ヨーロディア世界編シーン50
サキノ達の前に現れたゾンビたちは。
サキノ視点
「「いやぁぁぁーーーーっ!!!!!」」
私達の叫び声がこの孤児院内に響き渡る。
すると。
突然ピタリと動きを止めるゾンビ化したハンナさん。
「ううううぅぅぅぅっーーーーっ!!!」
すると…ゾンビ化したハンナさんの目からは涙が流れ出したの。
「ハンナ……さん??」
レオン君は焦りハンナさんに呼びかけたの、それに呼応するかのようにハンナさんは苦しみ出す。
もがき苦しむハンナさんに怒りの表情を浮かべるゲルハルト。
「なんだ…貴様……俺様の人形の分際で……貴様…」
ゲルハルトは震える…そして一瞬にして狂気の顔へと変化する。
「ぐああっ!貴様ーーー!俺様の言う事をきけーーー!?」
ゲルハルトはハンナさんに近づくと…思い切り髪を掴む。
力任せにハンナさんの髪をひくゲルハルト。
「酷い!!!??もうやめて!!!」
羽交い締めされているカルマお姉ちゃんの叫び声。
ゾンビ姿ではあるものの…その目から涙を流すハンナさんの姿。
私の我慢も…限界へと達しようとしていた。
彼女はきっと…この自分の行動に、死んでいても、心を痛めてるんだ。
身体が勝手に暴れてしまうのを止めようと必死に戦っているハンナさん。
私の背後からはゾンビなんかにはなりたくはなかっただろうレオン君達の元仲間達が私達が振りほどいても何度も何度も立ち上がり私達に襲いかかってきている。
「み…みんなぁ……やめてええええーっ!!」
叫ぶ私。
もみくちゃにされてるレオン君。
そしてカルマお姉ちゃんも振りほどけない状況みたい。
私の声に気づいて、こちらを見るアンナお姉ちゃん。
「サキノ……ちゃん………?」
私は絡みつかれる彼らに抑えられるも倒れる事を何とか踏みとどまってる。
すると…あの男…ゲルハルトは私に気が付き声をかけてくる。
「おや??強情だねぇ…そんな小さな身体なのに…貴女はどうやら…マジェストとしてその力をレベルアップさせてきたようだなぁ。」
「んんっ!!!」
「ふんっ…この女はな…偽善でこうしてこのガキ共を育ててきたんだろ??俺は元々そんな偽善者ってのが大嫌いでな…この女がしてきた事を考えただけで腸が煮えくり返ってな…この女の全てを壊してやりたくなったんだ。」
私はその言葉に気がつく。
すると…アンナお姉ちゃんも私と同じ事を考えていたみたい。
「あな…た……もしかして……ここを襲ったのは………。」
「くくく…やっと気がついたようだなぁ??そうさ…ここの偽善者女…ハンナはなぁ…俺がずっと目をつけていた…いい女だったんだ。」
「えっ!!?」
「いいだろう…少しだけ…昔話をしてやろう…。」
◇
俺はこの街の資産家に生まれ育ち…何不自由なく暮らしてきたんだ…。
親の金で好き放題、自由に遊んで暮らしてきた俺だがある時、家に帰ると一人の女が親父を訪ねて来ていた…そいつがその女ハンナだったんだ。
俺が いい人を演じて話を聞くと、 ハンナはここの孤児院を切り盛りしてると話した。
だがハンナ一人でいくら働いた所で子供達に満足な飯は、やれてなかったらしい。
俺様はそんなハンナに交渉をしてやる事にしたんだ。
どうせ親父に声をかけた所で…俺様の親父はできた人間じゃねぇ…門前払いがいい所。
俺様がハンナの望みを叶えてやろうとな。
俺様の女になるなら施設に金をやろうと提案してやったんだ。
この俺様が優しさでそう言ってやったのにだ…この女…なんて言ったと思う??
「この女は…この街で悪評高い俺様の女になるくらいなら私はあの子達を連れて、この街を出ます…と言いやがったんだ!!!」
醜悪な表情へと変わるゲルハルト。
するとアンナお姉ちゃんが口を開く。
「ハンナさんは…貴方の玩具になるくらいならこの街を出ていい環境でこの子達を育てたかったのでしょう…私にはハンナさんのその思い…痛いほど分かります!!!」
「なんだと??」
ゲルハルトは、キレ気味にアンナお姉ちゃんの顔を見ている。
「どうせ…このままお前たち三人は…動けず俺様には逆らえず、ここで死を選ぶか…俺様の女になるか…どっちかの選択肢しかねぇんだ。」
ゲルハルトは突然アンナお姉ちゃんの顎を掴んだの。
「グヘヘ…この俺様が直々にまずはお前から……ゾンビにしてやるよ!!!」
そう言うとアイツは狂気の表情へと変えその口からは鋭い牙が見えている。
「さぁ…………しねぇぇぇぇぇ!!!!!」
◇
その時…私の心臓がトクンっと跳ねる。
一瞬意識を失いかけた気がした…そして気がつくと。
カラーウルフが私を守るかのように目の前に立っている。
「カラーウルフ……でも…アイツ…何度も復活するゾンビだし…それに皆捕まってるし…あの子達とそして…『ハンナ』さんも。」
すると…カラーウルフの声が私の頭の中に流れ込んでくる。
(サキノ……貴女ここへ来てどんどん強く成長してきたわね?)
「カラーウルフ??」
(そして皆と過ごし少しづつ逞しく成長しているサキノ…だけど…これまで私は幼い貴女に、力のリミッターをかけさせてもらっていたの。)
「リミッター??」
(そう…幼い貴女の身体に負担のかからない為の制御よ。)
「制御??」
(そう…でもね…前の戦いで貴女は自分からリミッターを少しだけ解除してしまったの。)
「そうなんだ…サキノはどうしたらいい??」
(貴女の今の怒りは頂点に達してしまった…このままではまた…貴女の本来の力を解放してしまう事になる…解放したらまた貴女は倒れてしまう…そしてこれは二度目の解放…どうなるか…私にも分からない。)
私は考える…。
私が出会ってきた皆。
アンナお姉ちゃん…。
カルマお姉ちゃん…。
そして…クロノお兄ちゃん……。
皆の為なら…私。
「うん…私それでも大丈夫だよ…カラーウルフ。皆を守れるなら…私…皆が大好きだから。」
◇
◇
◇
幼いマジェストのサキノの切ない覚悟。
そして卑怯極まりないゲルハルト相手にどうする!?