チェンウォン世界編シーン61
俺は意識が戻ってくる。
『あれ?ここは!?』
俺の視界に見えていたのは不思議な渓谷。
俺は渓谷を見下ろしその空間に浮いていたんだ。
すると。
『お兄さん……』
『クロノ!?』
後ろから声をかけられ俺が振り返ると。
そこにはなんと。
ヘキサと…そしてラブラがふわふわと浮いていたんだ。
『あれ?二人ともこんな所でどうしたんだ?』
俺がそう声をかけると。
『ロンレイ様と…そして…ヤシュア様が……亡くなったよ。』
『えっ!?』
ラブラのその声に俺はさーっと血の気がひいていった気がする。
『それは……本当の事……なのか!?』
二人は俺をじっと見て…頷く。
『そうか……ロンレイってじいさんは話した事なかったけど……ヤシュア…………。』
俺の中に何か熱いものが込み上げてくる気がした。
すると、ラブラが口を開く。
『ロンレイ様はもちろんの事…ヤシュア様を絶命させたその怪物は…クロノちゃんが倒してくれたあの『檮杌』をも上回る…世界の全てを喰らい尽くすと言われる怪物なの…。』
『くっ!?なら!!今すぐにでも起こしてくれよ!?俺が行かなきゃ!?俺がやらないと!?』
俺はその場から離れようと動き出そうとする。
すると俺の目の前で人差し指を立てるラブラ。
『ラブラ!!なに馬鹿な事してんだよ!?邪魔するなよ!?』
『チッチッチッ……クロノちゃん…今の君には饕餮には敵わない……。』
するとヘキサは宙に何かを掘り投げる。
それは次第に大きくなりあの饕餮と仲間たちの様子を映し出す。
『お兄さん…これを見て。』
皆が饕餮と激しい戦いを繰り広げていた。
そこには、なんとあの鉄星とリオの姿もあったんだ。
『鉄星……リオ。』
するとヘキサが口を開く。
『リオちゃんと鉄星は先にあの怪物饕餮と一戦交えたようだね…そして追いかけてきたみたい。』
『そう……だったのか。』
『そう…お兄さんが寝ていた時…あの場にいた者達は聞いていたはずだけど、元々…あの悪神四柱を遙か昔、封じたのはロンレイ様、ヤシュア様…そしてあの鉄星の祖先達だったのです。』
『なんだって!?』
『そう…だから、復活した四柱達は恨みでもあるが為、本能のままロンレイ様初め三人の子孫達を襲い始めたの。』
『そういう事だったのか。』
『そう…でもね…三悪神は皆のおかげで倒したけど…饕餮…奴をこのまま放置しておけばこの世界までいずれ滅んでしまうわ。』
下界の様子に目を向けると饕餮はその力を振るい暴れていたのだ。
だけれど…リオ、鉄星を加えたメンバーではいい勝負を繰り広げていたんだ。
『あの力は…リオも鉄星も大会の時より力が増してる気がするな…カルマ達も皆いい勝負をしてる…これなら今の俺が行ったら倒せるんじゃないか!?』
俺の目にもそう映った皆の戦い。
すると、ラブラが口を開く。
『そうね…今のままなら……ね。』
『ん?どういう事だ?』
『悪神最後の一人……饕餮……奴がなぜ…あの化け物三悪神をその配下に置いていられたのか……その理由……クロノちゃんには、きっと分かるはず…肌でよく感じてみて。』
『ん……どういう事なんだ…一体。』
俺は五感をフルに活用する為、意識を饕餮に集中させていく。
すると。
ゾクッと悪寒が全身に走る感覚。
一瞬で全身から冷や汗が湧き出してくるその感覚。
俺達…そしてこの世界はこんなにも恐ろしい悪神に狙われたのか!?
と、感じずにはいられなかった。
『これは。』
『クロノちゃん……これで分かったかな?』
『ああ……確かに……こんな化け物だったとはな…今はまだあの深い力を隠してるみたいだけど。』
『そう……私達は饕餮のそれを感じてしまったの…だから残ってるメンバーの中で饕餮の攻撃になんとか耐えれるかも知れない魔神の力を手にした鉄星達が向かって来てくれた事が分かった私達はそれを待って今…こうしてクロノちゃんをここへ連れてきたって事。』
『なるほど…鉄星達はそんなに!?』
『ええ…鉄星はあのリオちゃんの父が使役していた古代三大魔神の一人『エレファモス』を手にしたわ。』
『おお…確かにそれは凄いな。』
俺はその事実に驚いていた。
『だからね…これからクロノちゃん達には更に強くなってもらうわ。』
『何っ!?そんな事が可能なのか!?』
『ここチェンウォンには古くから仙神様達が棲んでいるの。』
ラブラがそういうと。
ぱーーーっと光と共に姿を現したのは魔神『雷武』
『雷武!?』
俺の呼びかけに反応せずに雷武はラブラに問う。
『ラブラ……てめぇ……久しぶりに出てきたと思ったら俺様にも強くなれって話……なのか?』
『あーら……雷武ちゃんだって…このままでは面白くないでしょ?私には分かってるし!』
『あーーーー?……ふん……古い馴染みだ…俺様の事少しは分かってるな、この女…わーったよ。』
今では面白いようにラブラの言う通りになっている雷武。
でも、何となく俺にも分かる。
ラブラの言うように今一度俺達は強くなってやる。
そして俺達は深い谷底に辿り着いたんだ。
◇
◇
◇
お読み下さりありがとうございました。