俺の魂の力の主張が激しい為お前は苦戦している。』
『それってどうすれば解決できるんだ!?』
俺はそう問いかける。
すると。
『それはな……お前がこの俺の魂を支配しなければならない。』
『魂を………支配……?』
『ああ……今はこのお前の魔神具は魔神具となった俺自身の思い……そう…このドワーフ王ドワフロスがこのブラズールの地を守ろうという思いが強くこの魔神具に込められている…クロノ…お前自身がその気持ちを超えなければ魔神具は百パーセントの力を発揮してはくれない…皆を見ろ…この地を守ろうとあの強大な魔族達と戦っているのだ。』
俺は辺りを視界に入れる。
エルフィーナ初めエルフ達。
消えたドワーフ王の後任を授かった新ドワーフ王『ドワライド』と仲間の戦うドワーフ達。
そして、カルマとエンポリオ、イシメール、 テンテンに、サキノまで…今は皆この地ブラズールの為に戦っている。
誰一人まだ諦めてはいないんだ。
俺は。
ドウーーーーーーーーーーッと再び俺の中で何かが弾ける。
「「クロノ君!!???」」
「クロノーーーーーーーーーーーーーっ!?」
◇
俺の心静かに無の世界に入っていた。
皆の声。
そしてサキノの声が俺の名を呼んでいる。
仲間達の温かい魔力を肌に感じる。
皆……俺は。
俺は………奴…ブラズール王ラファエルを倒したい。
ドクン…ドクンドクン……と俺は鼓動を全身に感じる。
俺の手にはドワフロスではなく……魔神具の力を静かに感じはじめる。
グッと握る新しい魔神具である刀『真打ち刀…武神』。
そして俺の背後には魔神具と繋がる強大な力……雷武がいる。
俺は…すーーーっと目を開けていく。
激しい力を秘めていた刀から激しくエネルギーが放出されていく。
「おおおっ!!???」
その力の激しい力を俺は全身で抑え込む。
すると、俺に更に語りかけてくる声があった。
『お兄さん……さあ僕がついてるからさ。』
『ん!?ヘキサ!?』
『そうそう…覚えていてくれたんだね…』
『当たり前だ!!忘れるもんか!?』
『うん……ありがとう…お兄さんが復活出来てよかったよ。』
『ああ……俺が魔神具を壊されて記憶を失っていた時…魔神…雷武を失わず俺の生命まで守ってくれていたのはお前が俺にずっと力を分けてくれていたからだろ!?』
『あはは…知ってたんだ?』
『当たり前だろ?どうして俺の為にそこまでしてくれていたんだ!?お前だってそんな事をしたら力を失うかもしれなかっただろ!?』
『そうだね……でもね…僕は聖獣……世界の秩序を守る存在なんだ…世界の秩序を破壊しようとしている魔族達に勝手な事を許す訳にはいかないんだよ。』
『ヘキサ………』
『さあお兄さん……激しい力を得たようだけど今はまだ足りない部分があると思う……だから僕が。』
すると不思議な事に俺の力は収縮していく。
『さあ…いくよお兄さん……今は僕も雷武ちゃんをコントロールする力になるから。』
どおおおおーーーーーーーーーーんっと魔神具に力は集う。
「うおおおおおーーーーーーーーーーっ!?」
俺は叫ぶと同時にだっと地を蹴り跳ねる。
それはまるで俺の身体が獣人化したように。
「クロノ!?」
「クロノ君!?」
『なにっ!?その動きは!?くっ……ベルゼブブ!?』
ベルゼブブが再び黒雲を吐き出す。
次の瞬間、俺の刃がラファエルの魔神具と激しく衝突する。
『ぐっ!?あのデタラメな力を使いこなしただと!?ぐあっ!?』
どんっとラファエルの身体は吹き飛び壁に激突する。
『がはっ!?くそっ!?ベルゼブブ!?』
するとベルゼブブはピタリとその動きを止める。
『ぐっ!?今度はなんだ!?なぜベルゼブブが!?はっ!?』
俺は魔神具を握り返すとラファエルの元に歩き始める。
その瞬間ラファエルは恐怖を思い出したかのように怯え取り乱す。
ラファエルの視線は刀身から姿を見せた魔神雷武に向けられている。
『クククッ…俺様の前では…いかなる魔族も恐怖に怯えその動きを止める。』
雷武はそう告げると再び刀の刀身へと消えていく。
俺は再び刀を握り直す。
「さあ……終わりだ………ラファエル。」
『グッ!?俺様はまだまだ生きて魔王を越えてこの世界の支配者となるのだーーーーーー!?』
その瞬間ベルゼブブに爆発的な力が宿る。
『ベルゼブブ!!??デスフライ!?』
奴に対して俺の身体にヘキサの力が重なってくる。
『ヘキサ。』
『お兄さん……いこう…僕と一緒に。』
俺の全身にヘキサを感じる。
自分の容姿もヘキサと同じ赤い髪になり身体も一回り小さくなり軽く感じ…不思議な変化を感じていた。
これは俺が聖獣ヘキサと同化した事を意味していたのだろう。
そして……俺は再び魔神具を構える。
ベルゼブブの黒い闇は俺に襲いかかってくる。
スーッと身体の外に流れていく黒い闇。
『な!?なぜ!?なぜお前にデスフライが届かない!?』
『今の俺は聖獣ヘキサと一緒だ…聖獣の力が俺を護ってくれる。』
『お兄さん…そうだよ…僕はお兄さんと一緒…僕はお兄さんを傷つけさせないから。』
『ヘキサ……さんきゅ。』
俺は魔神具を構え直す。
そしてタンっと地を蹴る。
更にヘキサの力で俺のスピードは増す。
俺は加速しながらラファエルに斬りかかっていく。
『武神流……獣人共撃『獣竜…獣炎竜』』
「なにいいいーーーーーーーっ!?」
ズババババーーーーーーーーーーーっと斬り裂かれるラファエル。
「うぎゃあああーーーーーーーーーーっ!?」
奴の絶叫が響き渡る。
そして……奴はサラサラ消えゆき………。
この世界から消え去ったんだ。
すると…神樹内部へ光が射し込んでいた。
見上げるとぽっかりと空いた神樹の天には。
数百年ぶりの青空が広がっていたんだ。
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