チェンウォン世界編シーン59
カルマ視点
饕餮との激しい戦いを制したかに見えたヤシュア…だが。
「「ヤシュア様ーーーーーーーーーっ!?」」
笑みを浮かべたヤシュアの口脇からスーッと流れる血液。
そしてヤシュアの背中から腹に貫通する饕餮の伸びた黒い闇。
「ぐふっ……ガハッ!!」
ヤシュアの胃から湧き上がり吐き出した赤い鮮血。
そしてヤシュアはガクッと膝から崩れ落ちる。
「お……じいちゃーーーーーーーーーんっ!?」
サキノちゃんの悲しい叫び声。
サキノは涙をこぼしながらかけ出す。
「サキノちゃん!?」
私もヤシュア様の元に走りよっていく。
きっと誰しもが目に見えて分かるヤシュア様のダメージ。
苦しみ足掻くヤシュア様の身体はあの化け物によって貫かれているのだ。
次の瞬間。
「うおおおおーーーーーーーーーーーっ!?」
「たあああああーーーーーーーーーーっ!?」
イシメール君とエンポリオ君が饕餮に向かい攻撃体勢をとっていた。
「黒・金剛鬼力」
「黒破壊』」
二人の攻撃は黒い力となり饕餮の身体にヒットする。
ドガーーーーーーーーーーーーーーンっと饕餮の身体はヤシュアの身体から激しい攻撃により引き剥がされる。
『ぐおおおおおおっ!?』
しゅーーーーーーーーっと飛んでいく饕餮の巨大な身体。
その間に辿りついたサキノちゃんと私はヤシュア様の身体を支える。
ヤシュア様の身体には饕餮の攻撃による大きな穴が空いていた。
「ヤシュア様!!今!!」
私はヤシュア様の身体に魔法を施そうとする。
すると私の手に手を添え魔法を制止するヤシュア様。
「ヤシュア……様?」
「はあはあ……ぐっ!もう良い……ワシは……。」
「おじいちゃん!?やだよお〜〜〜またお話いっぱいしようよ。」
サキノちゃんが涙ながらにそう言葉にする。
「そうです!ヤシュア様!!私の両親探してくださるんですよね!?まだ…叶って……ませんよ?ううっ。」
私の目からも熱いものが込み上げてくる。
思えば、この世界に来て……絶望の縁にいた私に優しくしてくれて…私の力になってくれたヤシュア様。
その中でクロノまで世界に呼んでくれて…そしてこうしてサキノちゃんを加えて。
初めは四人で旅を始めたのよね。
ヤシュア様は陽気でお酒が大好きな人でいつもほろ酔いで…でも…彼の魔神具である笛は彼の天性の素晴らしい音色を聞かせてくれた。
何故か今この時になってヤシュア様との思い出が沢山蘇ってくる。
隣りで泣きじゃくるサキノちゃん。
彼女も本当のおじいちゃんの様にずっと楽しそうに笑いあっていた。
私にもそんな仲睦まじい二人の笑顔しか思い出せない。
私達をアメリスアードで見送ってからのヤシュア様はこのチェンウォンでのこの戦いもきっと予想されていたのだろう。
そしてヤシュア様は本当に世界から必要とされていた存在だった。
ヤシュア様の最後を感じたここにいる皆々が涙を浮かべていた。
その時。
ガガガとヘッドホンから聞こえてきたのはアメリスアードの面々からの声だった。
「ヤシュア様ーーーーーーーーーーっ!?」
「ちょっと!私が先よ!?レイド!?ヤシュア様!?」
「ちっ!?じいさん!?今から俺達もそこに行く…だから死なずに待ってろ!!??」
相変わらずの三人の声。
苦しそうな表情にもヤシュア様はニヤリと笑みを浮かべる。
そしてヤシュア様はゆっくりと言葉をつぐむ。
「ヤシュア様!?」
「皆の者……良いか……ワシの最後の話を聞いてくれ…。」
私達はじっとヤシュア様の言葉を待つ。
「人生の流れには…人それぞれ色々ある……楽しい時間、苦しい時間、悲しい時間…そしてそれには人間必ず寿命というものもある……ワシの寿命というものが今ここで終わるというだけじゃ……」
「ヤシュア様!?」
「おじぃちゃん!?」
「皆………サキノ……ワシはサキノからも強さというものを教えてもらった…人間…強さとは……力だけではない強さというものを教えてもらった…ありがとう。」
「おじいちゃあん〜〜〜」
ぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくるサキノちゃん。
「そして……カルマ……お主も来たばかりの時よりもずっと、ずっと強く成長しておる…そしてこれからのお主の為に…我が世界のマジェスト協会は…ワシなき後はあのアキニーを中心としお前の力になるのでな。」
「ヤシュア様!?なんとそこまで!?」
私にそう伝えてくれたヤシュア様。
彼のその人物の大きさに私も涙が止まらなかった。
するとヤシュア様は天を見上げる。
「クロノ……きっとお前は。」
「「えっ!?」」
皆がヤシュア様の言葉に驚きを隠せなかった。
そしてヤシュア様は呟く。
「ワシは酒が好きじゃ…この世界が好きじゃ…そして世界で笑顔で生きている人々が好きじゃ……その人々の笑顔を……皆の者………頼む。」
そしてヤシュア様は。
すーーーーーーっとその眼をとじていったの。
「「ヤシュア様ーーーーーーーーー!?」」
そして皆の叫び声が辺りにずっとこだましたのだった。
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お読み下さりありがとうございました。