チェンウォン世界編シーン58
ヤシュア様の一撃が暗闇に潜む饕餮の身体を捉える。
『ぐえええーーーーーーーっ!?がはっ!!』
暗闇の空間が歪み…そこに滞空していた饕餮の身体の一部一部が空間に姿を見せていく。
それはヤシュアの魔神トーンウイングによる饕餮への超攻撃によるもの。
すると……巨大な悪鬼が口を開く。
『はあはあ……貴様。』
「貴様らの罪はこれくらいで晴らされると思うな…怪物め。」
『なに……っ………。』
ヤシュア様の力が更に溢れ出す。
ヤシュア様の風の力は彼自身の髪、そして衣服を靡かせる。
「さあ…ワシの力を解放しようじゃあないか。」
「ヤシュア様!?」
私の呼びかけにヤシュア様の身体は光り輝いていた。
『ジジイ……何をするつもりだ。』
「饕餮よ……貴様が大いなる力を持っている事は分かっておる…だがこのワシも世界を守る為に戦い続けてきた…今こそ、この力を示すその時がきたのだ。」
『見せて見やがれ…ジジイ。』
「まずはその減らず口を聞けないようにしようではないか。」
ヤシュア様は魔神具である笛を手に構える。
「はあああああーーーーーーーーーーーっ。」
ピロロローーーーーーーーっと鳴り響く音。
「トーンウイング………覚醒……限界突破。」
ヤシュア様のトーンウイングは彼の身体から飛び出していく。
そして空高く舞い上がる。
その身体は美しく緑色の光に包まれる。
神々しいその身体はまるで風の神にでもなったかのように見える。
『貴様……それは我ら神にでも本気で対抗するつもりなのか?』
「そうなのかも……知れぬのお。」
私達はヤシュア様と饕餮の戦いを見ている。
あの二人の戦いに隙などなかったのだ。
「ヤシュア様の限界突破……あんなに凄いなんて……これならあの饕餮だって。」
そう言ったのはリーファちゃんだった。
「リーファちゃん……」
「カルマさん……ヤシュア様はこの世界のマジェスト協会を束ねる始祖……きっと彼なら………。」
「だと……いいがな。」
「「えっ!?」」
私達にそう告げたハオユーはヤシュア様達を見ていた。
すると。
「はあああああーーーーーーーーーーーっ。」
ヤシュア様は先程とは全く別物、別次元の動きを見せる。
今のヤシュア様の姿は風をその身に纏い風の一部と化す身体。
それはあの饕餮ですら簡単には追えないものだった。
『ぐぬうううううう。』
「たあああああーーーーーーーーーーっ!?」
風に紛れたヤシュア様の動きは私達の肉眼でも完全に捉えきることの出来ない動き。
限界突破した事により彼はまさに『風神』と化したのだ。
次の瞬間。
ドガーーーーーーーーーーーンッと激しく衝突するヤシュア様と饕餮。
それにより激しい爆風が周囲に巻き起こる。
恩師であるロンレイ様を殺された怒りによってヤシュア様は饕餮に対抗する為…その身を神へと進化させたのかもしれない。
だが誰しもがその戦いに手出しできるものでは無かった。
それほど激しい攻防だったのだ。
バチバチと二人の攻防は更に激しさを増していく。
「何なのこの戦いは!?」
「これがロンレイ様の一番弟子…天才マジェスト…ヤシュア様の実力なのか。」
テンテンさんもジオウさんもその攻防に唖然と見ている事しか出来なかった。
でもそれは私達三人も同じだった。
「エンポリオさん……マジェスト、僕もなったばかりだけど…凄いですね?」
「うん……僕も元上司のユーロ様の限界突破も見て凄いと思ったけど、ヤシュア様…流石世界のマジェスト協会を束ねる人…その実力も本当だったね。」
ヤシュア様の実力はこれまで私もその目にしてきた…だけどこれは…この力は。
「はあああああーーーーーーーーーーっ!?」
『ジジイーーーーーーーーーーーーーっ!?』
ドガーーーーーーーーーーーンッと激しい衝突。
ギリギリと二人の魔神具が衝突する。
ヤシュア様の身体は風を纏っている。
それは饕餮の巨大な爪を受け止める。
とても人間業ではない怪物の攻撃を受け止めたヤシュアの戦い。
これは見ている者全ての人々の目に勝利を見せてくれる気がした。
皆に笑顔、そして希望の笑みが零れ始める。
そして。
「さあ……饕餮……先代達が希望としてこれまで紡いできた希望…それは四悪神の消滅…三体の消滅は叶った……残るはお主のみ……今こそ!!ワシの手でーーーーーーーーーっ!!???」
風神ヤシュアと闇の悪神饕餮の戦い。
神VS神の戦いは激しさを増す。
「くらうがよい………最終兵器……『風神』」
ヤシュアの放った風の鳳凰は姿を見せ饕餮の身体を包み刻んでいく。
トドメの一撃を放つヤシュア様。
『ぐえええーーーーーーーーーっ!!???』
その巨大な身体を刻まれ恐ろしい叫び声を上げていく饕餮。
この大地に希望が訪れたのか。
皆が歓喜の声を上げようとしたその時。
ズシャッ。
笑みを浮かべようとしたヤシュアの身体が停止した。
それを目にした皆々の笑顔は驚きの表情へと変わる。
その瞬間一斉に響き渡る声。
巨大な影がヤシュアの身体を狙う。
ヤシュアが振り返ったその時。
ヤシュアの身体は闇に食われた。
『ぐふぅ……『爆食』。』
「「ヤシュア様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
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