ブラズール世界編シーン59
「エンポリオ君っ!?」
私はエンポリオ君の元に駆け寄った。
私の為に、あんなにボロボロになりながらも戦ってくれた彼。
エンポリオ君の傍に着くと膝をつき彼の身体を見ていく。
血だらけでボロボロの彼の身体に私は何かをしなきゃと考えるも私はイシメール君程の治癒力は自分にない事が悔しかった。
するとエンポリオ君が手を上げていく。
「エンポリオ……君?」
私の目からは涙が溢れ出し止まらない。
彼の手が優しく私の頬に触れる。
「カルマさん…そんな顔……しないでよ。」
「エンポリオ君。」
「あはは…僕は…こんなにボロボロで、容姿だっていいわけじゃない…でもそんな僕にとって……君の笑顔が最高の癒しなんだ」
いつも笑顔でこう言ってくれるエンポリオ君。
彼はやっぱり私の中で凄く大きな存在になっていた。
すると。
『がはっ!?ぐうううっ……………………』
そう声を上げたのはエンポリオ君の攻撃でボロボロになり消えていったと思っていた動けなくなってしまった颯さんだったの。
目を向けると颯さんの隣りに倒れサラサラとその身体が消えかけている魔神韋駄天の姿があったの。
「颯……さん………。」
「くくく……なんて事だ……この僕の魔神がこんなにも……ダメージを受けたのは初めてだ。」
「颯さん……どうして……こんな事。」
私は颯さんの変化に疑問を持っていたの。
『ん?何がだ?』
「私に一緒にくれば両親に会わせてくれると言ってくれたあの話は嘘だったんですか?」
私は一番の疑問を投げかけていた。
それは私を誘った、あの時の彼は今とは違う雰囲気を持っていたからだったの。
そう…あの時は私が知っていた優しい彼そのものだったから。
すると颯さんは弱々しく語ってくれたの。
『ああ……もうここまでになってしまったんだ…全てを話そう。』
◇
◇
◇
僕がこの世界に迷い込んだのは…僕達の会社で作り上げたあるアプリが発端だった。
そう……カルマ……君の父も加えた僕達のチームアプリ。
『ライブアライブオンライン』
そう…この世界と僕達の世界を繋いだゲームアプリ。
僕達の会社は偶然そんなアプリを作り上げてしまったんだ。
そしてこの僕もまたゲームを試している最中に吸い込まれるように気がつくとこの世界にきていたのだ。
この事に気づいた僕は知人…そう、会社の誰かも僕のようにこの世界にいるのではないか?
そう思い探し始めたのだ。
僕が気づいた時に手にしていたのは僕の魔神具…韋駄天だった。
そして僕は魔神韋駄天と共にこの世界をまわった……すると僕が出会ったのは沢山の魔族だった。
初めはなんだろう?と思っていたが…僕はすぐに理解できた……そう…この世界のこの力と設定は僕達が作り上げた世界そのものだったからだ。そんな僕はこの力で自由にこの世界に関わり始めた。
だが…上には上がいるものでね。
僕はこの世界の魔王ゼルドリスと出会ったんだ。
この世界の覇者ともいえるこの大魔王…僕は無謀にも戦いを挑みそして負けた。
消えかけた僕。
ところが魔王は僕に更なる力を与え…生かしたんだ。
それ以降僕は魔王ゼルドリスの手足として動いた。
だが……なんと魔王ゼルドリスは奇しくも現れた勇者により討伐されてしまった。
そして…他の魔物、魔神達も勇者によって魔神具へと変えられていった。
だが僕は…この韋駄天の力で勇者からなんとか逃げ切り…静かに回復を待ったのだ。
そして長い時をこの世界で待ち続け…カルマ…君がこの世界に来た事を知り僕は再び…姿を現したんだ。
気がつくと僕はその足で魔王ゼルドリスを復活させていた。
そう…それは魔王ゼルドリスの驚異的な能力によるもの……。
僕は操られるように魔王ゼルドリスを復活させた。
「えっ!?それじゃあ颯さんのこれまでの事は魔王ゼルドリスに操られていたって事?」
「ああ…魔王はこの僕に力を与えた時に僕を内部から洗脳した。そして僕はあっけばく魔王の奴隷となった…その力は魔王が倒されても効果は続いた…僕は魔王ゼルドリスを復活させ…現在に至ったという訳だ。」
「颯さん………」
「そんな悲しそうな顔をするんじゃない……僕はもう疲れたんだ……僕は君の知ってるように現代に生きる普通の人間だ…マジェストになってしまってここまで強力な魔神を従えていたんだ…僕の身体がただで済む訳はないんだ。」
するとエンポリオ君は颯さんの身体を背負おうとしていたの。
「んぐぐ…」
「なっ!?貴様……僕に触るな!!」
「嫌だ……」
「なぜだ!?この僕はお前を殺そうとしていたんだぞ!?」
「関係ない!!僕だって貴方は嫌いだ!!でも…僕はカルマさんの涙は見たくないんだ!!」
「くっ……そうか……もう大丈夫だ……エンポリオと言ったな?」
「くっ!?何がだ……傷が開く!大人しく……えっ!?」
その時。
『我に逆らう逆賊は…死ね。』
空間に何かの恐るべき気配を感じる。
『韋駄天!!!最後の命令だ!!二人を逃がせーーーーーーーーーーーーーーー!?』
ズシャアアアーーーーーーーーーーーッという激しい音。
そして私達は気を失っていた。
見えない空間に浮かんでいる感覚。
感じるのはエンポリオ君の私の手を握る温かさ。
私達は二人。
不思議な空間の中に漂っていたの。
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お読み下さりありがとうございました。




