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ラジオにまつわる百物語

作者: 超プリン体

なろうの「夏のホラー2022」参加作品です。

 古い木造の家の2階の自室で、あたしは机の上のノートPCの画面を眺め、ため息をついた。


「はあ。今年のなろうのホラー小説のテーマは、ラジオ……、か。あたしラジオなんて聞いたことないし、何も思いつきそうにないなあ。これまで夏のホラー企画にはずっと参加してたけど、今年はパスかな」


 うーん、と言いながらあたしは髪の毛をボリボリとかく。


「そうだ、『ラジオ』で検索してみよ」


 ネットブラウザを開いて「ラジオとは」、でぐぐってみる。ウィキの解説を読んでみるけれど、やっぱりピンとくる感じが何もなかった。あたしはまたため息をついた。


「はあ。大体ラジオにまつわる怪談なんて、聞いたことないし。きっと誰も書けないよ。うんうん、そうに決まった。今年はパスパス!」



 そこで誰かが、あたしの部屋のドアをノックした。


こんこん。


「だ、誰かいるの?」、とあたしは声をかけた。


 あたしはその家に、両親と三人暮らしで、今は両親は仕事に出ていて、家にいるのはあたしだけのはずなのだ。


 だが、ドアはがちゃりと開いた。


「あなたは……」


「おいおい、お前、アニキの顔忘れたのか?」


「アニ……、キ?」


 長身で、黒いパンツに白いワイシャツ。さらっと長い髪は茶色に染めていて、目は近眼なのか眼鏡をかけている。潔癖そうで、デスノートの主人公を思わせるようなイケメンだ。あたしにこんなアニキいたっけ? うーん、思い出せない……。でもいたって言われればそんな気もする。なぜ忘れちゃってたんだろう。


「あ、ご、ごめん、ちょっとぼうっとしてた。で、何の用?」


「うん、廊下を歩いていて、たまたま声が聞こえてね。ラジオにまつわる怪談を書くのかい?」


「ううん、書こうと思ってたけど、ラジオなんてよく知らないし、大体ラジオの怪談なんて、考えるの無理かもと思って、パスしようって決めたとこ」


「そうか、それは残念。僕はラジオについての怪談に詳しくてね、参考になりそうなら披露しようかなと思って声をかけたんだけど」


「えっ! ラジオの怪談なんてあるの? あったら全部教えて! 知ってるお話全部!」


「あるよ、百話ほどね」

「百話も? すごい! それ全部教えて! PCでメモするから!」


「わかった。じゃあ、ラジオ百物語を始めよう」


アニキはどかっと、あたしのベッドに腰を下ろした。ニヤリ、とアニキは少し笑ったように見えた。



◇ ◇ ◇ ◇


 それからしばらく、アニキはラジオにまつわる怪談をしゃべり始めた。あたしはその話を、カタカタカタとノートPCに打ち込んでいく。長い話や短い話、色々あった。


 だいぶ時間が経っているはずなのだけど、窓の外は明るいままだ。おかしいな、とあたしは目覚まし時計を見たけれど、秒針がさっきからずっと止まっている。PCの画面の時刻表示も、何やら不気味に文字化けしてしまっている。ふっと手をとめて、アニキの方を見ると、アニキは身振り手振りを交えながら、何かに憑かれたように、空中を見つめながらラジオ怪談をしゃべり続けている。いけない、メモらなきゃ。あたしは再びPCに向き直り、タッチタイプに集中した。



 1話につき1ファイル、メモ帳で記入して保存していく。ファイル名には、怪談の番号と、タイトルをつけてある。今メモってるのは、34話目だ。アニキの話が終わり、あたしはそのファイルを保存した。



「第35話、ラジオを持った霊」


アニキが次の話を始めた。あたしはファイルを新規作成して、「第35話、ラジオを持った霊」、というファイル名にして、それを開いた。


「それはある夏の夕暮れのことだった。俺は仲間数人とともに、河原にキャンプに出掛けた。テントなどの道具は、友人が家から持ち出してきてくれたものだ。ちょっと空模様が怪しかったんだけど、俺達はあまり気にせず、河原にテントを建てて、ワイワイ騒いでいたんだ」


 カタタタタ、カタタタタとあたしの指が、キーボードをたたき続ける。


 指が痛い……。こんなに大量の文字を、こんな短時間で打ったのって、初めてな気がする。いつまで続くんだろう。まだ35話だ。



◇ ◇ ◇ ◇


「第99話、夜の首都高速での死のドライブ、お(しま)い」



 何時間経ったのだろう。やっと99話目が終わった。あたしの指の感覚は、もうだいぶ前からない。いや、手だけじゃない、あたしの心は99話目の怪談の内容に、動揺していた。


「あ、アニキ、今の99話目の怪談って……」


「うん、今のは実話だね。去年の今頃、僕と君は夜の首都高をドライブしていた。そこで君が僕の運転している車のハンドルをつかんで、車を壁に激突させたんだね」


「いや、いや、聞きたくない」


 あたしは耳をふさいだ。


 そうだった。アニキは去年、あたしと一緒に首都高で事故って、そして死んだんだった。あたしはそれを忘れたくて、アニキの存在を、あたしの記憶から消し去ってしまっていたんだ。1年たって、ようやく忘れられてたのに!



 アニキはベッドから立ち上がって、椅子に座ったあたしのそばに立った。あたしが耳をふさいだ手を、やさしくどかせて、アニキは言った。


「だめだ。聞くんだ」


「うう、兄さん、ご、ごめんなさい」


「いいんだ。君のせいじゃない。僕が悪かったんだ。君があんなに怖がると思わず、首都高にまつわる怪談なんて、はじめちゃったからね、それはもういいんだ」


 兄さんに両手をつかまれたまま、ぼろぼろと涙を流す私。違うの、違うの兄さん、そう言いたいけど言葉が出ない。兄さんは続けた。


「でね。今日は君を迎えにきたんだ」


「え?」


「大好きだった君に殺されて1年。ずっと僕はさびしかったんだ。それでね、何とか君にも、霊界に来てもらう方法がないか、調べていたんだ。そして、つい最近みつけたんだ、その方法をね」


「あたしを、霊界に? あたしを殺すってこと?」


「そうしたくはないけど、結果的にはそうなってしまうね」


「その方法って、もしかして、百物語……」


「そうだ、察しがいいね。百物語を君に聞かせることが、その方法だよ。百話目を僕が君に聞かせ終えた所で、何かが起こるらしい」


「いや! いや! 兄さんやめて! 聞きたくない!」


 耳をふさぐために、つかまれた両腕を振りほどこうとするけれど、兄の力はものすごく、どうしても振りほどけなかった。さらに、兄は言った。


「もう遅いんだよ。もう百話目は始まっているんだ」


「えっ?」


「第百話、『ラジオにまつわる百物語』、終わり」


 その瞬間、あたしの目は見えなくなった。周囲が突然、闇に包まれ、あたしは気を失った。



◇ ◇ ◇ ◇



「あれ? 兄……、さん?」



 夢だったのだろうか。


 兄さんの部屋、兄さんの椅子、兄さんのノートPC。机の上が、あたしの涙らしき液体でぬれている。PCの画面、99まで番号が振られた怪談の記入されたファイルが表示されている。夢じゃなかったんだ。



 正面の窓が開けられ、風でカーテンが揺れている。外はまだ明るい。目覚まし時計の秒針は、今は確実に時を刻んでいる。



 兄さんは、あたしがいなくて寂しいって言ってた。あたしを憎んで、恨んでいて殺しにきたのではなくて、本当によかった。


 でも一つだけ伝えられなかったことがある。あたしはあの日、兄さんと首都高でドライブをしていた時、兄さんの怪談が原因で、パニックになったのではなかったのだ。原因は、その怪談に引き寄せられて現れた、首都高で亡くなったドライバーの、霊達だった。兄さんには聞こえなかったかもしれないけれど、カーラジオから突然、悲鳴やら絶叫やら、恨みやそねみのおぞましく恐ろしい声が、大音量でなり始め、車の周囲を大勢の亡者が取り囲み、車体をバンバンと叩き始めたのだった。


 さらに恐ろしいことに、車の前方から、巨大な化け物のような、邪悪な黒い鉄と肉の塊のようなものが、あたしたちの車目掛けて、ものすごいスピードで突っ込んできたのだ。あたしがハンドルを強引に切って車を横に動かそうとしたのは、その化け物からよけるためだった。


 でも、その化け物にはぶつからなかったものの、兄さんは運転を誤って、壁に自動車を激突させてしまった。その際、兄さんがあたしだけでも助けようと、兄さん自身を犠牲にしてしまったことを、あたしは知っている。だから兄さんが亡くなったのは、あたしのせいなのは事実だ。


「兄さん、ごめんね。でも、兄さんのこと思い出せてよかったよ」



 今年は兄さんのお墓参りにいこう。なろうの「夏のホラー2022」には、あたしのこの体験を投稿しよう、とあたしは思った。


(お終い)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラジオをこのような形で使って来るとは。 真相も意外だったし、情もある話しで、それでいてホラーでした。 [気になる点] 第35話にもっと肉付けして、他にタイトルだけの話しも4つ5つ加えると、…
[良い点] お兄さんはずっと自分のことを引きずっている妹さんが心配だったんでしょうね。 ホラーだけどしんみりしてしまいました。 [気になる点] 首都高で起きたことは何だったのでしょう… ゾワッとしまし…
[良い点] 怪談を語ったり収集したりすると、それに惹きつけられるように此の世ならざる者が現れ、心霊現象を引き起こす。 百物語や学校七不思議を始めとする怪談関連の怪現象は、言霊信仰の一種とも解釈出来そう…
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