チェンウォン世界編シーン35
「サキノ!?」
俺はサキノの名を呼ぶ。
「お兄ちゃん……ううん……クロノ!?私と一緒に…戦って!?」
「お、おう!わかったサキノ!?」
俺の答えにニコリと微笑むサキノ。
そして視線は真っ直ぐに虎の顔をもつ恐ろしい怪物窮奇に向けられる。
すると窮奇は口を開く。
「なんだあ…俺様の飯の邪魔をするつもりか!?」
「そうよ!!この子達には指一本触れさせないわ!?」
こんなセリフを言うようになったサキノが俺には素敵に見える。
少女達を守るように構え立つサキノ。
すると窮奇はヘラヘラと笑い答える。
「ぐははははは!面白い奴だなあ…この俺様に立ち向かうというのか!!??」
「そうよ!?悪い!?」
「いや……神にも等しい力をもつ俺様相手にそんな戯言を吐く事に笑いしか浮かばんわ。」
偉そうにそう言葉にする窮奇だが確かにその力は本物なのだろう…奴からは禍々しい力を感じる。
この化け物は、はるか昔この地を蹂躙し恐怖に陥れたのだ。
ゴゴゴとその力を溜めていく窮奇。
それなら。
サキノは絵筆を握ると宙に何かを描き始める。
『ガキ…貴様……何をしてる!?』
「私はそんな名前じゃない!私はサキノ!!ここにいる大切なクロノのたった一人の恋人よ!!」
『ククク……人間とは実にくだらない感情まで持つ奴らだ…この俺はなあ…人間の笑顔…人間の希望に燃える目、人間のそういったやる気に満ちるそんな感情が大嫌いでな……吐き気が出てくるわ!?』
「なんて奴…それが素敵なんじゃない!?」
すると吐きそうな表情を浮かべいう窮奇。
「くだらん……恐怖、恐れ、そして絶望…その恐怖に恐れおののく、その感情が俺様にとっての貴様ら人間の素晴らしい感情だとしか思わん。」
するとサキノはキリッと窮奇を見据える。
「人間はね…そんなに強くないの…」
「ほお!?分かっているではないか…ならば…我を前になぜ貴様ら人間はひれ伏す事をしないのか…逆に立ち向かおうとしてるではないか?」
「ええ…でも誰かを守ろうとする強い思いがあれば……きっと強くなれると……私は思う。」
「ほう…ならばそれを証明してみればいいではないか!?」
「ええ…そうする。」
するとサキノは身構える。
その手に絵筆を携えて。
「サキノ!?」
俺はサキノのその姿に驚いていた。
「お兄ちゃん……?」
「どうした?サキノ?」
「あの敵……本当に強いと思うの…」
「ああ……それは俺も感じてる。」
俺は確かにこの窮奇の恐ろしい力を全身にビリビリと感じていたんだ。
きっとサキノも同じ…いや、俺以上に恐怖を感じていただろう。
「だからね…私が今できる最大の力を使わないと…この子達を守れないからさ。」
「ああ…」
「お兄ちゃん!?クロノ!?」
「ん?サキノどした!?」
「サキノが変わってしまって可愛くなくなっても…好きでいてくれる!?」
「えっ!?」
するとサキノは俺に近づき真剣な目を向けてくる。
「クロノ……。」
「サキノ…当たり前だろ?サキノはサキノだ。」
俺達は見つめ合う。
サキノは俺の意思を確かめてくる。
俺は真剣にサキノを見つめ応える。
サキノは微笑む。
次の瞬間。
サキノの身体から、どおーーーーーーーーーーっと爆風が吹き出す。
「サキノ!?」
「「お姉ちゃん!!???」」
少年少女達のサキノを呼ぶ声が辺りに響く。
爆風がサキノの身体を包み込む。
だが爆風の中のサキノから溢れ出す力は激しい力と化していたんだ。
『うううぅぅぅぅ。』
「サキノ!?」
サキノは激しく唸り声をあげる。
「うわあああっ!?サキノちゃん犬化しちゃったよ!?」
「どうしたヘキサ!?」
「うん……サキノちゃん獣化慣れしてないからさ?」
「ああ…何かあるのか!?」
「ううん…獣人って僕もそうだけどときどき獣化しないとその力って暴走しちゃうんだよ!?」
「そんな事があるのか!?」
「うん…サキノちゃんはあの子達を守る為に獣化しないといけなかった…だけど自分でも暴走してしまうかもって、それは分かっていたはず…。」
「そうなのか…でもそれなら普段も獣化しておけばいいのにな。」
すると難しい顔をするヘキサ。
「お兄さん…僕は獣人で人間の世界はよく分からない部分があるけどさ…きっとサキノちゃんは…」
「ん!?何か問題があるのか!?」
ため息をつき答えるヘキサ。
「はあ…お兄さん、鈍いなあ……サキノちゃんはいつも一緒にいるお兄さんに獣化した所を見られたくなかったんだよ!お兄さん……鈍感すぎなの。」
「あ…………。」
そうか、サキノ……俺の為に。
俺は…こんなに想われてたんだな。
◇
◇
◇
俺は柄を握る。
そして俺は。
◇
◇
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