ずっと一緒
目の前には、人のようななにかが立っていた。
なぜ人のようななにか、と言ったのかというと、その外見が余りにも浮世離れしていて、同じ人間と思えなかったから。
ショートの金髪に、焦げ茶色の目をしていて、ポンチョのような服には仕組みのわからないヒラヒラとした装飾がついていた。
それは、絶世の美少年と言える程整ったその美貌も相まって、神聖さを醸し出していた。
「こんにちは。カエデくんだよね?」
思っていたよりも低い声。
ハスキーボイスの女子よりも少し低音な、と安心する声。
「はい。」
返事をする。すると、それはニッコリと笑った。
「私は…神様です。これから生まれ変わる貴方の為に一つ、願いを叶えます。」
「願い…?というか、生まれ変わるとは?」
神様と名乗った人型の言うことに、不思議と疑いはなかった。
呑み込めないのはその内容であった。
「願いというのは…まぁ、転生特典のようなものだね。」
「転生特典…」
「例えば最強の力が欲しい、とか、女の子にモテモテになり「わかりました!わかりましたから!!」…はぁ。」
中学二年生の頃のノートを目の前で音読されるような恥ずかしさに、堪らず言葉を遮る。
高校生になってもカエデは最強モノやハーレムモノが好きだった。
が、それは隠していたい趣味である。
カエデは中二病を心の底で未だに引き摺っていた。
自覚こそあるものの、趣向は変えられなかった。
と言うか、転生特典なんて例え、僕みたいなオタクにしか通じないだろう…
カエデはそこまで考えて、寒気がした。
予想が外れていることを願った。
「…あの、転生特典ってなんのことですか?」
神様は、僕が転生特典という言葉を知っていることを知っているのか。
僕が自己投影大好きマンだということを知っているのか。
カエデは遅すぎる知らないフリをした。
「あはは、別に恥じることはないんだよ?」
知られている。なんで?の前に来たのはやはり恥辱心。神様、その暖かい目をやめて下さい。
「さぁ、転生特典何がいい?なんでもいいよ?」
「…あの、僕はこれから何処に行くんですか?」
カエデは、恐る恐る尋ねた。
転生と聞いて真っ先に異世界の可能性を考慮出来たのは、中二病患者の業である。
しかしそれは、この場において幸運だった。
「…はぁ、気づいちゃうか。やるねぇ。」
「は…?」
神様は変わらずニコニコと笑っている。
それが恐ろしいものに思えた。
「貴方が行くのは、ハイファンタジーな異世界です。」
「…異世界。」
「はい。そこには魔法があるんですよ?」
カエデは、然程驚かなかった。
…いや、驚いてはいた。が、それを表情に出すだけの余裕がないのだ。途端に心配事が、頭の中へ溢れてくる。
魔法が、とかではない。
…友達ともう会えないだなんて、冗談じゃない!
チリチリ髪の少年と、茶のストレートヘアーの少女が浮かぶ。二人はカエデの親友だ。
自分が一番辛い時期に常に横に居て守ってくれた、唯一無二の存在。
「…決めました。中田明、河辺実来と、一緒に居させて下さい」
「…えぇ。わかりました」
神様は頷いた。しかしその顔はひきつっていた。
「じゃあ、いってらっしゃい」
手を振ったが、カエデの目にはその姿はもう見えない。
…カエデは、“転生”というワードに違和感を覚えなかった。自分が死んだことに、最期まで気がつかなかった。
「追加で二つかぁ。まぁ、一緒にいたほうがいいことだってあるよね。でもなぁ…いいや、でも可愛い人間の頼みだし、やるよ、私。」
目を向けたのは、燃え上がる木造の校舎。
…の、二階の廊下部分。
そこには煙の中を走る少年と少女がいた。
少女が少年の手を引き、少年は、大火傷を負った同年代の子どもを俵担ぎしていた。
子どもの呼吸はもう、止まってる。
気付いちゃいないが。
「アキラ!非常階段は!!」
「三階の、丁度今居る辺り!後ちゃんと口ふさげ!!」
「わかってる!!」
一階への階段はもう既に火に巻かれ、とても使える状態ではない。二階ですら、もう火の手はそこにあるのだ。
階段を駆け上がり、三人…いや、二人は三階へ。
その時。
大きな音を響かせ、近づいてくる天井。
それから一瞬遅れてくる浮遊感。
鋭い木片が宙を舞った。
今日の午後六時頃、〇〇県××市の鹿子木高等学校にて火災が発生しました。
火は一時間程燃えた後に、校舎の全壊によりつい先程鎮火されました。現在生徒三人との連絡が取れておらず…